サドルのかたち

4年ほど前に「サドルのアタリ」と云う記事を書いたのですが、その最後の方でサドルの素材の違いよりも(サドルの形から来る)アタリの違いの方がよっぽど分かり易いと書きました
しかし、それを説明するのはかなり難解で間違って解釈されるのは絶対に嫌だからUPするかどうか悩みどころだったのですが、ここ数回それよりもむしろ難解な内容を記事にしてしまったので感覚が麻痺して来たのか4年目にしてUPする気になって参りました(^_^;)
今回のお話に重要な要素の一つ「サドル進入角」を別に記事にして解説しましたので、その分今回の記事で説明しなければいけない要素が減り、当初よりは分かり易くなったのでは?と思います
「毎回意味分からん事言うヤツやなぁ」と思われたらそれ以上読み進めないで下さい
無理して読むような事ではありませんし、あくまでも私の持論で理屈ですので直感で音を感じる時にこう云った知識は逆に邪魔になる事もありますので。

では本題に移りたいと思います
当初よりは分かり易くなったのでは?と言っても今回も長い内容です
興味がお有りの方はたっぷり時間のある時にお読み下さい
それではハリキッてまいりましょう!!
 
このギター、ご存知の方は多いでしょう   そうです、コーラル・シタールギターです。
ただし、これはその復刻版のジェリー・ジョーンズ製ですが…
シタールギターと言えばスティーリー・ダンの「Do it again」やポール・ヤングの「Every time you go away」を思い出しますね〜山下達郎の曲でもアクセント的に良く使われていますし、そうそう!私の大好きな2期ジェフ・ベック・グループの「帰らぬ愛」にもアクセント的に使われて実に良い感じを出しています
構造や作りはまるでオモチャですがその音色も存在自体もまさに唯一無二!
こう云うギター私は好きですね〜(^_^)
あの「みゃ〜ん」と云うシタライズ・サウンドの元はこれ↓

イマドキは誰でも知っている事かも知れませんが、あのシタライズサウンドの秘密はブリッジの構造にあります
昔、某○レイヤー誌の別冊本「ザ・○ター」中で「弦6本に加えてボディーに取り付けられたアクリル板を通じて振動させる共鳴弦13本を鳴らす事によって、シタールっぽい音色を作り出すしくみだ」なんて事が書かれていましたが、共鳴弦はシタールサウンドには関係ありませんしアクリル板は弦振動を伝える為のものではなく腕で共鳴弦をミュートしてしまわないようにするための謂わばアームレストです
共鳴弦は確かに「わぁ〜ん」と共鳴してはいますがごく僅かな音量でしかなく、共鳴弦用ピックアップのヴォリュームをゼロにしてもちゃんとシタールサウンドはします
じゃなんで13本も余計な弦を張るんだ!?と聞かれると…私も分かりません(^_^;)
効果音的に「キロキロキロン〜」って感じにかき鳴らすのではないでしょうかねぇ…

あえて言おう

あんなのただの飾りです
偉い人にはそれがわからんのです。


と。
まぁ、実際に別モデルで共鳴弦無しのシタールギターも有ったんですけどね

それはさておき、なぜこのブリッジを使うとあの「みゃぁ〜ん」と云う音になるかというと

ブリッジには弦が乗る部分「サドル」がありますが、このサドルと弦の関係を単純に図にすると上図のようになります
理屈の上では弦はサドルと「点接点」となるものなのですが、シタールギターのブリッジはサドル頂点の前に広い接触部分が存在しているのです

シタールギターのブリッジを横から見るとこのようになっています
赤矢印部分がサドル頂点に値する部分ですが、弦が振動すると ここから青矢印までの範囲で弦がブリッジプレート表面に微妙に接触してビリ音が発生します
それがあの「みゃ〜ん」と云うシタールギターサウンドです
ブリッジを正面から撮った画像を見て頂くと弦の下にブリッジプレートと弦が擦れた跡があるのが見えると思います
(光の加減ですが3,4弦を見て頂くと分かり易いですね)

