「組織での研究開発と学会参加」 | |
「組織での研究開発と学会参加」 大学や大学院の頃に学生として初めて学会に参加して研究の発表や専門的な議論を行う機会を得る。最初はデータのまとめ方や発表練習などで教授や指導教官に細かく教えてもらい、また質疑応答などの議論にも加わってもらい(いわゆる「助け舟」の状態)、研究発表のやり方を学んでいくと思われる。このような学会への参加を重ねるにしたがって、自分自身の研究への接し方ややり方ができてくる。いわゆる研究の「色」(カラー)というものができてくると思う。 学会への参加や議論の面白さがこの頃から次第に理解できて自分自身のやり方ができてくるのであろう。研究職のその後の方向は進路の違いによって大きく変化する。すなわち、大学や研究機関の研究員や教官として進む者、公務員や教師などになる者、あるいは一般企業の技術職として従事する者など多くの方向があるが、一般企業の技術職となる場合には所属する部署や組織の違いによって学会への参加に対する考え方が異なるようである。 著者は、2012年に出身した大学院の院生を中心としたセミナー「キャリアパス・セミナー」に企業側の講師として参加したことがある。その際に、学生からは「企業に入社しても学会には自由に参加できるのか?」とか「学会での発表内容に対しては自由に決められるのか?」といった質問があった。企業ではその職場や組織で扱った技術の内容に対しては、組織の内部で決められた対外発表の許可がいること、学会参加は業務の中で行われること、さらに学生時代の個人の研究内容に対しては自分で年休を取得して発表したら良いのではなどを回答したが、大学院生となると学問としての研究発表にどうしても興味が集中するようである。 企業の職場や組織からの学会への参加に対しては、その交通費や宿泊費(いわゆる旅費)は日当も含めて部署や組織の予算で処理されるが、帰社後は出張報告書の提出を求められるので、職場や組織の目的に応じた発表で学会に参加しなくてはならず、学生時代のような比較的自由な研究とは大きく異なる。 しかしながら、いわゆる学問のその道の大家と称する先生方とも核心を付いた議論ができ、また競争相手の技術力も知ることができ、将来の自分自身の技術屋としての経験値を大きく向上させることは間違いないであろう。 このように研究者として理想の研究発表を目指す人に対しては、企業の技術職は十分な気持ちになれない(どこか不完全燃焼)かも知れない。しかし、単純に仕事や作業として学会参加することが上から指示された役目なのだから上司や組織の期待に応えること(査定を受けること)が仕事になるのであろう。ただし、そうなると多分指示待ちの学会参加になるのであろうから、研究者になりたい技術者としてはやはり不完全燃焼である。 たとえ指示待ちの職場や組織の中においても、自分自身を伸ばしたい、あるいは研技術者や究者として自分のカラーを出してやっていきたい技術の内容に対しては、自らが技術の深堀りをしながら周囲の情報も貪欲に吸収して能動的な発表を目指していきたいと思うのである。組織の中で与えられた仕事の中においても学会への参加のチャンスは沢山ある。課題解決を基本とした提案型の研究で自分自身を伸ばしていきたい。 上記の文章は著者が退職後に執筆したものです。 2023年12月30日 |
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