「日本語を書く」 NTR NEWS No.33

 最近、国内でも、色々な場面で、子供たちに対する教育のあり方が盛んに議論されるようになったが、小学生から英語を学ばせるのが良いのか、あるいは日本語としての国語を正しく理解させ身につけさせるのが良いのか、それぞれの学識者や有識者の間でも熱のこもった議論となっているようである。さて、今回は、このような状況をもっと身近な我々の仕事の中で考えてみようと思う。

 我々の分析会社は、お客様のご依頼に対して、仕事を行った製品として分析や測定の結果を報告書の形でお渡しする。その中には、お客様からのご依頼の項目や、我々が分析した結果、そしてそれに基づいた考察や議論などを書くことが一般的である。場合によっては、さらにストーリーのある技術報告書のような形になる場合もあり、研究や開発支援のためのまとまった報告書として提出する場合もある。これが、我々のような分析会社の製品、すなわち、市中で例えると綺麗に成形されたカバンや洋服などのいわゆる商品となるのである。
 そのためには、その報告書の中身の充実度が非常に重要となる。お客様のご依頼内容を正しく理解して業務遂行をしてきたのかに始まり、結果をあらゆる方向から見て正しく判断しているのか、あるいはそれらに基づいて客観的に考察ができ、さらに文章としてまとまった形で表現できているのかが重要となる。もちろん、全ての場合で、お客様の目標どおりの結果にならない場合もあるので、そのようなときには今後の課題やどのように進めていくかなど、担当者としての判断も含まれてくることになる。我々のような分析会社は、このような技術とか情報といった商品を販売しているのであるから、報告書1通でパソコン1台以上の金額になる場合もある。そうした場合に、やはり費用との関係で、内容が重要視されるのはもちろん当たり前のことであろう。
 報告書がお客様に出るまでには幾つかのチェックもあるが、やはり、
最初から「起承転結」のある正しい文章であること、お客様が内容を理解できる文章であること、そしてメリハリのある文章であることが望ましい。そのようなときに、日本語が如何にして上手に書けるかが大きな鍵となると思っている。

 私自身の持論でもあるが、このような状況は日常の訓練でレベルを引き上げることは十分に可能である。そのために、学生時代でも、また企業に入社してからでも人材育成があると思っている。
文中での言い回しや語句の統一はもとより、「話し言葉」は書かない、から始まり、「時制」を一致させるなど、多くの要素を組み合わせながら、そして大切なことを整理して書いていかねばならないのである。
 私の学生時代の恩師は、投稿論文の添削の時には最初の部分のみを添削し(例えば1項目のみ)、その添削した部分を持って次の項を書かせ(2回目は修正した1項目と2項目以降を持参する)、段階的に文章の内容のレベルを向上させるような指導をしてくれた。企業などでは、時間との勝負の場合も多々あり、全ての添削でそのように十分な対応で指導や育成ができる訳ではないが、そうした訓練の中から文章を書くことの面白さ、論旨を展開させていく面白さ、あるいは読み手に如何にして理解してもらえるように書くか、などを体で覚えてきた経験があり、そのような記憶が今でも非常に役立っている。

 今、私自身も部下を指導する立場になって、このようなメリハリのある人材育成の大切さを肌で感じるこの頃ではあるが、
日本語の文章を書くことの大切さは、たとえば英文の論文を書くときの基本的なテクニックやノウハウにも通じる部分が多いと思っている。そのために、多くの方々にも、日本語をただ単純に書くのではなく、論理立てを行いながら書くことの素晴らしさを実感して欲しいと思っている。そして、それを先ずは商品となる報告書に応用してみて欲しいと思う。
 こうした技術報告書を書くときに、多くの情報やデータから本当に必要な部分を選択して、それら論理を立てて文章を構築する面白さが実感してわかるようになれば、おそらく自然と日本語を書くことが上手になってくるのではないかといつも思っている。「英語教育」か、あるいは「国語教育」かといったある意味で手段だけの選択ではなく、周囲の事象や出来事や結果を正しく把握でき、理解でき、判断でき、そしてそれを論理立てて文章として(あるいは会話として)表現できることが本当に大切ではないかと思うのであるが・・・

 そうした意味での人材育成や指導をしていきたいと思っている。

 2021年8月17日

日本セラミックス協会の2018年度の表彰式での挨拶
 「インライン連続式ヒートソーク試験技術」に対して、日本セラミックス協会の「技術賞」を受賞した時の代表挨拶の風景である。かなり緊張したが、「研究開発の面白さ」や「わくわく」する気持ちの大切さを話したと思う。
 2019年6月7日
日本セラミックス協会の技術賞授賞式
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