もちろんこれはシタール音を出す為に工夫された特別な構造のブリッジですが、普通のブリッジでもこれに似た現象は起きます

これは丸断面構造のサドルの場合を図にした物です
矢印が指す部分の意味ですが
赤矢印はサドル頂点を指しています
青矢印はサドル面と弦が弦振動の振幅により微妙に接触する部分を指しています

後で説明しやすいように赤矢印から青矢印の間を「ミュートゾーン」と名付けておきます
緑矢印は弦がサドルに乗る開始点を指しています
こちらも後で説明し易いように緑矢印から赤矢印の間を「サドル加圧面」と名付けます
そして、前回まで3回に渡って取り上げた「サドル進入角」と6つの要素を図で表しています
各色の矢印はシタールギターブリッジの写真にある同色の矢印と同じ意味があります
これらの要素が弦振動を特徴付け「音」になって現れます

「ミュートゾーン」が広いとピッキング直後の一番弦が振動する(振幅が一番広い)瞬間にこの「ミュートゾーン」間に弦が接触しアタック音をミュートしてしまいます
この事により音の立ち上がりがマイルドになり角の取れた丸い音に聴こえるようになりますが、アタックが鈍く潰れた様になる為に和音の分離は悪くなり、「ミュートゾーン」が広すぎると弦が振動している間中 常に「ミュートゾーン」と弦が微妙に接触し続けるためシタールのようにビビった音になります 
つまりシタールギターはこの「ミュートゾーン」が尋常じゃなく広いワケです
一方「ミュートゾーン」は狭いほどピッキング直後の一番振幅が広い瞬間でも「ミュートゾーン」に弦が接触し難い為、本来持つ弦振動がストレートに表れピッキング直後の立ち上がりがシャープになりコード弾きの時には各弦の分離が良くなって聴こえる反面、アタックが強い為にキンキンと金属質な硬い音に聴こえる傾向があります
それぞれのメリットデメリットをまとめると

ミュートゾーンが広いと
○アタックがマイルドになり丸く太い音に聴こえるようになる
×音の立ち上がりが鈍くなるため濁った様な音になり
和音の分離が悪くなる
ミュートゾーンが狭いと
○アタックがシャープになり和音の分離が良くなる
×アタック音が際立ちキンキンと硬質な音質に聴こえるようになる


のようになります
ちなみにテレキャスター用のサドルでシターライザーサドルと云う物が販売されていて、これはテレキャスターのサドルをこれに交換するだけでシタールサウンドが出せると云う物で、構造としては通常のテレキャスター3連サドルのサドルから前を延ばし「ミュートゾーン」を広げた構造になっています
画像を載せたいところですが無断転載になってしまいますので各々Googleで検索して頂くとして、延ばされた「ミュートゾーン」は本物のシタールギターの1/3くらいしかありませんので本物ほどではありませんが「みゃ〜ん」と云った音になっています
実際の音はこちらの動画で確認出来ます


「サドル加圧面」が広いと弦がサドルを押さえ付ける力は分散されサドル頂点に掛かる圧力が弱まり、強くピッキングした時などは弦がサドル頂点上をホールド出来ず、その結果弦振動は“ダル”な物になってしまいますが、適度な広さであればマイルドな角の取れた音になります
一方「サドル加圧面」は狭いほど弦がサドルを押さえ付ける力はサドル頂点付近に集中し、強い圧力で弦をサドルに押し付けますので弦とサドルはカッチリと固定され強いピッキングにも負けずに位置をホールド出来ます。その結果アタックの強いしっかりとした弦振動を作るようになります。
それぞれのメリットデメリットをまとめると

