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GS美神 リターン?

 Report File.0010 「横島の学校生活 その1 〜 転校生はハーフ」
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「おはよう」

「おはようございます」

「ねえねえ、昨日のドラマ見た?あれで・・・」

「おはようさん。どや、あれから・・・」

「おっす」

 朝、教室に生徒が集まり、挨拶や昨日の話題等で盛り上がるなどのどこの学校でも見られる風景の中、机に突っ伏して寝ている奴が居た。皆さんの予想通り横島である。遅刻する事は数あれど今日の横島はクラスの誰よりも早く登校していたのである。これは非常に珍しいというか初めてである。もっとも未だ入学して間もないので珍しいと言えるかは微妙だが彼の学校に通うという期間(小学校から高校)で考えればその言葉は正しいと言えよう。

 その横島、周りが騒がしくなっても突っ伏したままであった。何を隠そう彼はGSとしての初仕事を行いそれが片付いたのが今日の朝だったのだ。そのような状態では学校は遅刻どころか欠席は必至。そうなれば母親にばれた時が恐ろしいと思い、眠気と戦いながら何とか教室にまでたどり着いたはいいがそこで力尽きたのであった。

ぐおーーー、ぐおーーー

 横島の周りに彼のいびきだけが響いていた。

「なんか、珍しい奴がこの時間に居ると思いましたが寝てるね」

「私が来た時からそうよ」

「確か横島って時間ぎりぎりにいつも来てなかった?」

「何時もと違う行動とられると困るのよね」

「そうね、彼が来れば大体あと3分ぐらいかなって思うもの」

 等の会話がなされている等横島の想像の埒外であった。

ピクッ

ガバッ!といきなり勢いよく横島は上体を起こした。

「うわっ!」

「きゃ!」

 その行為は周囲に居たクラスメート達を驚かせた。

 横島はそんな周りの事を気にしていないのかそのままキョロキョロと辺りを見渡した。しばらくして腕を組み頭をかしげた。

(おかしい・・・さっき、悪霊かそれに似た気配を感じたような気がしたんだけどな・・・でもあれは悪霊とかというより人間としての危険への警鐘みたいなものだったかもしれん)

 横島は今までの短い人生経験のなか両親からの教訓等で異様なほど危機回避能力(身体のみ)を身に着けていた。その経験上からのモノだった気もする。

「お、おい?横島、大丈夫か?」

 クラスメートの一人が恐る恐る尋ねた。

「ん?ああ、すまん。驚かせちまった?ははは・・・」

 横島は周りに居たクラスメートの表情から状況を察知して笑ってごまかした。

(言えんよな。生存本能が人にとって危険なものが近くに居ると訴えて来ていたから起きましたなんて・・・一瞬だけだったけど)

 しかし、令子の下でGSの修業を始めてから妙に感覚が研ぎ澄まされてきている横島は気になった。

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫だって。それよりそろそろホームルームじゃないか?」

「ん?そうだな」

 クラスメートがそう返事をしたと同時にチャイムが鳴った。それと同時に集まりあっていた幾つかのグループが自分の席に移動し始めた。

(唐巣神父に出会ったあの日から確かにへんなもん(浮遊霊)とかも見えるようになってしもうたからなー、まあ、目や耳なんかも鋭くなったみたいやから覗き(←犯罪です)なんかには役に立っとるけど)

ガラガラガラ

 横島が物思いに耽っていると担任の先生が入ってきた。

(ん、何か知っている奴の気配がするな・・誰だ?)

「きりーつ、礼、着席」

 横島が気になる気配を探ろうとしたときお決まりの号令があり、反射的に従った。

「あー、おはよう諸君。えー今日は何時もと違って転校生の紹介をする!」

 担任の先生の言葉に一気に教室がざわめいた。

「転入生?この時期にか?」

「男か?女か?」

 等の会話が飛び交っていた。横島も似たような会話をクラスメートとしていた。

「なあ、横島どう思う」

「ん、ああ女やったらいいな。それもかわいい」

「そうだよな。男だったら畜生!」

 類は友を呼ぶのだろうか似た様な思考をする者と会話していた。

「あー皆さん、静粛に。転校生、入ってきなさい」

 ざわめく生徒を静め担任は転校生を呼んだ。

ガラッ

 現れたのは西洋系の顔立ちと肌、金髪で物語にしか出てこないような美形の男だった。その男は入って来るとぺこっと恥ずかしそうに会釈した。

きゃあーーっ!

