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GS美神 リターン?

 Report File.0021 「初実戦! オフィスビルの悪霊を除霊だ!! その2」
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「聞こえる!?悪さするのもいーかげんにしなさい!!おとなしく成仏すれば良し!さもなければ力ずくで排除するわっ!!」

 令子がこの場に居るであろう悪霊に啖呵をきった。

「おーい、成仏するなら今のうちだぞー。美神さん怖いからなー」

 それに追従するように横島が締まらない内容で警告した。

しーーーーん

 横島の言葉に令子は青筋を立てていた。が、

「「!!」」

”美神さん!!”

 上に異変を感じた瞬間、3人はその場から飛びのいた。これにより横島の言動に対する制裁タイミングが流れてしまった。横島にとってはラッキーだっただろう。

ガラガラガラーッ!!

ズガガガーーッ!!!

 その途端、先ほど居た場所の天井が崩れ、次々と瓦礫が雨あられと降ってきた。

「どわーーーっ!!」

 横島は必死に瓦礫から身をかわした。

「ちっ!!」

 令子も何とか身をかわした。

”あっ!天井が崩れてエレベータの入り口が!!”

 キヌは幽霊なのでそんなに危機感はなく冷静だった。

「って、ことは?」

”残る武器もお札もエレベータの中に・・・”

「やられたわね・・・最低装備だけか・・・やれるかしら?」

 いきなりの戦力減に暗い雰囲気が漂う。

”けーーーっけけけ、けけけけっ!!

 それに追い討ちを掛けるかのように悪霊が渦巻きながら現れた。

「「!」」

”けけけっ・・けけ、けけけけけ”

 悪霊は頭の部分を頭蓋骨の形で固定し他は辛うじて人型をとっていた。

”けけ”

 一瞬、令子達のほうに顔を寄せて引っ込んだ。かと思うと、

”けけけけけけけ”

ガンガン、ガンガンガン

と壁に頭を打ち付けて暴れた。

「・・・人格が崩壊しちゃっているわね・・一番やっかいなタイプか」

 令子は少し困った表情で言った。

「初実戦がアレですか!?」

 横島はアレな様子を見せる悪霊をみて相手したくないと切に思い言った。しかも、前に悪霊のタイプで一番嫌な相手と説明され脅されていたのである。そりゃ、GSに死者もでるわと納得するぐらいには。

「良かったじゃない、これ乗り切れば、次ぎから楽よ?」

 慌てる横島に令子は余裕を見せるように言ってのけた。装備が万全であれば余裕をもてるが残念ながらそうじゃなく、令子にも多少は不安を感じていた。だが、自分が不安を見せれば横島もまた怖気づくのだ。それは師匠としての、何より美神令子という自分自身の矜持がそれを許さない。

「気楽に言わんで下さいっ!!」

 横島は叫んだが令子はその様子に空元気はあると確認して腐っても男の子よねと思った。

”けーーーーっ!!”

 令子たちのやり取りもそこまでだった。先程まで壁に頭を叩きつけていた悪霊が目標を変え令子に襲い掛かったのだ。令子は焦らずに神通棍を構え待ち構えた。

バシィッ!!

「くっ!」

「わっ!」

バチッ!バチバチバチッ!

 令子は悪霊の攻撃を受け止めた。その際、悪霊の攻撃が思ったよりも大きいと感じて神通棍の切っ先部分に手をそえ両手で受け止めた。横島は悪霊の余りの迫力ある攻撃に腰が引けた。

”けけけけけけけっ!!”

 悪霊の笑い声と共にただでさえ高い霊力・霊圧が増す。

バチバチバチッ!!バチバチバチバチッ!!

「やだ・・・!!つ、強い。パワーが足りない。このままじゃ押し切られる!!」

 令子は神通棍で悪霊の攻撃を抑えきれず押されて強制的に仰け反りそうになっていた。

「うぉーーっ!させるかっ!!」

 横島は無謀にも悪霊に向かって突っ込み神木刀を振るった。幸いにも悪霊は人格が崩壊しているお陰で、知能は無いに等しくなっていた。その結果、令子に攻撃を仕掛けることに夢中で、横島には注意がいかなかった。

ザシュッ!

