「目指す相手は日本ではなく世界にいる」 | |
「目指す相手は日本ではなく世界にいる」 自分が所属している組織やチームあるいは企業などにおいては、技術的にも能力的にも秀でたいとおそらく多くのメンバーがそれなりに思っていることであろう。たとえ何時までといった具体的に決まった目標が無くても、自分自身が大切に育ててきた技術や知識については誰にも負けたくないと思う技術者は多いであろう。 私たちが持つ技術や能力の多くは明らかに「人」と「知」のネットワークの中で生まれて成長したものであろうと思う。今までに読んで理解した多くの書物や文献から、また沢山の人との議論の中で知り蓄積されてきた知見や知識を確認しながら新たな情報や知識を貪欲に吸収していった結果であろうと思う。 著者は、大学院の学生時代に当時の指導教官(教授)から、「君の行っている研究は決して君一人だけではないのだ。世界にはどんなに少なく見積もっても3人以上の研究者が君と全く同じ研究を行っている。だから、研究にはこれで良しとかこれで完了ということはない。世界にいる彼らと議論して競うことが大切である。」とよく言われた。 そういえば、著者の博士課程での研究のときでも、研究の方法や進め方(やり方)は全く異なっていたが、ほとんど同じような研究をしているフランスの若手の学者とかなり泥臭い議論を何度も交わしたことがある。実際に野外で観察する現場でもさんざん議論したものでした。 また、博士課程修了後に企業の研究所に配属されてからも、入社数年後に参加した国際学会や展示会などでもドイツのガラス会社の研究者と再三にわたってとことん議論したこともあった。英語が伝えにくくなると筆談でも議論をしたものでした。 こうした数々の議論を通して、例えば「相平衡岩石学」に「構造地質学的」な考え方を導入して日本の三波川変成岩の広域変成作用を多面的に考えることを試みた。また、ガラスに含まれる「硫化ニッケル異物」の「相転移現象」の定量的な分析と評価の技術と「強化ガラスの自然破損」の対策のための新たな知見を見出した。色々な特許出願や学会発表あるいは論文投稿にも参加できたが、こうした世界の技術者との議論が大いに役だったと思っている。 日本国内のライバルたちとの議論はもちろん重要ではあるが、世界の研究者や技術者との泥臭い議論は私たちが将来に技術的に成長して世界においてそれなりのレベルの技術者になるためには非常に重要なことであると今でも思っている。 そのためには、他流試合を重ねることが自分自身の技術レベルを上げることに大きく影響していくる。組織や企業の中での発表や議論だけでは決して十分ではない。なぜなら、同じ考え方の集団の中ではそれ以上の考えやアイデアや考察は出てこないからである。外部の学会や講演会での発表や議論も重ねていこう。特に、国際学会での英語での発表や質疑応答が最も重要になると思っている。ポスターセッションやロビーで立ち話でとことん議論することも重要である。 他流試合での泥臭い議論では決して語学能力が優先するのではない。我々技術者は政治家ではないので共通の言語は常に「技術」である。最も重要なことは、自分自身の持つ(広く深い)技術力と理解させようとする情熱(パッション)である。同じ研究の内容や対象に対しても異なる意見や考えがあることを知ることだけでも間違いなく本人の考え方の成長に対してその広がりや深みを大きくすることにつながると思う。 上記の文章は著者が最近になって執筆したものです。 2023年11月10日 |
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ドイツのガラス会社の技術者との議論で考案した新しいヒートソーク試験技術(下段の図) |
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