「国語教育絶対論」に学ぶ
川 那 部 隆 徳

 日本国語教育学会主催の 第66回国語教育全国大会 が8月11・12日の2日間にわたって青山学院大学において行われた。小学校低学年「読むこと」の部会では、100名をこえる参加者があり、私の提案では、入門期における読むことの指導のあり方について協議が深められた。提案内容は、本紙6月号において紹介した実践が中心であるので参照されたい。

 さて、講演、お茶の水女子大学教授藤原正彦氏による「国語教育絶対論」では、国語教育の重要性や必要性について次の4点から説かれた。
(1) 知的活動の基礎
(2) 論理的思考は主張することによって身につく
(3) 情緒をつくる
(4) 祖国は国語
 紙面の都合により、ここでは特に印象に残った(3)について紹介する。

 氏は、「論理の出発点は情緒から始まる」と述べる。論理の出発点がどうであれ、論理の展開の仕方(たとえば、三段論法)は同じであるがゆえに、同じ事象に対する考察でも論理展開の出発点が違うと行き着く結論は異なってしまうということである。
 たとえば、ホームレス問題について批判的な見方から出発するのと同情的な見方から出発するのとでは、同一の問題でも最終的な結論は異なってくる。前者だと排除するような結論になるであろうし、後者だと働く場をいかに設けようかというような結論になるであろう。これは問題解決において、出発点を正しく選ぶ必要があるということを意味する。そして、その出発点を決めるのは情緒であると氏は指摘する。
 さらに人の悲しみを自分の悲しみとして受けとめること、なつかしむこと、美しいものに感動すること等の高次の情緒によって決定されることによって正しい結論が導き出せると述べる。さらに、高次の情緒を育むためには感動物語を読んだり、自然愛、人類愛等を主題とした作品を読んだりすることが重要となる。氏によれば、ここが国語教育が絶対的に必要となる場面である。

 また、情報化社会では、情報が過剰で本質が見えなくなっている。一般の人にとってはいかに情報を取り入れるかというより、いかに情報に溺れないようにするかが重要であり、本質を見抜く力が必要となる。その本質は情緒によって見抜かれると氏は説く。

 藤原氏は数学者である。数学者らしく明解で、小気味よい講演であった。国語教育に携わる人でないだけに「国語の質、量の飛躍的拡大が求められる」という主張にはより説得力がある。改めて国語教育の重要性を認識した。
(滋賀大学教育学部附属小)