サドル加圧面が広いと
○マイルドな角が取れた音になる
×ビリ付いた様な締りの無いダルな音になる

サドル加圧面が狭いと
○アタックの強いしっかりした音になる
×特に無し


と云う様になります

丸断面構造のサドルで言うとその直径が大きいほど「ミュートゾーン」「サドル加圧面」は広く、直径が小さくなるに従って「ミュートゾーン」「サドル加圧面」は狭くなります



テレキャスターのサドルを例に挙げると50年代のサドルは直径が約8ミリ 60年代のサドルは約6ミリで、50年代のテレキャスターは60年代のテレキャスターと比べて「ミュートゾーン」「サドル加圧面」が広く、60年代のテレキャスターは50年代のテレキャスターと比べて「ミュートゾーン」「サドル加圧面」は狭くなります
径の大きい50年代サドルはブラス素材、径の小さい60年代サドルは鉄素材とそれぞれに素材の違いはありますが、素材の違いよりもこのサドル直径の違いからくる弦の“当たり”の違いの方が分かり易く音に現れると私は思います
ただ、60年代の直径の小さなサドルはスパイラルサドルと云うネジ棒で出来た物で、このネジのネジ山が悪さをして弦をミュートしてしまう事があります
これは後でちょっと解説するとして…

シタールギターのブリッジは上の写真で見れば分かりますが「サドル加圧面」はゼロです
しかしサドル進入角が極端に小さいのです
サドル進入角はその角度が浅いほどサドルに掛かる弦の圧力は減り、結果弦はサドル上をホールド出来ず、強くピックングした時などはサドル上で弦が踊るようになり酷い場合はビリついた音になります。フェンダーのジャガーやジャズマスターがビリつきやすいのはこれが原因です
一方サドル進入角が深いとサドルに掛かる弦の圧力は強くなり弦はしっかりとサドル上にホールドされますが、大きすぎると前回の「弦の剛性とサドル進入角」で取り上げたように、弦の剛性が強い場合 弦が曲がる事に逆らい弦振動をロスさせてしまいます

また円断面のサドルの場合、サドル進入角が深くなるに従ってサドル加圧面が広くなりますのでサドルに掛かる力は広く分散され肝心のサドル頂点に掛かる力が減ってしまいます
上図のサドル進入角は大体45度くらいで書いてありますがこれがもし90度だとして考えてみてください。弦は真下から立ち上がるようになりますので「サドル加圧面」は広がる事になるのがお分かり頂けると思います
ただし、「サドル加圧面」が広がる事でサドルに掛かる力は分散され、サドル頂点に掛かる力は相対的に弱くなりますが、「テンション?実験編」で検証したようにサドル進入角が深くなるとサドルに掛かる力自体が大きくなりますのでそれぞれの要素を相殺し合う事になります
しかしサドル進入角が深くなるほどにサドルに掛かる力の向きがナット〜サドル間の弦の向き(ネック側の向き)に近くなりますので、力自体は強くなってもその力は「弦がサドルに乗る開始点」により強く掛かるため、やはりサドル頂点に掛かる力は弱くなります
言葉では説明が難しいのでgifアニメにして説明しますと



赤矢印はサドルに最も力が掛かる場所で、その長さで力の量を表しています
この様にサドル進入角が深くなるほどサドルに掛かる力の量は増えますが、その中心点がサドル頂点からズレて行きます
このため、ある一定以上に深いサドル進入角になった時、サドル頂点に弦を保持できる力は逆に弱くなってしまいます

サドル部分だけでもこれだけ弦振動のあり方を変える要素があるのです
かなり複雑でしょ?

ではさまざまなサドル形状を例にとって解説して行きます
 
(矢印の色は上の解説と同じ意味です)

まず、画像左のチューン・O・マチック(以下TOM)タイプですが
この場合サドル頂点はサドルの中心でなく先端にありますから「ミュートゾーン」は存在しない事になります。またその形状から「サドル加圧面」も非常に狭くなります。この2点から考えますと極端にシャープでアタッキーな弦振動を生むサドルであると推測されますが、他のブリッジシステムと比べるとサドル進入角が浅くその分サドルに掛かる弦圧力は小さくなりますので上記2点から想像出来るほど極端では無くなります
ただし、このタイプのサドルは弦をホールドする為の弦溝を切る必要があり、過去記事「サドルのアタリ」にあるように弦溝の切り方次第で音質は変わってしまいます

