趣   杉垣新哉                             

  14年前、阪神タイガースが優勝した年、(旧)男女雇用機会均等法が成立した。
  このころから、男子顔負けの女性が一段と増え、最近では、男の特
 権とされた領域をも彼女らは侵害しつつある。
  「飲む、打つ、買う」が男の三大特権だった昔が懐かしくさえある。
  だが、よく考えてみるとこの三つの特権(愚考)は度が過ぎると体に
 よくないことは自明のことである。
 飲み過ぎは肝臓を痛め、ギャンブルに身を染めると精神衛生上好まし
くはない。買うなどは言わずもがなである。
 「過ぎたるはおよばざるが如し」と昔のひとはよく言ったものだ。
 この三つの愚考と関連があるかどうかは定かではないが、最近は、健康食品ブーム
である。
 TVでココアが体によいと言えば、ココア・ブームになり、ワインが肝臓に良いと言えば
ワイン・ブームが到来する。
 キノコ、青汁、バイアグラ・・・などなど、枚挙にいとまがない。
 なんと日本人はブームに弱い単純な人種なのだろうかと呆れるばかりである。
 ブームといえばゴルフにもあった。
 日本のゴルフ・ブームの幕開けは、ジャンボ尾崎の出現によってもたらされたものであ
る。その後、日本経済の高度成長にともなってゴルフ場開発ラッシュが到来、ゴルフ人口
も爆発的に増加した。
 分にもれず私もきっちりとはまってしまった一人である。
 バブル全盛のおり、誰もかれもがゴルフの会員権を買いあさり、天井しらずの価格とな
った。しかし、『1985年』にバブルの崩壊が始まると、ゴルフ会員権は一気に下降の一
途たどり、今やゴルフ業界を取り巻く環境は最悪といっても過言ではない。
 ゴルフ・ファンの一人として一抹の寂しさを感じざるを得ないのである。
 とはいえ、やはりゴルフはゴルフである。何やかんや言ってもゴルフの魅力に勝るもの
はない。
 下手な割にはゴルフにこだわりをもつ私が言いたいことは、「日頃仕事が忙しく、運動
とよべるような健康的なことを一切できない。
 だから、せめて一週間に一度くらいはグリーンの上を闊歩し、綺麗な空気を吸って、友
との会話を楽しみ、大声を張り上げて、スコアーにこだわる事なく、気分よく一日を過ごし
たい」ということだ。
 私にとってもう一つの趣味を除いて、ゴルフは生活の潤滑油としてのすばらしい存在な
のである。
                 

  話は変わるが毎年四月から九月後半までの半年間、私にとってき
 わめて多忙な日々が続く。もちろん仕事の上の話ではない。
  もう一つの趣味『甲子園参り』である。
  この半年間、私は、時間と体の許す限り甲子園に詣でるのである。
  大学時代から、誰にはばかることなく、趣味は『阪神タイガース』兼
 『アンチ・ジャイアンツ』と公言してきた。
 弱くても良いのである。ようするに、好きなのである。
 そして、勝ったときは体全身から喜びを大爆発させる。このひとときの快楽が、何事
にも変えがたく、精神衛生上たまらなく良いのである。  
 あるとき、慾どしくも二つの趣味を一挙に実行することを試みたことがあった。
 ゴルフを早朝にスタートし、ラウンド終了後、ナイトゲームに間に合うようにすぐ家に取
って返し、応援グッズ入りのバッグに持ち替えると、目と鼻の先の桜井駅から電車に飛
び乗り甲子園へとはせ参じたのである。
 これを連続二日間続けたが、さすがに体力に自信のあった私でさえ、三日目の朝は
頭がモウロウとして起きあがることができず、あまりにも無謀な試みであると悟ったの
であった(一塁側外野スタンドでビールを飲み過ぎるうえに大騒ぎするからだと妻は指
摘するのだが・・・)。
 
 現在、我が阪神タイガースは首位争いを演じてくれている。
 嬉しい限りだ。さすが新生「野村・阪神」はやってくれる。首位独走もありうるか
もしれない。
 かのノストラダムスが予言した1999年7月の出来事とはこの事態をいってい
るにちがいない。そして、東方から来る恐怖の大魔王とは野村監督だったのかもしれな
い。
 私は今、14年前の出来事を思い出し、因縁めいた符号に戦慄を覚えている。
 あの年、監督・選手・ファンさえも生きている間に味わえるとは思ってもみなかった阪神
タイガースのセ・リーグ優勝・ペナント制覇が現実になった年であった。
 しかも(旧)男女雇用機会均等法案が成立し、そしてバブル崩壊の始まった年でもあっ
た。
 奇しくも、本年5月に新男女雇用機会均等法が成立。そして今、わが阪神タイガースは
熾烈な首位争いをしている(1999年6月10日現在)。
 そこで私は予言する。『1985年の出来事が再現され、今世紀最後の有終の美を飾る
のは阪神タイガースである』と。
 これを私は『ノム・トラ・ガ・カツの大予言』と提唱するがいかがなものか。
 14年前の再現を願って筆を置く。

 筆者のプロフィール
  杉垣 新哉
  1952年生
  奈良県櫻井市川合256−3
  杉垣マンション700号
  (株)桜井自動車教習所代表取締役
  HCP12

   阿騎野ゴルフ倶楽部会報誌「阿騎野」第4号(平成11年7月発行)より転載

  〔編者注〕 結局、この年のセ・リーグ優勝は中日ドラゴンズで、阪神タイガースは定番の最下位
だった。しかし、たった一日だけ首位になったことがある。これは特筆すべき出来事で、他の4球団は一
度も首位の座を奪うことができなかったのである。