★観察実験には専門知識と経験が必要です。本サイトの閲覧は理科教育関係者に限らせていただきます。★


  
 すべては 『エルステッドの実験』 にある! 

  「S-cable」概要  

  製作 [簡単+安価]   学習 [簡単+時短]  


  
  開発から40年を越えました(since 1978年)  
⇒利用支援案内
1.はじめに
なぜ?『エルステッドの実験』
  電流と磁気の関係が明らかになったのは,『エルステッド先生』が行った1820年2月15日の実験によります。
『Hans Christian Orsted,ハンス・クリスティアン・エルステッド』1777〜1851年,デンマーク
  コペンハーゲン大学教授,著名な物理・化学者,アルミニウムの単離,アンデルセンの親友,弟は首相。

  エルステッド先生は,電流を流して細い白金線の赤熱実験をしている時,近くの方位磁針がピクッと動くのに気づきます‥電流の磁気作用発見です。すぐに,白金線を普通の電線に替えて電流を増やし,より顕著な現象を確認します。これが,今日の電化時代を創出した世紀の大発見だったのです。
  電磁気学習では最初に位置づけるべき欠かせない実験ですが,顕著な結果を得るには『数十アンペアの大電流』が必要です。これは,溶接機に近い大電流で,扱い難く,専用電源の購入は費用の問題もあります。そのため,実験したとしても課題のある不十分な方法に終始してきました(実験なしが多いようです)。


万能電線 「S-cable」
  「S-cable」はエルステッド先生の大発見の再現を目的として開発しましたが,研究を進める中で関連するほとんどの電磁気現象を手元体験できるSuper cableであることがわかってきました。
・製作:「簡単+安価」簡単な構造で安価に製作できます。
・学習:「簡単+時短」理解も取り扱いも容易,学習時間を劇的に短縮します。

  課題は現行学習の改良・改善・付加ではない革新性で,日本の保守的な教育界への普及は進みません。しかし,文科省の教育改革が進行し,次第に受け入れられるようになってきました。

「S-cable」で復活!『エルステッド先生』
  電流の磁気作用発見のニュースは論文発表前に伝わり,世界の学者は興奮,熾烈な研究・開発競争が始まります。エルステッド先生は翌年のスイスの学会で報告しますが,研究は継続せず,その争いに加わりませんでした。
  現行の電磁気学習が『エルステッドの実験から展開するスタイル』でない理由はここにあるのかもしれません。そのため,「S-cable」による電磁気学習は,エルステッド先生の偉大さの再評価に繋がると考えています。
⇒詳細はマニュアル「S-cable活用術」参照

  エルステッドの実験は,映像による演示実験(少し前までは図1のようなOHP投影像)を見て学ぶ形式が一般的でした。
(実際は実験なしで終わることが多いようです)

  実験器具は,図2のような縦型のコイルを用い,コイル上下部分の周りに方位磁針(または鉄粉)を置いたものです。立体的な磁場を平面映像で理解するのは難しく,電磁気の最初でつまづくことになります。
  手元での生徒実験化が難しいのは,【「電線周囲の磁場」ではなく「コイルによる磁場」と考え易い】 【電源装置の扱いに細心の注意が必要となる(抵抗が小さい)】といった事情がありそうです。   

  乾電池を用いたショート回路での大電流(安全対策→乾電池の内部抵抗依存による電流制限)を利用した手元実験もあります。不十分な結果しか得られない短時間実験となるだけでなく,ショート利用は危険で「トンデモ実験」に近いかもしれません。



図2  「OHPステージ上の実験装置」

図1  「OHP投影による演示実験」
  
そこで,普通の理振備品である直流電源装置(5A)を用い,手元で実験できる大電流電線「S-cable」を工夫しました(図3)。

偶然の大電流『40A』から始まる
  「OHP投影装置による実験」 「乾電池を用いたショート実験」 「自作大電流電源装置での実験」 「市販の大電流電源装置の規格」などを検討すると,最大でも『30A程度の大電流』で実験が行われてきたことがわかります。
  S-cableは思いがけなく安定した『40A相当の大電流』を得て,より明瞭な実験ができました。それだけでなく,様々な応用実験も可能なことがわかってきました。
  偶然の大電流電線は予想外の発展を遂げ万能電線「S-cable(Super Cable)」へ進化しました。