次に右のテールピースブリッジタイプですが
これはレスポールジュニアなどのモデルに採用されているブリッジですが、TOMの様に独立したサドルを持たないバー型のブリッジで、バーの頂点がそのままサドル頂点になります
この場合TOMと比べると「ミュートゾーン」は広くなりますがTOMと決定的に違うのは「サドル加圧面」の広さとサドル進入角です
サドル進入角は90度(と言うか180度?)もあり極限のサドル進入角の深さなのですが「テンション?実験編」で解説したようにサドル進入角が深くなるほどサドルに掛かる力の向きはネック方向に向かい、進入角90度になるとナット〜サドル間の弦の向きと同じになってしまいます
と言う事は弦の張力が一番掛かるのは右画像の緑矢印で指した部分に集中し、しかも広いサドル加圧面で力を分散されるためサドル頂点に掛かる力は非常に少なくなります
これは上のgifアニメで説明したサドル進入角90度の時の理屈の通りなんです
このタイプのギターを持っておられる方は試しにブリッジ付近の弦をつまんで左右に振ってみて下さい
サドル頂点上で簡単に弦を左右に振れてしまうのが分かると思います
この様にサドル頂点に掛かる力が極端に少ない構造のため、究極に深いサドル進入角のはずが出てくる音はサドル進入角が浅い時のようにアタックがソフトな柔らかい音になります
また「ミュートゾーン」はバー表面の形状に依存するため、上画像の物の様にバー表面にわずかですが尖ったような頂点がある形状の場合は「アタックがソフトな柔らかい音」になりますが、この形状がカマボコの様に潰れた半円形だった場合は「ミュートゾーン」が広くなりビリ付いたような音になってしまいます


次にストラトキャスターのサドルで比較してみます
左はヴィンテージタイプの鉄板をプレスで曲げて成型されたサドルです
こちらのサドルはTOMの時と同様「ミュートゾーン」「サドル加圧面」共に狭く弦のアタック音を生かせる形状になっています
ただ、TOMの時と違うのはサドル進入角で、こちらはグッと深くなります
こう云った構造的要素とシングルコイルピックアップの特徴であるアタック音の再現性の良さがストラトキャスター特有のパキッっとした音色を作るのです
ただ、「ミュートゾーン」は製造時のプレス技術に依存し、プレス技術が低いメーカーで製造されるとサドル頂点断面が綺麗な半円形にならず、半楕円形になってしまう事もあります
そうすると「ミュートゾーン」は広くなり、アタック音をミュートしてしまいますのでストラトらしい音とは行かなくなってしまいます
チタンサドルが発売され始めた頃に○ェンダージャパンのストラトに取り付けたことがあったのですが、交換後 音の粒立ちが良くなり和音の分離が良くなって聴こえました
「ほほう〜」と思ったのですが良く見るとチタンサドルと元付いていたサドルではプレスの完成度が段違いでチタンサドルの方は実に綺麗な半円形のサドル頂点で一方フェ○ダージャパンのサドルはと云うと…
まぁ価格が段違いなのでしょうがないですよね(^_^;)

で、右はシェクターのブラス素材のブロックタイプサドルです
ご覧のように「ミュートゾーン」「サドル加圧面」共に広くアタック音を柔らかくする要素が詰まっています
この為、形成される弦振動はアタックが押さえられた非常にマイルドな物になり、ヴィンテージストラトとは違った音になります

ちなみにこの様なブロックサドルは、いろんなメーカーから発売されています
USAフェンダーもアメリカンスタンダードモデルなどにブロックタイプのサドルを採用していますがサドル頂点の形状がこのシェクタータイプとは全く違うんです
資料になる画像が残念ながら手元に無いので詳しくはGoogleで画像検索して頂いて、ここではフェンダーのブロックサドルとサドル頂点の形状が似たゴトーガットの鉄ブロックサドルと比べると↓



