「EDXを上手に使いたい」 | |
「EDXを上手に使いたい」 EDX(Energy Dispersive X-Ray System:エネルギー分散型X線検出器)、EDSとも言うX線微小部分析装置はシリコン(Si)単結晶半導体にリチウム(Li)をドープした半導体検出器を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)に装着して、高真空中で照射させた電子線がサンプル表面で励起させた特性X線を検出する分析装置です。現在は多くの機関(民間企業の研究所や製造所、多くの公的研究所、また警察や病院など)で活用されています。数分以内に数μm(1μm=1/1000mm)の領域の組成がわかるので、物質の同定や分析に対して必須の分析装置になっています。 従来のWDXやWDS(波長分散型X線検出器)に対して、弱い電子線の照射エネルギーに対して多元素を同時に検出できるので測定時間の大幅な短縮や電子線照射によるダメージ低減に大きな効果があります。しかし、EDXはWDXに比べてエネルギー分解能が低いために定量性については十分に吟味しないといけないです。特に、Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)あるいはS(シリコン)iなどの軽元素に対しては細心の注意が必要です。 私は1980年に修士課程の研究で初めてEDXを使用しました。それ以降1986年まで大学の研究室で2回/週の頻度で検出器を冷却する液体窒素を補充し続けながらEDXを本格的に操作し活用して多分10,000点以上の測定を行ってきたと思います。幾つかの測定では、緑簾石(Epidote)中の希土類元素(REE:Rare Earth Element)の定量分析を1つの測定(15成分以上)で30分以上の測定時間をかけて行いWDXと同等の結果を得たこともあります。 1986年に民間企業に入社し主に研究所でガラスの試験・分析をする中で、以後35年間実務でガラスやセラミックスの分析を行いEDXによる測定とその測定結果を扱ってきました。EDXによる分析と解析では、「修行していた時代」の測定理論と分析技術そのものに戻って結果の精度と正確さを考えながら行ってきました。 最近のEDX分析装置は検出器も高精度となり(ペルチェ冷却で使用可能なSDD検出器)、操作もほぼ全自動、バックグランドも自動でお任せで、測定原理や理論が分からなくても「正しいと思われる」結果が出てきます。 しかし、多くの分析技術者や測定技能者が誤り易い行動は、得られた結果を「100%に規格化(normalize)して結果を出力する」ことです。一旦、印刷物や電子データとして結果を出力すると、それがあたかも正しい結果であるとの誤認識になるので十分な注意が必要です。一見、正しい分析値に見えますが、その中には本当は大きな間違いがあることがあります。 分析機器は年々着実に進化してその操作方法や解析プログラムそのものも着実に使い易くなっています。もちろん装置メーカの開発技術者自身も十分に考えて改良していますが、装置を使用する側も分析手法の原理や測定方法の欠点を正しく認識していかねばなりません。 最新の分析装置には装置メーカのカタログや広告によって高機能性や使い勝手の良さが大きく(多分誇大に)明記されますが、最新の装置を導入してもそれが企業や研究所に対して本当に大きな力になるかは十分に吟味して導入すべきでしょう。例えば数1,000万円以上の価格の最新鋭の分析装置を他社と比較して有意性があるからとして導入して、数年経過しても最新機能を十分に活用できない分析技術者だけにはなって欲しくないものです。やはり「EDXは上手に使って」そして「高いパフォーマンスを発揮して欲しい」と思っています。 機器分析技術において大切なことは、分析装置や機械やプログラムだけに頼るのではなく、きちんと分析の理論や測定原理を勉強する(必要な技術書は何時でも手に入ります)、そしてその中から測定や解析の限界や課題や改善点をきちんと理解することが重要です。是非、皆さんも「ワクワクする分析技術」を体験して下さい。 上記の文章は著者が退職後に執筆したものです。 2024年3月5日 |
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Chihiro Sakai, Toshio Higashino and Masaki Enami "REE-bearing epidote from Sanbagawa pelitic schists, central Shikoku, Japan" Geochemical Journal, 18, 45-63, 1984. 緑簾石(Epidote)は水酸基(OH)を含むので化学組成では陽イオンの酸化物の合計値は98wt.%前後になり ます。上表からEDX(EDS)では97.5wt.%でありWDX(WDS)では95.8wt.%であるので、妥当な分析値であると 考えられます。WDX分析では照射された電子線の出力がEDXよりも大きいために表面ダメージも大きくなりま す。上表に示すEDXとWDXのそれぞれの分析値を比較するとそれぞれの分析値は非常に類似していることが わかります。これらの結果から、EDXを用いた精密分析でも十分に正確な分析が実施されたと判断しました。 |
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