「機能組織」 | |
「機能組織」 よく言われることであるが、過勤務が多いからといって、その人の仕事が職場で優れているとは限らない。仕事や研究の上で最も重要なことは、今まさに重要でありすべきことを仕分けできているかである。すなわち、言い換えれば、優先順位がわかっているかということと、計画的に業務遂行ができているかである。これらは個人のレベルの話であるが、もちろんチームやグループなどの組織でも同様であると思う。 我々は、若い頃から、「企業の中では機能組織の中で行動しろ」とよく言われてきた。すなわち、目標や目的に向かって、組織のメンバーを有効に活用して成果を出さなくてはならないということである。コミュニケーションはできるが目標を何ら達成できない組織は仲良しクラブであり、もはや仕事をする組織ではないと言われる。また、個々の技術や能力は高くても、チームとしてまとまって仕事ができない組織は総合力を出していないと思う。はたして、そのような組織のリーダーは、自らが機能組織をまとめてそれらを牽引していたのであろうか。今になって、ちょっと考えさせられることも多々あると感じる。 では機能組織とはどんなものなのであろうか。入社してから、25年を越えて研究開発関係の仕事に関係した仕事を行ってきて、私は何かちょっと違うことを感じている。機能組織とは1つの縛られた規則の中で決められたことを行っている統制のとれた組織だけをいうのではないと私は考える。軍隊や警察などはもちろんそうした組織としての統制は必要であるが、企業の中ではそんな統制は要らないと思う。 企業の機能組織とは、丁度、サッカーや野球に参加する代表チームのようなものであると思う。すなわち、ひとり一人の能力は優れていても、またその全てが1つの分野に集中して優れていても何の役にも立たない。例えば、11人がフォワードであってもサッカーのゲームは成立しないし、たとえそのようなチームで試合をしても負けてしまうであろう。フォワード、ミッドフィルダー、バックス、キーパーあるいはウイングなど、それぞれの役割に応じた能力を最大限に発揮できれば、チームとしての勝利は約束されたのも同然である。野球においても然りである。4番バッターの主力だけが9人いても試合にならないのと同様であろう。 それぞれの役割に対しては、仕事にたとえると、それぞれの技術分野、すなわち、材料科学や表面分析や結晶学などに相当するのであろう。こうした能力の高いプロフェッショナルの集団が機能組織とか機能集中などと呼ばれるのであると私は確信している。だから、機能組織とは、チームのメンバーにおしゃべりが多いとか議論ばかりしているとかというようなこととは別に、本来は、如何にして目標を達成できる組織であるのかと思っている。ただ、度が過ぎた仲良しクラブは、機能組織としての活動を大きく阻害するので注意しなくてはいけない。必要以上の余計な議論も然りであある。 しかしながら、機能組織だからおしゃべり厳禁とかあるいは間食一切禁止とか、さらに議論の制限はある意味ではあまり本質的ではない(ただし、定時の就業時間内に人前で間食するのは私にとっては仕事の成果が出ていない場合が多くそのような行動をする者に対しては大いに疑問である)。私は、バランスを持っていれば、これらのことはある程度は容認したいと思う(が・・・)。ネジで締めたように、ギチギチの組み立てで、その中から機能を発揮しろというのは、ある意味で、経営者の勝手言いたい放題である。ある程度の余裕がある中で全力を出せる組織でないと、有機体である人間を旨くまとめて機能的な組織にすることは本当に難しいと私はつくづく思う。これが世間で言うところの「飴と鞭」なのかも知れない。 そのためにはチームやグループのリーダーは、上位の方針に基づいた、同じベクトルを持つ確固たる考えを持つべきであろう。企業や事業やあるいはプロジェクトの目標やあるべき姿をCEO(最高経営責任者)が示したとしても、そこに向かわせるためにグループのステアリングを機能的に行うことが求められる。そして、社員にそのような方向性を持たせるためには、ひとり一人の能力を理解して、具体的に、また、効果的に指示していかねばならない。CEOや部長が指示したとしても、グループの進むべき道は、グループ長や領域長が自分自身の考えの下で企画して実行することが求められる。すなわち、厳しく言えば、こうした企画や指示ができなければリーダーは失格である。 よく、リーダーとして、上からの指示を悪く言えばメールの転送のように伝達する場合がある。これらはどこでもあり得ることかも知れないが、多くの場合にはリーダー自身の魂を入れた指示が必要である。すなわち入魂である。このような熱意が無ければ部下はついてこないであろう。 少し前に、「プロジェクトX」というテレビ番組があった。これは、今の世に普及した多くの民生技術やとても可能とは思われない技術の確立を多くの困難を乗り越えた技術者やチームやプロジェクトが本当に輝いて紹介されていたテレビ番組であった。多分、多くの脚色はあるとは思うが、彼らの進む道は決して平坦では無く、むしろ逆転勝利のケースが多かったと記憶している。しかし、どんな場合でも、リーダーの一貫した方針(砕けた言い方をすれば夢)が成功をもたらすのである。しかし、そのチームは決して軍隊のように統制のある組織では無く、個人の個性は異なるが、その中では、むしろその個性を最大限に活用して機能的にチームを1つのベクトルを持ってまとめ上げている。もちろん、その中には遊びと称する「和み」もあるし、またリーダーはそれを止めさせようとはしない。 よく、リーダーは、部下に嫌われることを恐れ、その結果として仲良しクラブになろうとする。そして、そうした組織は機能的ではないと言われる。これは半分正しく、また、半分は間違いであると思っている。すなわち、よいリーダーとは部下に対しても存在感があるので、嫌われることも仲良しクラブになることも意識しなくても自然体で接することができる。だから、一見、仲良しクラブ的でも「すわーっ鎌倉!」になれるのである。 リーダーのことばかり書いてきたが、チームのメンバーとしての部下自身もやはり自らの向上心は持って欲しい。よい意味での機能組織ならば、自然とチームメンバー間での競争心も出てくるであろう。そして、自らが議論に参加したり、また技術を向上させようとしたりするのであろう。 「仕事の成功はリーダーの強い意志と機能組織によってなされる」 上記の文章は著者が55歳の現役時代に執筆したものです。 2023年8月1日 |
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大きな魚(ブラックバス?)を獲ったミサゴ 兵庫県立有馬富士公園で撮影 ![]() 2018年11月3日 |
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