同じブロックサドルタイプでもこれだけサドル頂点の形状が違うのです
左のゴトーガット製鉄ブロックサドルのサドル頂点の形状は上のヴィンテージストラトの鉄曲げプレスの物に近い形状になっています
細かく言うと実際は鉄曲げプレスサドルよりも「ミュートゾーン」「サドル加圧面」共に狭くなっており、この点フェンダーアメリカンスタンダードのブロックサドルの方が鉄曲げプレスのサドル頂点にそっくりな形状をしています

ゴトーガットはブラス素材のブロックサドルも作っているのですが、面白い事にこちらのサドル頂点の形状はシェクターのブロックサドルとほぼ同じなのです
これらは何を意味するのか?
鉄素材とブラス素材でよりそのイメージの音に近づける為にサドル頂点の形状を作り分けてるのではないか?
興味があったのでゴトーガットさんに聞いてみました
すると「そう云った意図ありません」と。
鉄ブロックサドルは焼結と云う、鉄などの粉末を製品形に加圧圧縮し、溶ける直前の温度にまで加熱する事で製品を形成する方法で製作されていて、ブラスブロックサドルはブラスの塊から切削する方法で製造されるその製造方法の違いでそれぞれの形が違うのですと云うご回答でした
なんだ、深読み過ぎたなぁ(ーー;)
ではフェンダーアメリカンスタンダードのサドルはなぜシェクターのサドル頂点形状と違ったのでしょうか?
さすがにこれは直接聞く事は出来ませんがシェクターと同じサドル頂点の形状では所謂フェンダーらしい音にはならなかったからではないかと。
モダンなルックスにしたとしてもフェンダーとしてはフェンダーらしさは譲れなかったのでは?
いや、やっぱそんな意図は無いんだろうなぁ…
としても、サドル頂点の形状で弦の振動のあり方が変わるのは間違いないんです


先ほど60年代テレキャスターのスパイラルサドルのねじ山が悪さをすると言いましたがそれは↓



スパイラルサドルはネジの「谷」に弦を嵌めて左右にブレない様にホールドする事が出来るのですが、画像の様に弦が振動した時に振幅でネジ山に微妙に弦が接触し、ネジ山が「ミュートゾーン」となりアタック音をミュートしてしまいます
ネジですので斜めに山・谷が切られているのですが、真っ直ぐ立ち上がってくる弦に対してネジ山は斜めに入るため、画像では弦に対し右側のネジ山が特に弦に近く接触し易くなります
これを解消するために当店ではこのネジ山を削る加工をしています



この様にネジ山を削るのですが、その時に削る深さを各弦で変えています
これは1・2弦ですが1弦に対して2弦はより深く削りを入れてサドル頂点の位置をずらしています
この事でミュートの解消と、多少ですがオクターブピッチの補正を同時に行なっている訳です

サドルの形状から来る弦振動の変化はアコースティックギターにも起きます
オーナー様が自分でアコースティックギターの弦高調整をされた時、サドル頂点を削って弦高を下げて、その後サドル頂点部分を丸く整形し直されていないものをたまに見ます
そうなるとやはり「ミュートゾーン」が広くなりますので弾いてみると「みゃーん」と云った音になっているんです
昔のマーチンのロングサドルの様にブリッジにサドルが接着されていて外す事が出来なかったりサドル底面を削るとブリッジとのデザイン上のマッチングが悪くなってしまうような時は私たちリペアマンもサドル頂点側を削りますが、通常はサドル底面を削って弦高調整をします
また、タ○クなど樹脂素材をサドルに使用した場合、弦の下でサドルが変形してしまうことがあります



サドルに弦が乗った跡が入っていますが、この部分が潰れてバリのように上に伸びているのがお分かり頂けるでしょうか?
この様になってしまうと「ミュートゾーン」が広いのと同じ状態になります
もし、あなたのアコースティックギターが「最近どうも音が濁って聞こえる」など「ミュートゾーン」現象に近い症状があった場合、サドルの頂点を確認してみて下さい
サドルがこの様になっていたなら牛骨など潰れ難い素材に交換するか、よく切れるカッターナイフでバリの部分を削ってみて下さい(手やギターを傷付けないように!!!)
「ミュートゾーン」現象が解消されるかも知れません