「ふっ、やった」

 そうなれば当然ながら、横島の斬撃はまともに命中し、悪霊に対し大ダメージを与える事が出来た。その事に単純に横島は喜んだ。

「このおバカ、今のうちに早く離れるわよ!!」

 そんな悦に入ろうとした横島を軽く小突くと退避を促した。

「何でですか!?」

 わけが分からんながらも令子の言葉に従い逃げ出す横島であった。キヌも今の状況では何の役にも立たないと黙って着いていった。

「横島クンの攻撃が効いてないからよ!」

「ま、まじっすか!?でも確かに手ごたえが・・」

「神木刀にうまく霊力を流せなかったから大してダメージが与えられなかったの。まあ助かったから最低限の役目は果たしているけどね」

 悪霊から距離をとりながら令子が状況を説明した。

「けけっ!?」

 悪霊は混乱しているのかキョロキョロし始めた。悪霊が行動できるようになった時ぎりぎり廊下を曲がり、姿を隠す事が出来た。

「あーやばかった!私の神通棍が役に立たなかったわ。不味いわねー」

 とりあえずの危機回避に令子は一息ついた。

「不味いって、どーいう事っすか?」

 横島は手にした神木刀から霊気は感じる。これでまだ使いこなせていないという言葉に横島は困惑した。

「つまり、下手すると私も横島クンも殺されちゃうってことね」

「なるほど」

「第一、逃げるって言ってもこの階の最後の移動手段であるエレベータもさっき壊されたし」

「そーなんすか・・・って何ですとー・・むぐむご」

 横島が逃走ルートがないと聞いて、驚きの声をあげようとしたのを令子に口を手でふさがれ途中で止められた。

「しーーっ!静かに・・しかし、一億じゃ安かったかもしれないわね」

 令子は悪霊の居る方に顔だけを覗き込ませて様子を確認した。どうやらこちらに居ると感づかれる事はなかったようだ。相変わらず悪霊はけけっ、と叫びながらわけのわからない行動をしていた。今の所こちらに来る気配はない。

「え゛・・」

 令子の言葉に横島は驚愕し手に持つ神木刀を震わせた。

”大丈夫!死んでも生きられます!!ちょっと死ぬほど苦しいけど・・結構楽しいですよ幽霊ライフ”

 キヌはにこやかに言った。キヌが実践しているだけに実感のこもった言葉であった。

「・・やかましいっ!!本当そうなだけに怖いんじゃ!!」

 横島はいや過ぎる幽霊ライフ像に御免こうむると怒鳴っていた。

バキッ!

「・・静かにしなさい」

 アレほど静かにしろといったのにと青筋を立て横島を睨んだ。

「す、すんません・・」

 令子に睨まれ、殴られた所がジンジンと痛むがそんなことも忘れて横島は冷や汗を掻いた。

”そこまで言わなくても・・・グスン”

 横島の態度に涙ぐむキヌ。

「あわわ、ごめんおキヌちゃん」

 言い過ぎたと横島はキヌに謝った。

「参ったわ。採算度外視すれば勝てるのは確かだけどそれじゃあプロとしてはダメなのよね・・・」

 令子は悪霊の様子を覗き込みながら思案顔で言った。自分の切り札としてアクセサリにしてある精霊石を使えば何とかなる。が身に着けているのは高純度な精霊石。ネックレスにしているのはまだ比較的に入手しやすく安価に手に入るものだがイヤリングに使っているのは時価で最低でも億単位の代物だ。滅多に手に入るものではないから本当に危ないときにしか使いたくない。それに令子はそこまで追い詰められているとは思っていない。

「だからって俺、命が惜しいですよ。だいたい、さっきの様に天井を崩されたらたまりませんよ・・・」

 令子の言葉に反応して横島は言ったがそれはぼやきに近かった。

「それについてはアイツ、バカだから直ぐには気付かないわ。多分・・・」

 令子はそれについては悪霊の行動が読めないだけに不安要素ではあった。

「運任せってことですかね。・・死ぬのはイヤだな・・・」

 横島はどうしようもない状況に溜息を吐いた。

「それは私だって一緒よ。生き残る手段があるなら躊躇しないわよ。・・あーあ、エレベータに置きざりにされた荷物の中に1枚8千万円の超強力な破魔札があったんだけど。今更、どーしよーもないのよね・・」

 令子は無い物ねだりねとは思ったが言った。しかし、8千万円の超強力な破魔札・・1億のギャラに使うとなるともったいない。・・もったいなさ過ぎる。

「何がもったいないんすか?」

「えっ?」

 令子はしまったと思った。最後の方の思考を声に出してしまったようだ。何でもないとごまかし思案顔をする。

”私はエレベータに潜り込めますけどその破魔札が隙間を抜けれるかどうかはわかりませんよ?”

「そうね、確実性に欠けるものに頼るわけには行かないわ。それでダメでしたって時は命取りになるもの。今あるもので切り抜ける事を考えましょう」

 どっちにしろ元々の依頼料は半分の5千万円だったのだ。なら、5千万円内の損失に抑えねばならない。依頼料内で仕事をこなしていかねばこの稼業はやっていけないのだ。

「どうしようってんですか?」

 横島は不安そうに聞いた。

「アイツに対抗するためには横島クンにも手伝ってもらわないといけないわ。横島クンは今回が初の実戦になるけど」

「でも、俺の神木刀はあんまり効いてませんでしたよ?」

 横島は神木刀を見つめて言った。

「今さっきのは横島クンがうまく霊力を神木刀に通す事が出来なかったからよ。貸してみて。それから悪いけどおキヌちゃんはアイツを見つからないように見張っていて」

 令子は横島から神木刀を受け取りながらキヌに指示を出した。

”はいっ!”