  図3  「S-cable Ver.2-6m」
  (初期贈呈版のイラスト)
 
「先生と生徒,共に学ぶ電磁気学習」
  「S-cable」を用いると,方位磁針を手にした生徒たちがワイワイと相談しながらエルステッドの実験を行い,仲間同士で法則を発見できます。といってすべて生徒任せではなく,先生が,S-cableに流れる電流の向きや大きさを変えたり,スイッチ操作を行なって意図的に授業を工夫・制御できます。
  生徒任せではなく,生徒と先生が連携して理解を深める実験学習はとても魅力的なものとなります。
  最適な『Active Learning実践例』となるでしょう。


「想定外の万能電線へ」
  手元でエルステッドの実験を行なうことを意図したS-cableですが,予想外の展開が始まります。

  鉄心に数周巻くだけでかなり強い電磁石になり,驚かされます(世界初のスタージャンの実験にそっくりです)。しかも,コイル巻きで電磁石ができる理由も簡単に理解できます‥この重要事項が,驚くことに電磁石学習で教えられていません。
  また,磁場の中で「S-cable」が動いたり(電気ブランコ,ローレンツ力),逆に,磁場の中で電線を動かすと誘導電流が確認できます。縄跳びのようにゆらすと地磁気発電も確認できます。

  残るは「モーター」‥交流を流し,磁石の回転子を回す同期モーターの研究を続けました。しかし,安定した回転は難しく20年以上も悩み続けます。追い込まれ「もう,ダメ‥」と諦めかけた時,講演で大型方位磁針を回したことがきっかけで閃きます。それは,王立研究所(イギリス)のウラストンの発想の具現化ともいえる方法です。つまり,究極の元祖簡易モーターだと考えられ「S-motor」と命名しました。

  こうなると,もう興奮状態です。今まで,それぞれの実験は,様々に違った方法・教具で行なわれてきましが,一本の電線「S-cable」で可能となったのです。
  エルステッドの実験は,すべての電磁気現象を含んでいたということです。

・S-cableに交流電流を流す
  近づけた磁石が振動したり,コイルを近づけると接続した豆電球やLEDが点灯します(電磁誘導)。
・S-cableに音声電流を流す
  磁石を貼り付けた空缶や紙コップを近づけると音が出てきます。また,コイルを近づけると,接続したスピーカーから音が出てきます(電磁誘導)。


※音声を用いた電磁誘導は補聴器でも利用され,JIS規格化されています。関係する送信設備である電線は床下に設置されているそうです。また,美術館などでの案内システムに利用されていたこともあります。

「S-cable名称について?」  参照⇒「S-cable」研究室

「S-cable開発について?」  参照⇒「S-cable」開発物語

S-cable実験
 
  ●実験室1(電流とジュール熱,磁場)   ●実験室2(コイル,電磁石)
  ●実験室3(電気ブランコ,電磁誘導)(作業中)
  ●実験室4(音声電磁誘導,同期モーター)(作業中)



2.構造と特徴(Ver.2)
  標準仕様として採用したビニル多芯電線は,色分けされた10本の細い芯線(0.3mm2)が被膜でまとめられ,直径8.0mmの太さになっています。
  この10芯線の両端を,接続ボックス内で1段ずつ色をずらして半田づけし,最初と最後の線はターミナルを介して直流電源装置に接続します。


ビニル多芯電線の購入先の例:⇒「愛三電機株式会社」
  愛三での商品名 『 ビニール多芯コード VCTF 0.3sq 10芯 』
(100m巻きが安価になります)

図4  多芯電線の例(0.3mm210芯線)

図5  接続ボックス内部(Ver.2)イラスト
  電線とターミナルの間に「±極性切り換えスイッチ」と「電源スイッチ」を取り付けると,さまざまな授業展開が可能になります。
  標準仕様は,この2つのはたらきを1個のスイッチにまとめて扱いやすくしています(図7)。

