「些細な議論から生まれた新技術」

「些細な議論から生まれた新技術」

 学会や講演会などで発表や議論をすることは自分自身の研究活動の単なる「まとめ」だけではなく、将来の研究の進め方を左右する。特に自分たちの組織内部での練習を含めた発表そのものだけではなく、発表後の質疑応答やロビーやポスターの前でのフリーな議論は重要であると思う。

 多分、発表者自身は師の教え方や考え方で研究を進めてきたのであろう。同時に世界の多くの研究者もそれぞれの師の考えでアイデアを出してきたはずである。すなわち、学会での発表やロビー活動はそれらの交流の場であり、自分自身の考えをさらに成長させる絶好の機会であると思う。

 議論する相手に対する共通の言語は正しく
「技術」そのものである。「語学」でも「役職」でも「地位」でもない。必要ならば「筆談」でも全く問題は無いのである。

 これらの議論の後で「あっ、しまった!」とか「そう考えていたのか!」と感じることがある。また、「そうだよね。」とか「してやったり!」と思うこともある。自分自身の発表前にチームや組織の中で議論していたことと全く異なる方向からの考え方を感じるのである。

 このような時には、自分自身の研究や発表が
「駄目」なのではなく、明らかに大きく「伸びる」チャンスでもある。すなわち、「チェンジ」をして「チャレンジ」をしていく絶好のチャンスとなる。

 著者は、北欧のフィンランド(Tampere)で開催されたGPD(GLASS PROCESSING DAYS)で、ドイツ・サンゴバン社(欧州の大規模なガラスメーカー)のDr .Andreas Kasperと「とことん」議論した。また、ベルリンやパリでのISOの会議でもお互いが引かない議論もした。著者は、彼の研究内容に対して自分自身が知らない現象や結果を知ることができたが、同時に、彼も自分自身の研究の不完全さや情報の不足を感じたことを率直に話してくれた。結局はお互いの研究に対して大きなメリットを得ることができたのである。

 そうなんです。世界の多くの研究者の状況はほとんど同じなのです。技術力の大小も、頭の良し悪しに対しても、ある意味で少しの差はあるかも知れませんが、世界の研究者は殆んどが決して飛びぬけて凄くはないのです。著者が思うのに、ただ一人、アインシュタインを除いて…

 だから私たちももっと多くの研究者と積極的に議論を行って、多くの知識を吸収して、自分の技術力をもっと強く育成して(磨いて)高めていくべきでしょう。

 ただ、最近、特に強く感じることは、会社や組織の中においては、こうした議論の場やチャンスを自らが逃してしまう若手の技術者が多いことなのです。論文や雑誌に記載されている技術内容は全て「待ち」の体制です。どちらかと言えば「受動態」でしょう。文献を孫引きまですればまだましかも知れませんが、自分から藪をかきわけて進む体制ではないのです。やはり、研究活動は「能動態」でありたいものです。

 
「些細な議論」。しかし、それは明らかに「新技術」の開発に対して非常に大きな「成果」につながります。 

 上記の文章は著者が退職後に執筆したものです。

2023年12月1日

信頼性の高いヒートソーク技術による安全な強化板ガラス
Dr. A. Kasperとの議論で生まれた新技術
 ドイツサンゴバン社のDr. A. Kasperとの議論で新しいヒートソーク試験技術が生まれました。この新技術は従来ではできなかった強化ガラスの生産と連動させた加工技術である。題して「インライン・ヒートソーク試験技術」という。この新技術は、2020年にGlass Technologyの雑誌にChihiro Sakaiによって初めて紹介された。
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