ここまでサドルの形状で弦振動の仕方が変わる事を解説して来ましたが、これが顕著に起こるのはギターの高音弦など剛性の低い弦で5・6弦になるとその影響は少なくなります
これは剛性の高い弦ほどサドル頂点真上から振動し難くなる事に原因があるようで、多少「ミュートゾーン」が広くても「ミュートゾーン」の外側から振動し始めるのでその影響を受けにくいからと推測されます
同じように弦の剛性が高く 尚且つスケールの長いベースではほとんど影響しません
もちろんシタールギターのブリッジのように「ミュートゾーン」が滅茶苦茶に広い場合は剛性の高い弦でもその影響を受けます

サドルの形状で音が変わるのと同じ理屈でフレットの形状でも音は変わります
フレットも半円断面で弦と接触していると考えて頂くと、サドル頂点の形状と同じ理屈を照らし合わせられる事がご理解頂けると思います



この様に幅細のフレットは「ミュートゾーン」が狭く、幅広なフレットは「ミュートゾーン」が広くなります
この要素で作り上げられる弦振動はサドルの時と全く同じで

幅広なフレットは
○アタックがマイルドになり丸く太い音に聴こえるようになる
×音の立ち上がりが鈍くなるため濁った様な音になり和音の分離が悪くなる

幅細なフレットは
○アタックがシャープになり和音の分離が良くなる
×アタック音が際立ちキンキンと硬質な音質に聴こえるようになる


と、なります
ただし、フレットはサドルと違って減ります
(サドルも一部の物は腐食して減ったようになりますが…)
幅細なフレットでも減ってフレット頂点が平らになれば広い「ミュートゾーン」が発生してしまいます
フレットが減ってくると音までスッキリしなくなって来た経験をされた方も多いと思います
その原因はフレットが減って広がった「ミュートゾーン」なんです
逆にフレット交換をしたらキンキンした音になってしまったと云う方もいらっしゃると思います
この多くの原因はフレットが減って「ミュートゾーン」が広がった状態の音に慣れてしまった、又は耳が馴染んでしまっていた所にフレット頂点の綺麗な新しいフレットに交換された事で相対的にキンキンして聴こえるようになってしまった。と云う事ではないかと思います

すり減ってしまったフレットをフレット摺り合わせで調整した後、フレット頂点を正確に半円形に整形した場合、やはり同じようにフレットすり合わせ前よりも音がシャープになります
減ったフレット頂点を整えてからの整形ですから新品の時と比べるとフレットは低くなり、フレット頂点の整形をしても平ベったい形状になってしまいますので新品の時と比べると「ミュートゾーン」はどうしても広がってしまいますが、減って平らになったフレットの時よりは新品に近くシャープな音に蘇るのを体感して頂けると思います
ただ、リペアマンによっては摺り合わせ後の整形をしない人も居るんですよねぇ
そうすると摺り合わせ前よりも逆に「ミュートゾーン」が広くなり、しかも削られたフレットの角が尖ってグリッサンドをした時に指が痛くなるんです
ギター修理店にフレット摺り合わせを依頼される時はフレット頂点を半円形に整形してくれるか確認した方が良いですよ

サドル頂点の形状で弦振動のあり方が変わり音が変わる事を解説してまいりましたが、あくまでもこれはギター全体が成す「音」の一要素です
しかし、弦と言うのは人間で言うと声帯です
「音を出す」と云う事においてこれほど重要な要素は無く、素材に音響的特徴があるとしても、そもそもの弦振動に癖があればその癖をカバーしたり出来る物ではありません
それは例えるなら子供でも大人でも風邪をひけばガラガラ声になってしまうようなもの
喉の太さも口の中の大きさも頭蓋骨の大きさも体格も音響的要素は全然違っても、喉が痛めばみんな同じようにガラガラの聞き苦しい声になってしまうでしょ?
それと同じように弦振動のあり方の特徴はその他の音響的要素が変わっても必ず残ってしまうんです
非常に重要な事とご理解頂けましたでしょうか?
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