子守唄墓守虫 第一章 モンシデムシ


僕は烏丸聡(からすまさとし)。
内海沿岸の地方都市郊外に両親妹と暮らす中学一年生。
地面や木の幹に潜むムシをみつけて観察することが大好きだ。そのせいで同級生にいじめに近いからかいを受けたり、女子に敬遠されたりもするが、つとめて気にしないように心がけていた。
学校の近辺に「青池」と呼ばれるため池があって、中央の小島には竜神様が祀られている。
五月のある日、その池のほとりでモンシデムシの産卵準備を観察していた僕は、体操選手のように身軽で印象的な目をした少年と出会う。
その少年、葺合滋(ふきあいしげる)は翌日僕のクラスに転入してきた。
僕の通う明智市立西中学校は、なにかと噂の多い校長の下、傍若無人に振る舞う一部の上級生たちと統制のとれない教師達が小競り合いをくりかえし、殺伐とした雰囲気に包まれていた。
やる気のない担任をあてにできず、一年生たちはそれぞれの方法で生き残りをはかっている。
上級生の尻馬にのる高井田、現金で安全を買おうとする金岡、言われるままされるがままの住之江、無関心をよそおう千林、情報通をきどる常盤、文鳥の世話になぐさめを求める大宮、冷静に状況を分析対処する御影、耐えきれず不登校になった長居……。
そのなかで葺合は味方を探そうともせず、教師の高圧的な指導も上級生の暴力もひとりではねのけて我が道を行く。
僕は謎の多い葺合に心を惹かれ、投げ飛ばされたり罵倒されたりしながらも接近を試みる。

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