脚高蜘蛛追跡 第一章 孵化
内海に面した地方都市・明智市には、大震災から十二年後の今(二〇〇七年)もさまざまな影響が残っている。
僕はこの町の郊外に住む烏丸聡(ラス)。有名私立高校の理系特進クラス二年生。木の幹や地面にひそむ小さなムシたちを観察するのが何より好きなことで、周囲にはちょっぴり変人あつかいされている。
僕の親友で同い年の葺合滋(キア)は、抜群の身体能力と鋭敏な感覚を持つ毒舌家。訳あって両親と離れ、清掃会社で働きながら定時制高校に通学している。
夏休み直前のある夕方、キアがひとり暮らしをしている安アパートで、一匹のアシダカグモが卵を孵した。
母グモの脚には赤褐色のナイロン糸が結びつけられていた。飼い主がいたのかも知れないと考えた僕らは、クモを保護して調査を始めた。
クモ関係のインターネットサイトを訪ねてまわった僕は、匿名の研究者から謎めいた情報を得る。
ここ数年のあいだに明智市内で、同じように糸をつけられたクモが何匹もみつかっているというのだ。
キアが勤め先から紹介してもらった害虫駆除業者でも、糸つきのクモの噂が聞かれた。
クモのみつかった場所には、新聞販売店や宅配ピザ店、郵便局など、戸別配送をしている建物が隣接していることもわかった。
どうやら誰かが何かのメッセージを伝える目的で、クモを放しているらしい。
ナイロン糸が漁網の繊維であることをつきとめた僕らは、市の沿岸部の調査を開始する。
携帯メニュー に戻る