水路のある集落(竹野町轟地区・中竹野)

 移り住んだ竹野町轟地区は日役の多いところだ。月1回のペースで何らかの会合などがあり,引っ越してきた当初は「こりゃ大変なところだ」と思っていたが,いざ生活してみるとなんのことはない,かえってその日役がちょっとした日常生活の刺激になっている。
 4月13日は日役で,この地区の真ん中を流れる水路の掃除をした。ゴミといえるものはほとんど無い。澄んだ水の中をたくさんの魚が泳いでいる。そんな水路にも1年間で結構な砂利や砂が堆積するそうだ。その一部をスッコプなどで取り除くわけだが,その作業は水路に入って上流から進んでいく。結構楽しい。水路をざぶざぶ進んでいくと「お,いい景色」そんなところがたくさんある。作業の途中,この地区に住む小学生が絶滅危惧種の「アカザ」を見せてくれた。この水路で捕り,明日小学校に持っていくと うれしそうに話してくれた。
 日役のあった日から何日かして,その小学生の家の裏手を流れる水路に架かる小さな橋の上に腰掛けてスケッチしていたら,知り合いになったお年寄り に声をかけられた。絵を描いていることを告げると,近づいてこられて「あの家は旧家で何をしていた」 とか「どこそこの息子さんは,帝大に入って2年目で学徒出陣でしてなぁ・・・」そういった話が始まった。何回か手を止め,話しに聞き入った。しばらくすると,「アカザ」を見せてくれた小学生も現れた。「持っていった?」と聞くと,「次の日に持っていった」と返事が返ってきた。その魚は,中竹野小学校の水槽の中にいるそうだ。
 鉛筆の下書きがとりあえず終わったので,スケッチブックを閉じた。その後しばらくおじいさんと話して「さようなら」と言うと,「いい絵が描けたら見せて下さいよ」と初めてスケッチに関する言葉が出た。思わず「はい」と返事をしてしまった。

2008,4,22


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