本体内部
図6  接続ボックス内部(Ver.2)実物
スイッチ
図7  スイッチの配線

「S-cable」標準仕様  『ビニル多芯電線 0.3mm2×10芯×6m(+理振5A電源装置)』
  6mの10芯電線を用いた「S-cable結線」は実質10周のコイルとなりますが,全長60mの長い1本の電線でもあります。全抵抗は約 3.8Ωの大きさとなり,実験室に普通にある理振備品の直流電源装置(5A/0〜15V程度)に接続すると,15V設定でも電流は定格内の4A程度しか流れません。つまり,標準仕様の接続では,電源装置をどのように扱ってもブレーカは落ちず,児童・生徒実験も可能となります。
(ショートに近いだろうとダメモトで試し,結果に驚きました。こんなに抵抗が大きいとは思ってもみませんでした)

  結果,電流は10周するため,約40A相当の大電流が流れる電線となり,極めて強力な磁場が得られます。長さ6mは8人がけの実験机一周程度となり,十数人の児童・生徒が一緒に実験できます(3台あれば,クラス全員での一斉実験も可能です)。

  当初,電線らしからぬ太さが気になりましたが,授業で用いるとすぐに「絶妙な太さ」であることがわかりました。
「常識!?」という思い込みを克服する喜びも知りました。

  「S-cable」に普通の電流計接続は無理,実際に40A相当の電流が流れているかは疑問です。
しかし,DC電流の測定可能なクランプメーターがあれば測定できます。
DC電流は磁気センサーによる測定であり,強力な磁場を形成する10倍の電流を確認できます。

図8  10倍相当(40A)の電流測定(写真の例は,9m版S-cable)

「標準仕様は奇跡の発見」
  電線の開発にあたって,様々な多芯電線(8芯〜50芯線)を用いて試作,検討しました。電源装置は身近な理振備品(5A,15V程度)に限定し,ブレーカが落ちない,発熱(安全性),10倍の電流相当という説明のしやすさ,作りやすさ,電線の入手,費用などを考慮し,標準仕様を設定しました。
  正確に言うと,偶然「標準仕様」の条件に近いものを製作したことに始まります。この条件以上のものは見つかっていません。

  太さが気になるようで「LANケーブルで作れませんか?」というご意見をいただきます。使えないこともないのですが,課題もあります(以下,簡単に理由説明をします)。実際に授業で用いると,「標準仕様」の太さの良さに気づきます。

  エルステッドの実験から約200年間,こういった教具が開発されなかったのはそれなりの理由(条件が限られる。太さの思い込みなど)があるようです。


ご意見1:「電線をより長くしたい!」「電流をより多く流したい!」
  より高電圧の電源が必要になります(電流容量は5A程度必要)。また,長くなると取り回しがやっかいです。講演では9m「S-cable」(24V電源)を用いていますが,切り離し構造としています。もっと長くすると高電圧の危険性を考慮することになります。
  「芯線を太くする(抵抗を減らす)」という方法もあります。芯線の次の規格は0.5mm2で,10芯線の場合15V電源で10mのS-cableが作れます。ただ,かなり太く(直径10.0mm)なり,柔軟性に欠けて扱いにくくなります。「芯線の数を減らす」ても長くできますが,実効電流が減ります。
※タイ国IPSTセミナーで用意していただいた電線は0.34mm2規格で,15V電源なら7mまで可能でした。


ご意見2:「0.3mm210芯線より細い線を使いたい!」
  太めの標準仕様が気に入っていますが,絶対ということではありません。
  より細い規格は,0.18mm2×10芯線となります(直径6.0mm)。これは,標準仕様である0.3mm2電線の2倍の抵抗となり,理振備品の電源装置なら3mが限界となります。しかし,4人程度の小グループなら3mでの実験も可能です。問題は,クラス人数が多いと,かなりの数を作らなければならないことです。また,同じ長さでも発熱が2倍となり,長時間作動に不安を生じます。LANケーブルを用いる場合も同様です。



