ブリッジ浮き

アコースティックギターを購入する時にブリッジの浮きを入念にチェックされる方がいらっしゃいます。 店頭で紙を差してみたり、なかにはシックネスゲージと言う隙間ゲージまで持参してチェックする人までいるようです。 中古ギターなんかではブリッジ浮きは割りと良くある事なので購入前にチェックしておくにこした事は無いでしょう
しかし、あまり神経質になってほんの少しでもブリッジの隙間に紙なんかが入ったからと言って「即修理が必要」と思うのはちょっと待って下さい。 紙や隙間ゲージを差し込んでその深さが5ミリ以内ほどであれば事態はさほど深刻ではありません
またその隙間がブリッジの外周に添った形であればこれは「仕様」であるかもしれません

この画像は’99年式のD-45のブリッジを外したところです
トップ板のブリッジの底に当たる部分の塗装が剥がされているのが分かると思います
木工ボンドやニカワは塗装の上には着きませんからこのように塗装を削って(或いはマスキングしてから塗装を吹いて)ブリッジを接着するときにはブリッジ裏とトップ板表面が木面同士で着くようにするのですが、マーチンの場合’90年製くらいからだと思うのですが塗装を剥がす範囲が狭くなっています。 上画像の青矢印が指す部分がトップ板の生地面と塗装面の境目で、赤矢印が指している部分がブリッジ外周になる所です
青矢印と赤矢印の間、トップ板の色が少し違っているのが見えるでしょうか?

寸法にして4o。この範囲は接着剤が着かないエリアになります
つまりブリッジが接着された状態でこのエリアはブリッジとトップ板が接着されない事になり、弦の張力でブリッジが引っ張られるとほんの少しですが浮いたような状態になり薄い紙などが入ってしまいます
しかしこのエリアより内側(上画像の青矢印から内側の塗装が乗っていない部分)がきっちり接着されていれば接着強度自体にはなんら問題が無いのです
ですのでこのエリア内だけで浅く薄紙が入るような程度であれば深刻になる必要はありません。この時期のマーチンは「こうなっている」ものなのです

ではどうしてこんなに内側を剥がすのでしょうか?
あくまでも推測なのですがこれ以前のマーチンではブリッジ外周ギリギリまで塗装を剥がしていたのですがこの時期にブリッジ周辺の塗装浮きが頻発したのです。特にブリッジ前面での塗装浮きが良くありました
もっと昔のマーチンでも同じようにブリッジギリギリまで塗装を剥がしていましたがその様な症状はあまり見られませんからある時期から塗料が変わって塗装の喰い付きが悪くなったのではないでしょうか(この辺の事実は私なんかよりマーチンマニアの方がよっぽど良く知っていると思います)
変わったと言ってもラッカー系である事には違わないようですが塗装の質感自体も昔とはだいぶ違ってここ20年ちょっと前辺りのマーチンからそれ以前のマーチンと比べて塗装の質感が全く変わりました。今の塗装は20年以上経ってもほとんどヤレないのです
70年代の塗装なんかはヤレが酷くて汗なんかの水分が着いただけで溶けたようになり管理が大変でしたが今の塗装はほったらかしでも乾拭きしただけで大体綺麗になります

話が横道に逸れてしまいましたがトップ板の塗装を剥がす範囲を狭めたのは塗装浮き防止の為かと私は推測しています
今回D-45のブリッジを剥がしたのはブリッジが1/3ほど剥がれてブリッジ自体が変形していたと言う経緯がありますが、浮きが浅くブリッジの外周に沿った物であれば特に修理の必要はありません
そう説明しても「気持ち悪いから貼り直して欲しい」と貼り直しをお受けしたことはありますが、人に聞いた話だとリペアショップにブリッジの貼り直しを頼んだらブリッジ周辺の塗装をギタギタにされて帰ってきたなんて事もあるようです
今回のD-45のようにガッツリ剥がれていて剥離に使うヘラが入りやすい場合は剥がしの作業はある程度以上の神経を使う必要はありませんが、元々ちゃんと付いていて薄紙が入る程度の浮きの場合は相当に神経を使います
ブリッジを剥がす時はブリッジに熱を与えて接着剤を緩まし、浮きがあった所からヘラを差し込んで剥がして行きますが、このヘラの厚み(約0,3o)よりも浮きが小さい場合はヘラの挿し始めがどうしても無理やりになってしまいその部分の塗装に多少の傷や凹みは出てしまいます
当然それを直してからブリッジを貼り付けますが場合によっては塗装表面に「直した感」が出てしまい神経質な人には気になってしまうかも知れませんし、艶消し塗装だったりすると磨き仕上げが出来ませんからトップ全面に艶消し塗装の吹きなおしが必要になってきたりします
当店ではそう云ったリスクを事前に説明してご理解頂いてからでないとお受けしませんが易く受けてしまうショップも少なくありません
目で見ても分からないような些細なブリッジ浮きを修理に出して一目瞭然のブリッジ貼り直し感満載のギターになってしまわないよう気をつけましょう

ちなみにですが今回のD-45は件の“エリア”をブリッジ外周から約1oほどまでに広げて、変形したブリッジ底面を修正し(ここで書いた要領と同じく)接着しなおしました
“エリア”を外周ギリギリまで持っていくとブリッジ周辺の塗装浮きを起こしかねませんからね
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