銅板にニッケルメッキをしてみよう
■ねらい
 比較的イオン化傾向が小さい金属イオンを含む水溶液を電気分解すると、陰極に金属が析出する。この現象を利用して、ニッケルの電解めっきを行い。電気分解やめっきができる原理やその方法を理解する。
 
■準備と留意点
器具:ビーカー(300 ml)、直流電源、直流電流計、可変抵抗器(30 Ω,1 A以上のもの)、銅板(約3 cm×15 cm)、ニッケル板(約3 cm×15 cm)、フォームポリスチレン(約5 cm×12 cm×2 cm)、ミノ虫クリップ付きリード線(約50 cm×4本)、ピンセット、サンドペーパー、ガラス棒、上皿天秤、分銅セット、薬包紙(4枚)
サンドペーパーは、150番程度と400番程度の2種類用意するとよい。目の粗い150番でさびや汚れをほぼ落とし、目の細かい400番で表面をなめらかにするとよい。表面がつるっとしているとめっきの仕上がりがきれいになる。目の細かいサンドペーパーのかわりに、クリームクレンザーや炭酸水素ナトリウムの粉を使って磨くと油分も取れてよい。
薬品:硫酸ニッケル(U)・六水和物NiSO・6HO(30 g)、塩化アンモニウムNHCl(3 g)、ホウ酸HBO(3 g)、純水(200 ml)
・マンガン乾電池(1.5 V)を1個直接つなげばちょうどよいくらいの電流量になるので、可変抵抗器なしでもできる。
・フォームポリスチレンには、2〜3 cm離して極板を差し込む切り込みを入れておく。
 
■操作と留意点
@300 mlビーカーに純水200 mlを入れ、これに硫酸ニッケル(U)(30 g)、塩化アンモニウム(3 g)、ホウ酸(3 g)を上皿天秤で計りとり入れて、ガラス棒でかき混ぜ溶かす。
・ホウ酸が溶けにくいときは、溶液を少し温めるとよい。
A銅板とニッケル板の表面をサンドペーパーでよく磨き、さびや汚れを落とす。銅板は、さらに目の細かいサンドペーパーや炭酸水素ナトリウムなどできれいに磨く。両方とも流水でよく洗う。このとき、めっきする部分に指で触れ指紋(指の油)が付かないように、注意する。めっきされない部分は触ってもよい。
B直流電源の−極と銅板、+極とニッケル板を導線で接続する。その回路に直列に直流電流計と可変抵抗器をつなぐ。
・以下の図のように配線すれば、リード線は、赤色2本・黒色2本ずつでよい。
C可変抵抗器の抵抗値を最大にしておく。直流電源のスイッチを入れ、電圧を約3 Vにする。
D可変抵抗器を調整し、電流を0.1〜0.5 Aにし、約10分間めっきをする。
E電源のスイッチを切り、ピンセットでめっきされた銅板を取り出し、水道水でよく洗い、乾燥する。
・めっきする金属板は、銅板がよい。色の変化でめっきされていることがよくわかるし、めっきの仕上がりがよくはがれにくい。鉄だと光沢が悪く、はがれやすかったり仕上がりが悪い。
・通じる電流が強いと速くめっきできるが、表面が荒くなり、ひび割れができたりしてはがれやすく仕上がりが悪い。弱すぎると、時間がかかるし黒くなったりする。1 cmあたり0.03 A程度で約10分を目安とする。この電流密度の調整が美しい仕上がりのために重要である。
・めっきをする銅板のニッケル板に向いている面は比較的厚くめっきできるが、その裏側はやや薄くなる。両面とも均一にしたいときは、5分程度経過したときに裏返すとよい。
・めっき液は、めっきされなくなったニッケルイオンの分、ニッケル板が溶けイオンになり、ほぼ組成に変化がないので、何回も繰り返し使用が可能である。捨てずに次回の実験用に保存しておくとよい。
 
■後始末
・めっき液は、重金属イオンであるニッケルイオンを含むので、回収し適切な廃液処理をする。
 
■発展実験
・めっきする金属板を亜鉛、アルミニウム、鉄、鉛などに変えてめっきしてみる。
・電流値を変えてめっきしてみる。そのとき、 電流値×時間(つまり電気量)を一定にする。
・電流値を一定にして、めっきする時間を変えて行ってみる。
・めっきする前のニッケル板と銅板の質量とめっき後の質量を測定してみる。このとき電子天秤など精密に測定できる天秤を使用する。
・めっきによるニッケル板の質量減少量と銅板の質量増加量の比とニッケルと銅の原子量の比との関係を調べる。
・めっきによる金属板の質量変化と電気量(電流値×時間)の関係を調べる。
 
■実験結果とまとめ
@塩化アンモニウムは、無色の結晶で水に溶かすと液温が下がる。
・ホウ酸は、液温が低いとなかなか溶けない。少し温めてやるとすぐに溶ける。
B直流電源ではなく、マンガン乾電池を1個か2個直列につなぐと、ちょうどよいくらいの電流量になる。これで10分間電流を流すと美しくめっきできる。
C可変抵抗器の抵抗を最大の30 Ωにすると、ごくわずかの電流しか流れない。10 Ω前後でちょうどよいくらいになる。
D1分くらいでめっきができはじめる。5分たつとニッケル板の方を向いた面はきれいにめっきされる。その裏側のメッキはやや薄い。
  裏返したあと5分間めっきを続けると両面とも美しくメッキされる。
E美しい光沢のめっきができた。水道水で洗ったあと指でこすってもはがれない。
 
■考察の例
・ニッケルイオンNi2+ を含む水溶液に電極を浸し、直流電圧をかけると陰極でニッケルイオンが還元される。
   Ni2+ + 2e → Ni
  この反応で、ニッケルか析出し、陰極板がニッケルめっきされる。
・亜鉛よりイオン化傾向の小さい金属のイオンが水溶液中にあると、これらのイオンは水分子よりも還元されやすいため、直流電圧をかけると陰極板上で還元され析出する。つまり、亜鉛めっき,スズめっき,銅めっき,銀めっきなどは電気分解を利用してできるということになる。
・この実験で陽極では、極板のニッケルが酸化され陽イオンになり溶液中に溶解していく。
   Ni → Ni2+ + 2e
・銀よりもイオン化傾向が大きい金属が陽極板のときは、水よりもこれらの金属の方が酸化されやすいため、直流電圧をかけると陽イオンになり水溶液にとけ出す。
・陰極と陽極におけるこれらの酸化還元反応によって、水溶液中を電流が流れる。
・電気回路は、直列なので陰極と陽極で反応に使われる電子(電気量)は同じ量である。つまり、陽極で陽イオンになり溶けるNi2+と陰極で析出するため失われるNi2+は、同じ物質量である。そのため、めっきを繰り返してもめっき液中のNi2+の濃度は変わらないということになる。
・塩化アンモニウムNHCl(は、水溶液の電気抵抗を小さくして、電圧が小さくてもめっきができるようにするために加えてある。
・めっきをするときのpHは、5.3〜6.2位がよい。pHが大きい(アルカリ性)と黒い部分ができやすい。pHが小さいと割れ目ができたりしやすい。そこで、pHを一定のに保つためにホウ酸HBOを加えている。また、ホウ酸を加えることで、めっき面に光沢がでるという効果もある。
 
■参考文献
長倉三郎・武田一美監修,「新訂図解実験観察大辞典 化学」,東京書籍(1992),p.375,会田良,
 ”219 ニッケルめっき”,乾電池で行う方法が紹介されている。
 
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