図9  電源装置の直列つなぎ
「高電圧の電源装置」
  もっと長くする場合,より高電圧の電源装置が必要になります。特別な電源装置を購入するか自作になりますが,図9のように理振備品の電源装置2台の直列接続という方法があります。
例:一般的な「15V5A電源装置」なら,2台で「30V5A電源」になります。

  元勤務先の研修講座では24V5A電源装置を2台直列接続して50V5A電源とし,18mの電線を用意しました。ただ,高電圧の大電流は,スイッチの耐性や感電も気になります。
  すべてが一緒に実験に参加する必要もなく,長くても取り扱い易い9m(24V5A電源)で十分だと思います。長いと,アンプを繋いだ時,音の電流が流れにくいという問題も生じます。

  最近増えてきたスイッチング方式の電源装置には使えないものもあります。これは,説明書で確認できます。トランス巻線をスライド接触させて電圧を可変する従来タイプでは問題ありません。

「安価な電源装置」
  安価なスイッチング電源装置が増えています。アマチュア無線のモービルトランシーバー用電源装置などで,例えば,DC6〜15V可変(連続最大出力4A/13.8V時),電圧・電流計付き(切り替え式)…というスペックでも1万円以下で購入できるようです。ただ,スイッチング電源ですから,理振の一般的な電源とは異なり,AC出力はありません。
  電圧可変はほぼできませんが,スイッチング電源ユニット(少し工作が必要)やACアダプターなども利用できます(最も安価)。


「電線の温度上昇」
  通電するとS-cableが少し暖かくなり,大電流が流れていることを実感できます。冬季でもしなやかで扱いやすくなり,ねじれぐせも解消できます。
  小学校でのジュール熱の学習にも利用できます。教科書では電熱線を用いますが「電熱線だから発熱」となり,電流と発熱の関係が一致しません。穏やかな発熱なので火傷の心配がなく,手の中で体感出来る良さもあります。
  標準仕様を4Aとしたのは,電源装置に余裕を持たせただけでなく,発熱による事故防止もあります。ジュール熱学習では5A近くまで流すとより顕著な結果を得られますが,長時間通電は避けてください。



3.備考
  「S-cable」を1本の大電流電線として扱い,輪を作ってコイルにすると容易にパワーアップします(コイルにする価値がわあかります)。
  しかし,もともと巨大なコイル構造であり,偽っているような後ろめたさもあります。そこで,授業の後で,この秘密の仕掛けの種明かしをしてほしいのです。多くの生徒の目がもっと輝くはずです。実際に,夏休みの自由研究で自作した生徒があり,嬉しかったです。なお,このようにずらして接続した電線を「ループコイル」と呼ぶそうです。また,すべての回路は一周のコイルとも解釈できます。
※贈呈版は「S-cable結線」の見える化を意図し,蓋を簡単に開けられるようになっています。その関係で,配線もわかり易くきれいにしています。

・平成4年度東レ理科教育賞(第24回)を受賞しました。(平成4年度東レ理科教育賞授賞作品集[第24回]P17〜20参照)

審査委員長である「伏見康治先生(元日本学術会議会長)」から,授賞式でお言葉をいただきました。
「極めて見事な工夫であります。」
ありがとうございます。心から感謝します。
財団法人,東レ科学振興会,第33回事業報告書(平成4年度)参照

「東レ科学振興会」で,実験ビデオ『大電流電線による電磁気の実験』の借用ができます。

・この電線を最も早く展示品にしていただいたのは「名古屋市科学館」で,次が「群馬県生涯学習センター(少年科学館−科学展示室−)」です。
「科学技術館」にも設置されました。科学技術館は「第一回青少年のための科学の祭典」が開催され,出展した「S-cable」が広く認知されるきっかけとなりました。声をかけていただいた後藤道夫先生には心から感謝しています。
・平成18年度には,「京都市青少年科学センター」でも展示品になりました。



4.「S-cable」見本,および詳細マニュアル贈呈案内
  附属のマニュアル「S-cable活用術」に詳細な記述があります。webのブラウザでの表現は限られ,十分な解説ができません。

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