「あんばい」 | ||
「あんばい」 誰もが知っているとは思うが、「あんばい:按排とか塩梅」とは、「ほどよい処置や処理」とか「ほどよい味加減や体の具合」などと解釈されている。別の言葉に言い換えると、「火加減」とかになると思うが、中国語では「手配する」とか「段取りをつける」とか訳されるようである。そう言えば、「ambai(アンバイ)鍋」と言った調理器具もあり、Webを参照すると、「曖昧で日本の料理に合わせて使いやすくした鍋」であるらしい。つまりぎちぎちの形にはまった状態でなく、ある程度の自由度を持っていると言うことなのだろう。 物事や仕事には、0%とか100%といった言い方があると思われるが、多くの場合では、それらの結果は「折衷的」と言うか「寛容的」なものであり、「落としどころ」という中に落ち着くものである。例えば、構造物の建築のためにきっちり締めつけるというボルトとナットに対しても、締め具合のような微妙な条件があり、やはり100%ではない。 こうした「あんばい」を持って接することの大切さに、ビジネスや仕事の場合を例にすると、部下と上司との関係がある。すなわち、上司はその上司や経営者からの方針や計画に沿ってやるべき事柄を具現化する。そして、一般的には、部下はその掲げられた目標に対して、自分の持っている技術力や労働力を提供する。そして、その結果として、上司も部下も対価としての給与を頂くものと私は解釈している。ここまでは、一般的な企業でも教育機関でも、また公務員においても同じ状況であろう。 しかしながら、しばしば上司と部下との間にはすれ違いが生じる。この原因としては、お互いが思っている力量の違いや、お互いが描いている目標到達点の違い、あるいは過度の仕事量ややり方の相違、などがあると思われる。そして、しばしば(と言うか、ちょくちょくかも知れないが)、上司と部下が衝突する場面が生じる。その究極というか最終的な場面は、TVドラマでもよく観られるように、どちらかが異動し、あるいは退職といったような場面にもなるのだろう。 しかしながら、私は、このような究極の最終的な場面に至る前に、いやいや日常のコミュニケーションの場で、あえて部下となる皆さんに言いたい。すなわち、それなりに「あんばい」を考えて上司と接しているだろうか。そう言う私も、若い頃には直属上司に年休届を出して、「今はこの仕事ができないので1日休みます」と、啖呵を切ったことがある。しかし、私は、全ての場合において、日常起こるどんな衝突の場合においても、常に以下の基本的な筋は通してきたつもりである。 それは、 「上司と真っ向衝突しても、個人批判は絶対してはいけない。」ということである。 そして、「上司に対する自分の態度が悪かった場合には、それに対しての責任(謝罪)は直ぐにする。」ということである。 しかし、その反面、仕事の内容、技術、力量、あるいは仕事量などに対しては、とことん自分が理解するまで、また納得するまで議論することを心掛けた。もちろん、1回で納得できれば、それはそれで「よし」であり、何とか納得してもらいたかったら、3回までは形を変えてチャレンジした。しかし、上記の2つの心構えである一線は決して越えなかった。このようなことは、別の意味では、上司(年長者)に対する礼儀でもあると思う。 最近では、そのような「あんばい」や「礼儀」を持って接する部下(若手)が少なくなってきているようにつくづく感じる。いきなり、0%か100%を求める。平然と、個人(上司)との間で、越えてはいけない一線を越えてきて信頼関係を傷つける。また、言い訳が多く謝罪にならない。など、書けば限がない。もちろん、上司も人間でありまた部下も人間であるので感情的な行き来はあるが、部下は如何にして自分たちの考え方や疑問や提案を上司に認めてもらうかを考えて落としどころを想定して議論に望んでいるのかなど思うと、はなはだ疑問である。 私が若い頃には熟年の現場社員や神様と称される今で言う「団塊の世代」の方々がおり、彼らと色々話していると、「上司の癖」や「越えてはいけない一線」などを教えてくれた。そうしたコミュニケーションの中から、上司に対する事前の対応やKY(危険予知)をして議論に挑むことができた。こうした人間関係は、また、本来は企業に入社するまでに体験してくるべきものであるが、今の大学などの教育の現場でのいわゆる「ゆとり的な教え方」や「目上の者に対する礼儀の欠如」なども大きく影響しているように思える。 また、どこかでも同じことを書いたが、「議論=怒られている」と言う、ある意味での甘やかし教育ということにも原因があるのかも知れない。昨今の社会的な風潮では、ちょっとしたことでも「パワーハラスメント」などと言われて、上司や教官も本当の議論にはならないという場面を多々聞くが(ひどいときにはいわゆるモンスターペアレントが出てきて教授に説教したとか)、ある意味、嘆かわしい状況でもある。こうした、風潮や文化(と言うのか世の流れか?)が、「あんばい」ができない部下を作っている(正確には学生を入社させている)のかも知れない。 しかし、未来の若者達よ!これからの君たちの成功のためにも、以下のことは必ず頭に入れておいて欲しい。 私は、熟練の企業技術者が少なくなっている今、あえてこれから上司となる皆さんに言いたい。 ・上司と議論するときには決して個人批判をするような一線を越えないこと。 ・上司に悪いことをしたと感じたらきっぱりと謝罪する。決して言い訳をしない。 きっと、君たちに若手には、素晴らしい未来があるはずである。そして、君たち自身が将来の新人(部下)を育てていくのである。 *本文は、著者が現役時代に執筆した原稿に基づいた文章です。 2022年4月22日
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