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 「エルステッド」の大発見から始まる,すべての電磁気現象を手元で体験!
 「パスカル電線(S-cable)」実験室1/4 
☆ 電流とジュール熱,磁場 ☆

  
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1.電流と発熱(ジュール熱)   児童・生徒が輪になって「S-cable」の傍に並びます。各自が「S-cable」を握り締めてから,4A程度の直流電流を流します。
  1分程すると温かさを感じるようになり,2分ほどするとはっきりわかります(図1-1)。束ねたS-cablleを持つと,よりはっきりわかります(図1-2)。なお,実験中,熱くなって困るという事はありません。

ジュール熱1
図1-1  ジュール熱を実感
ジュール熱2
図1-2  束ねて握るとわかりやすい


  温かくなることで,S-cablebに電流が流れていることを実感できます。これによって,次の「エルステッドの実験」で電流と磁場の関係を認識し易くなります。また,温かくなった電線は,しなやかで扱い易くなります。
  少し大きい5Aの電流を流すと,数分で温かさを少し越えた熱さを感じるようになります。この場合,5分程度までの実験にしたほうが無難です。S-cableの標準仕様を最大4Aに設定した理由の一つでもあります。


  小学校で導入されたジュール熱の教材は,接続した電熱線の発熱で学びます。しかし,「電熱線だから発熱した!」となり,「電流によって発熱した!」とは認識しにくいのです。それに対し「S-cable」は電線全体が発熱するため,よりわかりやすい教材になると考えています。
図1-3  実質40Aの大電流


  とても大きな電流が流れていることは,クランプメーター(要:DC測定ポジシュン。0.1Aまで測定可能な機種が望ましい。)で測定できます。

  40Aは,家電製品ではありえない大電流(電子レンジの4倍ほど。通常,家庭のブレーカは20Aで遮断!)であることを知らせます。
電流測定
2.電流と磁場 『エルステッドの実験』
  児童・生徒が輪になって,「S-cable」の傍に並びます。各自が方位磁針を持って,「S-cable」の好きな位置に近づけます(図1-4)。4A程度の直流電流を流し,方位磁針の動きを観察します。エルステッドの実験を真似て,大きな方位磁針1個の動きを演示してもよいでしょう(図1-5)。

「実験例」
(1) 方位磁針を置く位置を変えて,動きを観察します。
(2) 電流の向きによる方位磁針の動きを観察します。
(3) 方位磁針の動きが,電流の大きさに関係していることを観察します。

エルステッドの実験1
図1-4  エルステッドの実験1
S-cableの上と下で逆向き
エルステッドの実験1
図1-5  エルステッドの実験2
大きな方位磁針も動きます


エルステッドの実験前に行なう導入実験例  『方位磁針と磁場』

  児童・生徒の手元に方位磁針を置き,強力磁石を隠し持った先生が教室を歩きます。先生の移動に合わせて向きを変える磁針を観察します。これによって,方位磁針は,地磁気より強力な磁場の影響を受けることがわかります。そして,「方位磁針は"高感度磁気センサー"です。」と説明します。
※方位磁針が磁石であることを知らない場合,予め,その確認実験「例:磁石で方位磁針」も必要です。

  このような導入実験をしていても,電線の周りにできる磁場の理解は容易ではありません。それは,児童・生徒にとって,それまで経験した「押すと押し返されたり,引き合ったり反発したりするような力」とは全く違うものだからです。


  電線(電流)に対して垂直方向に渦状の磁場が出来ていることは,一人がS-cableを上下方向に持って,もう一人が持った方位磁針を一周させると確認できます(図1-6)。

  手のひらの上に3個の方位磁針をのせ,直交するようにパスカル電線を通します(図1-7)。これは,大変,印象深い実験となるようです。

周囲の磁場1
図1-6  電線周りの磁場の確認実験1
手のひら上の実験
図1-7  電線周りの磁場の確認実験2


  非磁性体(プラスチックなど)の板を利用すると,演示での説明に便利です(図1-8)。小さい方位磁針をたくさん並べた方がわかりやすと考え,試しました(図1-9)。しかし,大きな方位磁針の方が印象深いようです。

  電流の向きを変えると方位磁針は逆転します。また,電流の大きさを変えたり(電圧を変える),スイッチを切ると,地磁気の影響が現れます。これらによって,電流と磁場の関係をより深く考えます。

アクリル板上の実験
図1-8  電線周りの磁場の確認実験2
小磁針の利用
図1-9  小さな方位磁針の利用



『鉄粉の描く渦模様』
鉄粉の描く渦模様
図1-10  鉄粉の描く渦模様
  S-cableによって,鉄粉が作るきれいな渦模様を観察できます(図1-10)。

「鉄粉」
  私は,「鉄粉末(50メッシュ)」の試薬容器の口に二重にしたガーゼを輪ゴム留めし,そのまま振るっています。還元鉄なども含め,メッシュ(数字の小さいほど細かい)違いのいろいろな鉄粉を試しましたが,それぞれ,それなりの渦模様ができます。最適なメッシュを探すより,そういった違いを見たほうが面白そうです。粗い渦模様になりますが,海岸で拾える「砂鉄」も使えます。

  鉄粉を振りかける板はアクリル板(3〜5mm厚の乳半)で自作しましたが,静電気の影響で渦模様が崩れて困りました。板を汚したり,霧吹きで水を撒いたり,直前にマッチで火を点けたり(炎のプラズマで静電気を中和)という工夫を繰り返しました。そのうちに問題はなくなってきましたが,研究の余地があります。また,板はしっかり保持し,叩く位置や強さを工夫しないと,偏在した振動によって同心円状の渦模様になりません。これに限らず,実験には工夫と慣れが必要です。

  「マグチップ」(長さ2mmにカットした直径0.3mmの亜鉛めっき鉄線,中村理科工業)をS-cableに振りかけると周りにくっつき,電流を切ると落ちます。これは,新潟県の乙川尚史先生の提案で,エルステッドの実験の直後にデービー(英)が鉄粉で見つけた現象の再現でもあります。


コイル
図2-11  試作方位磁針
  『試作方位磁針』

  実験用の方位磁針は,近くに磁石があると簡単に磁化の向きが変ります。そのため,実験前には方位磁針を点検し,問題があれば磁石を使って本来の向きに戻すという作業が必須です。これは,かなりの手間です。また,実験中に向きが変って,指導者の説明が児童生徒に伝わらず,混乱する場合もあります。
  そこで,簡単には変らない保持力の大きな素材で磁針を作れば,問題は解決できれるはずだと考えました。特に,展示品「S-cable」を作る時に痛感しました。展示場の担当者に,頻繁に点検をお願いする必要が生じるからです。
  そこで,京都の理科教材会社に試作を依頼し,出来上がったのが図2-11です。「商品化してください。学校でも歓迎されますし,展示品も助かります。」とお願いしたのですが,残念ながら承諾していただけませんでした。
  「この試作品に値段をつけるとすると3万円します。」ということです。コスト面での課題があるということでしょうか!?

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