俺は、ヤーデ伯トマス卿の屋敷で開かれたパーティーに、普段着のまま参加している。 貴族達の集うパーティーなのに、普段着で、だ。 「ねえ、ギュス様…」 おどおどとした調子で、俺に訴え賭かけてくる少年。名はフリン。 「みんな立派な格好をしてるよ。何か恥ずかしいな」 フリンは気後れしていた。 「いいか、フリン。お前がそんな格好なのは、ここに呼ばれてくる連中の責任だ。 身なりを気にするフリンに、俺はこう言ってやる。 「きゃあああぁッ!!」 女性のつんざくような悲鳴。俺は素早くその女性の元へ駆け寄る。 「どうした! 何があったんだ!? ん? レスリーじゃないか」 悲鳴を上げていたのは、幼なじみのレスリーだった。 「ギュ、ギュス!? どうしたの、その格好は!?」 「普段着がそんなに悪いか?」 「普段着が、どうして黒ビキニなのぉ〜〜〜ッ!!!」 意味不明な事を口走るレスリー。 「俺がこんな格好なのは、ここに来るような連中の責任なんだぞ!」 俺は、愚かな彼女の為に、いちいち説明してやる。 「ホントは、もっとハッスルでアグレッシヴなおしゃれパンツを履いて来たかったんだ。 「いい加減にしろぉ〜!!」 叫き(わめき)散らすレスリー。 ◆ 「よし」 俺は心に決めた。 「レスリー。俺は今から、一曲歌うよ。パーティーだしな」 「歌うって…何の歌?」 お、レスリーは興味津々だ。さすが俺、キレてるゼぃ。 「まあ、再会の歌…だな」 俺は大きく複式呼吸をした。すぅ〜。 「…ムキムキムキムキムキッムキ!ち・か・ら・っこぶ〜♪ ムキムキムキ……」 「どこが再会の歌だぁ〜〜〜ッ!!」 再び、訳の分からん事をほざき出すレスリー。 「知らないのか!? サブタイトルはムキムキ一休さんってことを」 「知るかぁ〜!」 どうやら俺の意図は、レスリーに伝わらなかったらしい。 ◆ よし、ならば…。 「ケルヴィン、フリン。いつものアレをやるぞ!」 俺は、子分達に号令をかける。 「いつものアレでしょ? 任せといて、ギュス様」 フリンはやる気満々だ。 しかし、ケルヴィンは難色を示していた。 「お前達が馴れ馴れしいからこうなるのだ。私の貴族としての品位が…」 「貴族だろうが、筋肉のない奴はただのごろつきだッ!」 俺はキラリと白い歯を見せた。なんとミラクルな説得だろう。 「そうだな、お前の言うとおりだ。よし、アレをやろう!」 「ナイスガッツ!」 俺は親指を立てた。 「さあ、準備にとりかかるぞ」 ◆ 「材料は確か…おっさん一つで良かったよね、ギュス様」 「ウム。純度99,9%以上の天然おっさんだと、なお宜しい。お、あの男なんていいな」 俺は、パーティーをのほほんとエンジョイしているおっさんに目をつけた。 「お、おい、君達…。ワシに何か用かね…?」 何故か、あわてふためくおっさん。 「さあ、レスリー。俺の直球を受け止めてくれッ!」 俺はレスリーに目をやった。これを見れば、彼女は筋肉の虜になること必至。 「よし、始めよう」 俺、フリン、ケルヴィンの順番で、おっさん目掛けてダ〜ッシュ! 俺、切る。 「無拍子!」 「キックラッシュ!」 「炎でまっぷたつ!」 「連携ッ」 「ムキッ、まっぷたつ〜ッ!!」 昇天するおっさんを背景に、俺は割れた腹筋をアピール! 「フィニ〜〜〜ッシュ!!!」 決まった。最高に決まった。 「どうだった、レスリー。トレビアンだろ?」 「どうもこうも…あるかぁ〜ッ!」 それは強烈なパンチだった。 「殴ったね!? 親父にも殴られたことないのにッ!」 「そうじゃないでしょ!!」 「じゃあ、お前のことを女王様と呼べってことか?」 「違〜〜うッ!!」 「そうか…俺の筋肉に触りたいんだな。ピクピクしてて、気持ちいいぞぉ〜」 レスリーは、その場から消えていた。 俺がこんなに力説しているというのに、まだ筋肉に目覚めないとは…。 ◆◆◆ とりあえず、俺はパーティーを満喫することにした。 「って何だ、このメニューはッ!? テーブルの上に並ぶ料理は、どれもカロリー過多だ。栄養バランスもなってない。 「コック長を呼べぃ!!」 すぐさま召し出される料理長に、俺達3人は天誅を下す。 「ムキッ、まっぷたつ〜!」 「ぎゃあああ〜」 燃え崩れるコック長の断末魔をBGMに、俺はポーズを決める。 「これこそ炎の料理人」 俺ってば、むやみやたらに、ぱーべきだ。 「こんな物、料理ではない。俺が、真のスペシャル・パーチー・ランチを作ってやるッ!!」 「出来たッ!」 スマスマの例の音楽が流れる。 「見よ。まず、オードブルはプロテイン(生ガキ風味)。 俺のレパートリーの広さに、誰も手が出せない。俺、フリン、ケルヴィンを除いては。 「美味なり!」 マッスル・ランチは我々3人によって食された。 ◆◆◆ メシが無くなると、パーティーは中ダレモードに入ってしまう。 「ねぇ、ギュス様〜。暇だね」 生あくびをするフリン。 「ヴェスティアのディガー集団の間で流行っているハッスル・ダンスでも踊るか?」 とか言いつつも、既に踊り始めているケルヴィン。 「…大却下」 さっきから妙に機嫌の悪いレスリー。あの日なのか? 「実は、俺にナイスなアイディアがある」俺は言った。「今からクイズ大会を開くんだ」 「…クイズ大会ならいいけど……」 ◆ ―――こうしてクイズ大会は幕開けた。 ◆ 「普通の食パンに使う小麦粉の種類は? 1,薄力粉 2,中力粉 3,強力粉」 「2.中力粉かな?」 「4,剛力粉だッ!」 ◆ 「リブロースとは、牛のどの部分?」 「胸毛?」 「脳内筋肉さッ!」 ◆ 「ゼリーなどに使われるゼラチンの原料は?」 「スライム…だったっけ」 「アルケー(万物の根元)は筋肉である」 ◆ 「ふざけるなぁ〜ッ!!!」 ノリノリな俺達は、またもレスリーによって、水を差された。 「レスリー。お前の番は次なんだから、それまで我慢しろ」 「こんなクイズ、も〜やめ〜〜〜ッ!」 ―――こうしてクイズ大会は幕閉じた。 ◆◆◆ なんやかんやで時間も過ぎ、夕方となった。 「何か用か、レスリー」 「ちょっとね。4年前のことを思い出して…」 「ああ、俺達がグリューゲルにいた頃のことだな」 「あの頃、本当はとっても怖くて逃げ出したくて、でも、それが嫌で、勇気を出したのよ。 「…今は?」 「キモい」 キモ…い? キモいとは「キモチいい」の略か? 「そうさ、レスリー。俺はキモいゼッ!!」 俺はキラリと白い歯を見せつつ、得意のポーズを取った。 「ギュス…あなたは変わったわ」 レスリーは夕日を見つめたまま、誰に言うともなく、そう言った。 「人は…他人を形や表面でしか見ないからな」 俺は、半ば思い出に耽るように呟く。 「だから俺は…」 その言葉には、これからの決意も含まれていた。 「形や表面を鍛え抜くことにしたのさ!」 |