 クラスの女子達の黄色い声が聞こえていた。そんな中、横島も入ってきた男に驚いていた。

「あ、ああーっ! て、手前は確か・・・」

 ただし、何度か会っているのに直ぐに名前が出てこなかった。

「お久しぶりです。横島さん」

 転校生は緊張していたのか知った顔を見てそれを解いた。

「ピッ、ピート!?」

 やっと思い出した横島が名前を言った。

「はい、そうです」

「な、なんでお前がここに・・」

 横島は疑問を口にする。

「それは横島さんが・・・」

「えっ、俺?」

「(しまった。この横島さんは覚えていないんだ)ち、違います。違いました。兎に角ですねここに転校してきたのは僕の志望に関係するんです。」

 うっかり、本当のことを言いそうになった事に気づいたピートは必死に誤魔化した。

「おや、横島君と知り合いだったのか。すまないが積もる話は休憩時間にでもしてくれ。ブラドー君、自己紹介をしてくれないかね?」

 担任は聞いていると何時までも終わりそうに無いので会話を切って転校生ピートに自己紹介を促した。

「あ、すいません。ピエトロ・ド・ブラドーです。よろしくお願いします」

 そう言ってピートは礼をした。

きゃあーーっ!

 再びクラスの女子達はピートが美形でありながら初々しい雰囲気をかもし出すのを見て黄色い声をあげ、胸を高鳴らせていた。

 その様子にクラスの殆どの男子(横島も含む)はピートを敵と認識した。

「なんかむかつくな」

「ちくしょー、なんだかちくしょー」

 その中でも横島と会話していた男子と横島が一番敵視していたといえるかもしれない。

「あー、彼は特殊な出自なんだが仲良くやってください。ブラドー君の席は横島君の後ろに用意しているのでそこに座るように、以上。あー、ブラドー君への学校案内等の面倒は横島君が見るように」

 そう言って担任はそそくさと出て行った。

「「「「「特殊な出自!?」」」」」

 クラスメート大半の疑問を解消しないまま担任が出て行ったため、そのまま視線はピートではなく横島に注がれた。初対面でいきなり聞きにくいことを質問しづらかった事もあって知り合いで事情も知ってそうな横島に視線が集まった次第である。

「な、なんだよ?」

 いきなりの注目に横島は身を引いた。話の流れから大体聞きたいことは判るがあえて言った。

「横島君、ブラドー君の特殊な出自って何?」

 意を決したクラスメートの女子の一人が横島に聞いた。

「そんなもん、本人に聞けばいいじゃないか」

 横島はすげなく答えた。

「だって・・(ちらっ)・・本人に面と向かっては聞きにくいんだもん」

 ポッと頬を染めながら女子は言った。見られたピートは好奇の視線にさらされ照れていた。

「気持ちはわからんでもないがプライベートなものでもあるからな・・・」

 ピートを敵視する気持ちを持っていてもその事情を話すには問題が多いよなと考え渋った。

「そこを何とか、ねっ!」

 しかし、女子は未だ短い付き合いとはいえ横島の性格はある程度、把握していたのかウィンクして胸の下に腕を組んで見せた。その効果は抜群で横島どころかその周辺に居た男子も鼻の下を伸ばした。

「いや、でもな・・・おい、ピートいいのか?」

 言うか言わぬか葛藤に喘いだ横島はピートに聞いた。

「別にいいですよ。それ程、隠す事でもありませんから」

 ピートは横島に微笑みながら言った。

「まあ、良いって言うならとめないけど。こういうのは自分で言った方がいいんじゃないか?」

 横島はまっとうな事を言った。

「そうですね・・・実は僕、バンパイア・ハーフなんです」

「「「「「バンパイア・ハーフ!?」」」」」

「っていうとあの映画とかでも有名な?」

「美女の血を吸うって言うあのバンパイア?」

 クラスはピートの告白で騒然となった。人とは違う者。少し皆は引いた。ピートは少し悲しい顔をした。だが、そんな空気も気にせず話しかけるものが居た。横島である。

「ところでピート。何でお前が転校してきたんだ?さっき途中まで言いかけてたのが気になったんだが」

 横島はピートに疑問の答えを求めた。

「それなんですが。横島さんの美神さんへの弟子入りが切っ掛けです。そのー、僕の志望はICPO(国際刑事警察機構)の超常犯罪課なんですが…」

「超常犯罪課?ああ、通称”オカルトGメン”か…」

 横島が最近、令子からGSに関わる組織について講義されたのを思い出しながら言った。背後ではピートの意外な志望を聞いてざわついていた。

「ええ、その募集要項に”要・高卒資格”って有るのに気がついたんです」

「そうか、そういえばピートはあの学校もない孤島で育ったって言ってたもんな・・・」

 横島は腕を組んでうんうんと納得したと頷いた。

(横島さんにそこまで話していないような気もしますが・・・所々で記憶は残っているのだろうか?)