「念の為、簡易結界を作るわ。少し待って」

 令子はポケットから赤いチョークを取り出して魔法円を描いていった。

「見ておくのよ?しっかり霊力を乗せればこうなるわ」

 令子が魔法円の中に立ち神木刀を持ち集中する。すると、神木刀の刀身部分が淡い青白い霊光に包まれた。

「凄い」

 横島は軽い調子で神木刀を使いこなす令子に驚嘆した。

「横島クンにだって出来るわよ。やってみて、少しだけ練習しましょう」

 そう言って令子は横島に神木刀を渡し魔法円に入れた。

「でも美神さん、これだったら美神さんが使ったほうがいいんじゃないですか?」

 先程の令子の様子を見て横島が疑問を口にした。実際、令子が神木刀を使ったほうが有効そうだと感じたのだ。

「そうね、あのタイプの悪霊じゃなければそうしてたかもね」

 令子も横島の意見にさもありなんとうなずいた。

「どういうことです」

「あのタイプだと行動が読めないのは横島クンにもわかっているでしょ?」

「はい」

「で、それなのにパワー自体は目茶目茶に強力なのよ。多分、私が神木刀を使ったとしても対抗できない。それから行動が読めるなら、それなりに対策練れば、そんなパワーの差を補ってなんとかできるけど、読めないからそれも出来ない。でも、アイツは攻撃してくる時は、単純で単体にしか仕掛けてこない。こちらは私と横島クンが居るんだから戦力は均一化していたほうが良い。どちらが攻撃されてもこれだと一定レベルのダメージを与えれるわ」

 令子は横島が神木刀を持ったほうが良いという理由を説明した。

「・・理解できない所もありますけど、俺が神木刀を使ったほうが良いというのは判りました」

 横島はそう言って神木刀を構えて精神集中した。

「さっきも言ったように前に神通棍の使い方を教えたでしょ。それを思い出してやってみなさい」

 令子は未だ霊力のコントロールに難のある横島にイメージしやすいようにアドバイスをした。

「あの時はどうしたんだっけな・・・」

 横島は神通棍の使い方を教えてもらった時の事を思い出そうとする。

(確か、あの時もうまく神通棍に霊力を流し込めなくて手間取ったんだよな。それで何度か殴られてそれでも出来なかったっけ。そしたら、美神さんが俺の背後から、密着してコーチしてくれたんだよな。あーあん時の胸の感触がたまらんかったな・・・)

「でへへへ・・・」

 横島は思わずニヤつき顔を崩した。その瞬間、神木刀が光り輝きだした。横島は回想(妄想?)に夢中だったので気付いていないが令子が使った時よりもはっきりと輝いていた。

「成功したのはいいけど何か納得いかないわね・・・」

 令子は自分が使った時よりも強い力を発揮している事に、別段ショックを感じてはいなかった。それは予想できていた事だからだ。元々、潜在的に自分よりも上を行くと感じていたのだから。それについては嫉妬心がないわけではないが負ける気もしていない。何れ自分を追い抜くかもしれないがそれは可能性があるというだけ。スポーツでも潜在能力が高いからといって必ずしも成功しないのと同じだ。力が負けているならそれを補う術を磨けばいいだけの事と令子はあくまでポジティブに捉えていた。

「出来ました!美神さんっ!!」

 横島は嬉しそうに言った。もうコツを掴んだらしくそれなりに扱う事が出来そうだった。

「そう良かったわ。(ほんと良かった・・。アイツはさっきの行動で一番強力な者に仕掛けた節があるからこれで多分横島クンを狙うわね。横島クンには悪いけど囮になってもらいましょう)」

 何気に外道な令子であった。

「あのでも、決め手にかけるんじゃないですか?」

 横島は神木刀をうまく使えた事でいくらか気が楽になったのか自分の気になる点を述べた。

「それについてはこの精霊石を使うわ。ある程度、弱らせた所でこれを食らわせればそれで決着がつくわ」

 令子は身に着けていたネックレスを見せていった。

「精霊石って、前に聞いた事はありますが実物見るのは始めてっすよ」

 そう言って横島はしげしげと精霊石を見詰めているように見せかけて令子の胸元を見ていた。

「・・・(こいつは)」

 横島の様子から明らかにこいつの霊力の源は煩悩だ。そんなのから生み出される霊力が神木刀に使われるのはある意味罰当たりではなかろうか?などと思ってしまう令子だった。それでも神木刀が正常に機能している所を見ると、どんな経緯で生み出されたものでも、霊力は霊力として変わりないのだろう。

 多少不安を感じるものの、これで態勢は整ったと考える令子であった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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