「管理職の悩み」

「管理職の悩み」

 著者が民間企業の研究所での技術職であった現役の頃から既に始まっていたが、管理職の仕事において彼らの働き方(いわゆる管理業務というもの)はどんどん変わってきました。つまり、複数の仕事の並行処理を行うマルチ業務(入社当時はπ型人間とよく言われました)の遂行能力が強く求められてきました。技術系ならば自部門での技術や技能の向上はもちろんのこと、部下への教育と人材育成、日々の安全衛生の管理と遂行、部門の予算と経営の管理や投資計画、対外的な活動、および細かな帳票の作成など、数えたら切りがありませんでした。

 著者もなんとか要求された業務を処理してきた一人でありますが、やはりどうしても
「やっつけ仕事」になってしまった項目も多々ありました。そのような中で、著者は単なる帳票の作成や意味のない人数だけを集めた会議などはとことん嫌ってきました。招集された会議の幾つかは何かと理由を付けて技術開発と技術支援の方に活動の力を配分してきました。グループの管理職として自分自身で一番大切な業務はチーム内の安全衛生の維持と改善そして組織の方針や経営に沿った技術開発の活動であると割り切ってその中で部下の教育や育成も行ってきました。

 現役時代の著者の業務展開を含めた多くの管理職の行動の中でどうしても理解できないことは本来すべき(今まさにすべき)であることを後に回して統括管理者の要求した目先のことを優先することでした。すなわち、統括管理責任者がどうしても組織の重要性と優先順位を理解しているとは思えなかったのです。例えば、内容のないタイムリーでない報告書を書いて提出する。そしてとにかくカウントする。あるいはストーリーの無い細切れの作業にもとにかく集中させる。つまり選択と集中ができない作業を仕事として理解している点に問題が多かったのであろうと思っています。

 よく言われることですが、
「管理職は総合的な能力を買われたのだから何でもできなくてはいけないという考えは明らかに間違っています」。もし、その通りならば、管理職の上に立つ統括管理者は技術も人事も経理も教育や育成に対しても全てに優れていなくてはならないが、決してその1つに対しても卓越している人は多くは無いでしょう。

 大学院時代に指導教官の教授が招集された教授会の内容がつまらなかったので絵を描いていたと言っていました。彼の話によると、隣の教授も漫画を描いていたとのことであります。いつの世でもまた場所や状況に関係なく同じような空しい状況が繰り返されているのだと自分なりに感じたものでした。

 民主主義のためかあるいは運命共同体としてあえて意識して欲しいのかその本心を知る由もありませんが、グループの関係者全員を招集して一同に会して演説をする統括管理者がいかに多いことか。現在ではモバイルも普及して電子化や自動化も進みまた稟議や決済もオンラインとなり、情報は時と場所を選ぶことがほとんど無く伝わりまた自由に発信することができます。しかし、人間同士の意思の疎通はなにかとぎこちない状況は続いているようです。

 著者は、全ての作業や行動をあえて機能的とか機械的にすることは別の意味で問題を感じますが、少なくとも
管理職(特に統括管理者)は全ての業務内容に対して優先順位や実施内容の重要性を考えながら的確に要点を指示して欲しいものであると思っています。管理職はもちろん特定の分野や技術に卓越していても良いのですが、仕事の大きな流れと重要性を理解できそれぞれの個々の実施内容を的確に指示できることをその部下として期待したいものであります。

 上記の文章は著者が退職後に執筆したものです。

2024年1月16日


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