百錬の鋼造り 鍛錬。

ここでは刀の材料の鍛錬について書いて行きます。

積み沸かし(つみわかし)

水ベシの所で書いたように、各材料ごとに鋼を選別して、玉鋼は玉鋼、卸鉄は卸鉄それ単独にして、各々てこ棒の先に台をつけ、その上に積み上げ和紙等で包みその上から泥水をかけて、更に藁灰のアクをつけ、火床の中で加熱します。泥や藁灰のアクで表面を包むのは、火床の中で直接地鉄に風が当たるのをぎ、地鉄が芯から沸くようにする工夫です。

 

積み上げた地鉄が十分沸いたのを確かめて、(刀鍛冶は熟練をしてくると、外に現われる炎の色や炎の先に現われる火花の状態で、火床の中の地鉄の状態が手に取るように判るのです。)取り出し叩き締めて地鉄をまとめます。(純度の高い鉄は、完全に溶けなくても、高温になれば自然にくっ付き合います。ちょうど暑い所に置いておいた飴が、溶けなくてもくっ付き合うような感じです。)更に地鉄を沸かしてタガネを入れて折曲げ、鍛錬をして行きます。

 

下鍛え

鍛錬の方法や回数には色々あります。一文字鍛え、十文字鍛え、四方柾鍛えなどです。相対的に鍛錬を重ねるほど地鉄は均質になって行きます。しかし、含まれる炭素の量が減って行き柔らかくもなって行きます。ですから鍛連の回数が多ければ良いと云うものではありません。鍛え殺しと言う言葉もあるぐらいで、鍛練を多くやりすぎると地鉄の腰が弱くなって行き焼きも入りにくくなって行きます。

地鉄の感じを見極めながら各々の地鉄を、自分の必要とする地鉄の状態に整えて行くことが大事なのです。

上げ鍛え

下鍛えが終われば上げ鍛えの準備をします。上げ鍛えにも色々な方法があります。短冊鍛え、拍子木鍛え、木の葉鍛えなどは代表的な方法です。それらの方法に合わせて地鉄の形状を整えます。

 

(左短冊鍛え、右拍子木鍛えの準備)

下鍛えの時のようにてこ棒に台を取りつけ、今度は下鍛えの終わった各々の材料を組み合わせて積み上げます。この方法は新刀の相州伝など地鉄の変化を引き出す時によく使われる方法です。地鉄の生まれによる微妙な色あいの差や、炭素の量の差のある材料を組合せることにより、でき上がった刀には板目や木目の模様が現われます。上げ鍛えも下鍛えと同じように鍛錬の回数を多くすれば良いと云うものではありません、回数が多ければせっかく組上げた地鉄が完全に混ざってしまい地鉄の変化が無くなってしまいますし、あまりに回数が少ないと下品な荒い地鉄になってしまいます。ここでも自分の狙いの地鉄が出来るように、地鉄の組合わせや鍛連回数を考えて仕事をしなければなりません。こうして刀の部品の内の一つである皮鉄が出来ます。

芯鉄、刃鉄

芯鉄は刀が折れないように、刀の芯の部分に入れる地鉄です。水ベシの選別の所で出来た、かんたんに割れない部分などを集めて、十分に鍛連をして準備しますが、昔はほとんど炭素を含まない包丁鉄なども使われたようです。

本三枚や四方詰めに使われる刃の鉄は、刀の刃先が硬すぎて刃こぼれがしないように、又、柔らかすぎて切れ味が鈍らないように考えられた鋼です。特に純度が高く粘りのある材料を厳選して、鍛連します。

これで刀の部品がほぼ揃いました。次は造り込みです。

注:古刀など古い時代の刀は、はたしてこの様な段階を踏んで作刀したかは、甚だ疑問です。現存する古刀と新刀を見比べると、古刀の地鉄は、自然に地鉄の変化が現われているのに対し、新刀の地鉄は、いかにも作られた様な地鉄の変化が目につきます。おそらく古刀は、材料の地鉄自体が不均質で、その地鉄に必要以上に鍛錬を加えずに刀にしたため、あの様な自然な変化に富む地鉄が出来たのではないかと思われます。

97.7.16

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