「状態図を読む」 | ||||||
状態図を読む 第3回目:人工溶岩への応用 大学院での6年間(修士課程2年と博士課程3年と研修生1年)では、三波川広域変成岩に対して平衡状態での状態図を用いた相解析に没頭しました。多くの解析では正四面体(tetra)で4つの端成分をとって系(system)を表現しました。 第2回目で記述した緑泥石(chlorite)から広域変成作用によってザクロ石(garnet)が形成される脱水反応に対して、EPMA(電子線マイクロプローブ分析)によって得られた化学組成を再現する温度圧力の軌跡(P-T path)から大洋底の沈み込み帯での変成作用を論じました。 1986年4月に、国内のガラス製造会社の研究所で最も地味な部署の試験分析部門に配属されました。窓ガラスや車両搭載用のソーダ石灰珪酸塩ガラスは、珪砂とソーダ灰などの種々の化学物質を混合したバッチ原料を1500℃以上で熔融して冷却成形することによって製造します。つまり、ガラス熔解窯はマグマ溜りであり、噴火はガラスの引き上げや成形になるのでしょう。 一般的な板ガラスや瓶ガラスの組成は、主成分を考慮するとNa2O-CaO-SiO2の3成分系で扱うことができます。Al2O3とFe2O3とTiO2とSO3の各成分は微量成分なので、ここでは考慮に入れません。MgOも比較的少量なのですがCaOと似た挙動をとるのでMgO+CaOとして考えても良いです。4成分系で考えるとやはり難しくなるので、Na2O-CaO-SiO2とNa2O-MgO-SiO2などの幾つかの3成分系を組み合わせて考えます。 これらの系では、ネフェリン(NaAlSiO4)やトリディマイトやクリストバライト(SiO2)あるいは珪灰石(CaSiO3)などが失透相や未熔解相の異物として流出します。その原因や対策を調べて考えるために複数の状態図を用いて解析と考察を行います。通常のソーダ石灰珪酸塩ガラスでは比較的解析が容易ですが、私が最も「やったー」と興奮したのはマグネシウム成分(MgO)を含む系でした。SiO2-MgO-Al2O3の3成分系の状態図をさらにMgO-Al2O3、MgO-SiO2およびSiO2-Al2O3の2成分系に展開して詳細に解析してガラス原料の均質性の向上を提案しました。 この系では、CordieriteやMulliteやTalcが結晶相で析出します。状態図の解析でこれほどきちんとできた例はなく非常にスカッとしたのを覚えております。 状態図を用いた解析はその方法や応用性に対して無限大です。地球科学の専門課程で学んできた状態図の基本と平衡状態での理解を再度学び直してガラス製造技術の更新に役立って良かったです。こうした分析と解析法を今後も組み合わせてどんどん挑んでいきたいと思いました。 その4に続きます。
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