「自由度」を考える | ||
皆さんは、「自由度」という言葉をご存じでしょうか。おそらく、大学時代に物理学や工学の分野で熱力学の授業を受講された方には、「あっ、あれかな?」と、思い出されるのではないかと思います。 改めて、「自由度」をWebや辞書で調べてみました。 「自由度」は、専門用語では” Degree of Freedom”と言います。熱力学的に、また、一般的には、「独立した変数からそれら相互間に成り立つ関係式(束縛条件や拘束条件)の数を引いたものである。」と定義されております。また、岩波書店が出版する「理化学辞典」には、以下のような説明があります。 「力学系において、その配位を決める座標のうち、任意に独立に変化をなしうるものの数」、そして、「平衡状態にある物質系において、相の数に変化を与えることなく、互いに独立に変化させうる示強変数(温度、圧力、濃度など)の個数を、その系の自由度という。 何かちょっと難しい表現ですね。簡単に言えば以下の公式に従います。 F(自由度)=C(成分の数)+2−P(相の数) つまり、水のようにH2Oの1成分のみから構成される系においては成分の数はC=1となります。そして相の数は、水(液体)、氷(固体)、および水蒸気(気体)の3つの異なる状態が存在するのでP=3となります。したがって、温度と圧力を変数とすれば自由度(F)は以下のように示されます。例として、図を使って説明してみましょう。 F=2(水、氷、および水蒸気のそれぞれが独立して存在する)。それぞれの相は異なる温度と圧力で示される領域で存在します(Divariant Field)。 F=1(水と氷、氷と水蒸気、および水蒸気と水の2相が共存する組み合わせが存在する)。温度が決まれば必然的に圧力が決まります。したがって、融解曲線、蒸発曲線、あるいは昇華曲線上の温度-圧力の条件となります(Univariant Line)。 F=0(水と氷と水蒸気の3相が安定して共存する)。この条件は、決まった温度と圧力で示されます。すなわち、3相が唯一共存する3重点の温度-圧力となります(Invariant Point)。 このような系を構成する成分と安定して共存できる相の数との関係を相律(phase rule)と言います。すなわち、自然界においては、全ての物質は本当に勝手に自由に組み合わさったり共存したり共生するのではなく、一定の規則や法則(ここでは相律)に従って、成分の数と安定に存在する相の数とか決まっているのです。このような関係は、ここでお話ししましたH2Oだけでなく、二酸化炭素CO2や炭素C、あるいは無機化合物や高分子化合物を含む化学系など、あらゆる物質に対して存在します。もちろん、火山噴火に伴って噴出して流れ出る溶岩(マグマ)や、地殻内部での岩石の変成作用もこのような相律に従っています。 決められた成分の数の中では、平衡状態で共存する相(これを共生相と言います)は相律で決まりますので、相の数が相律で考えられるものよりも多いとか、異なる成分を含む相が存在するような場合には、異なるステージの反応関係が存在することになります。すなわち、複数の反応を識別するための判断基準となります。 さて、ここで、ちょっとした遊びとして、我々が活動している系で考えてみましょう。我々は、どちらかというと意識を持った有機体が構成している系の中にいるので相の関係はもっと複雑であり、単純に明確な境界を持つようなものではないのかも知れません。しかし、我々の活動する系(ある意味での成果?)の中で、与えられた成分(原資や技術資産かな?)に対しては、相の数(出来得ることや活動内容と思います?)は自然に決まってくるのだと思います。すなわち、与えられた成分に対して出来得ることは決まっており、それが自由度2か自由度1か自由度0かということになります。 与えられた条件(成分)に対して、自由度2ならば、色々な条件で進められますが、得られる結果(成果:相)は僅かに1つです。自由度1ならば結果(成果)は2つであり、また、自由度0ならば3個の結果(成果)を同時に得ることができます。すなわち、与えられた成分(原資や技術資産)に対して、如何にして多くの有効な結果を生み出せるかは、温度と圧力のような条件設定に依存することになります。だから、考えられる条件を色々と試行錯誤しても、自由度が1や0の条件を見出すことができなければ、結局的には得られる結果(相)は1個のみです。ただ無作為に試行錯誤しても、自由度1の線上や自由度0の点は見つけられないでしょうし、また仮に見つけられたとしても長い時間がかかることでしょう。 自由度0の唯一の点(invariant point)を見つけるのは非常に難しいとしても、少なくとも線上(univariant line)の条件を見つけて成果を増やしたいものです。そのためには、私たちは、その結果を導くための努力をしなくてはなりません。その分野に熟知した先生や先人達からの教育や教えや指導もその1つでしょう。また、異分野の技術者との積極的な議論も非常に重要でしょう。そしてなによりも重要で必要不可欠なことは、自分自身が成果を高めるためには何をすべきかについて自発的に考えて積極的に行動することです。決して他力本願になってはいけません。自分自身で現状を打破して切り開く、そんな逞しい行動が必要不可欠になります。 こうして、「自由度」について考えてみると今さらながら大変面白いことがわかりました。皆さんも、是非、一度、「相律」と「自由度」に対しても考えてみてください。物事(成果や結果)は、決して、勝手に、自由に、そしてばらばらに起こるものではないと私は確信しております。 2021年9月14日
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