「まあ、そういうことです」

 ピートはそう言って笑った。

「あのー、つかぬ事をお伺いしますが」

 横島に話しかけた女子がピートに恐る恐る話しかけた。

「何ですか?」

「オカルトGメンてことはGS資格を持っているんですか?」

「いえ、まだそれは持っていないんです。多分それは横島さんと同じ時期に資格試験を受ける事になると思います」

 ピートはそう答えた。

「「「なにっ!あの横島がGS資格試験を受けるだとっ!」」」

 ピートの答えも出自も問題にならないような叫びをクラスの何人かがした。クラスの横島の評価がどんなものか窺い知れよう。

「横島、貴様がGSになるだとっ!信じられん!」

「まだ、そうなるとは限らないわ。資格が取れてからの話ですもの」

「確かに横島があの超難関のテストを受かるはず無いじゃないか」

 等色々と口々にクラスメート達は叫んだ。

「わるかったなっ!覚えてろよっ!おまえらっ」

 横島が余りの言われように叫んだ。

「横島君がGS資格とれたらデートぐらいしてあげてもいいわよ」

「俺は昼飯にスペシャルランチをおごってやる、まあ無理だろうけどな」

 横島の叫びに対しクラスメートは口々に言った。

「お、おまえらな・・・」

「まあまあ、抑えてください。みなさん、言うほど悪気は持ってないんですから」

 拳を握りフルフルと震えている横島をピートは宥める。

「ぜってえ、見返す」

 ボソッと横島はつぶやいた。

「ところでピートさんはなぜオカルトGメンて所に入ろうと思ったんです?普通にGSしていればいいのに」

 ささやかな疑問をクラスメートの一人が聞いた。

「その・・国境や貧富の差にとらわれずに人の為に働きたいんです」

 ピートは照れながら言った。

きゃぁーーーっ!か、わっいいーーっ!

ステキーー!

その様子がクラスの女子に受けた。最初に異種族と聞いて引いていたのが嘘のようであった。これも横島とのやり取りのお陰だろう。

(・・・なんか初めてだ。こんな大勢に受け入れられたの。転校してきて良かった。感謝します、神よ)

 ピートはそんなクラスメートの様子に感動していた。

「ピーートーー、もてるじゃないか」

 おどろおどろしく横島が言った。まさに嫉妬全開だ。

「よ、横島さん!?」

「くっ、くっ、くっ、ピート、手前はまだ転校生として、いや、一般的な学生としても、カッコよく美男子ぶって鼻につくことを抜かす奴はイジメに遭ってつつき出されるのが日本の学校の掟なんじゃーー!!ふふ、ふはははは、はっ、はっ、はっ、ぐぉ、ぐはっ!」

ガシッ、ガシッ、ゲシッ、ドガッ

 横島の高笑いを止めたのはクラスの女子達であった。横島は女子達に制裁を受け血だらけになって教室の床に沈んだ。

「ピート君をいじめたら女子生徒全員を敵に回すと思いなさい」

 女子代表から高々と宣言された。その言葉からどうやらピートは女子には受け入れられたようだった。また男子は横島を見てああはなりたくないと思った。

「は・・・はい・・・(お、おのれ、貴様等は何れこの借りは覗きか何かで返してもらうからな)」

 横島は制裁に朦朧としながら返事した。

「兎に角、皆さん、これからよろしくお願いします」

 ピートはそう言って頭を下げた。

「まあ、横島君がこんなだから昼休みに私が学校案内してあげるわ」

「あー抜け駆けはずるいわ」

「そうよ、くじ引きで決めましょ」

 等、ピートの世話を誰が焼くかと早速、騒ぎになっていた。

(何とかうまくやっていけそうだな・・・良かった。これも横島さんのお陰かな?)

「よろしくお願いしますね、横島さん」

 感謝の念をこめて横島に声を掛けた。

「・・・誰がじゃ・・・」

 そう言ってもう限界と横島は意識を手放した。

 これがピート転校時の騒ぎの顛末であり、横島を中心としたこの学校における輝ける騒動の日々の幕開けでもあった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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