くだもの電池
ねらい
・イオン化傾向の大きさの異なる2種類の金属を電解質溶液に浸すと起電力が生じ、電池ができることを確かめる。
・レモン電池は、既に知っている生徒も多いが、実際につくったり見たりしたことのない生徒も多い。
・身近な材料で、いとも簡単に電池ができることで、感動し、親しみも増し効果的である。
 
準備と留意点
器具:銅板,亜鉛板(それぞれ約2 cm×5 cm),ミノ虫クリップ付きリード線(赤、黒各2本),サンドペーパー(150番程度),デジタルテスター
省エネルギー電子機器:発光ダイオード(1.8 V)、電子オルゴール、太陽電池用モーター、液晶時計など
材料: レモン(1/2) [ミカン,グレープフルーツなどでもよい。]
金属板は、あらかじめさびや汚れをサンドペーパーなどできれいに落としておくこと。
 さらに、希塩酸で洗っておいても良い。その後、水道水でよくすすぐこと。
・電位差の測定は、デジタルテスターデジタルマルチメーターを使うとよい。これらは、内部抵抗が安価なものでも1 Mオーム、普通のもので10 Mオーム以上あり、たいへん正確に起電力を測定できる。針式のテスターや電圧計では、内部抵抗は20〜50 kオーム程度しかない。レモン電池は、電池自身の内部抵抗が大きいので、測定器の内部抵抗が小さいと電圧降下を生じ、実際の起電力より低い測定値になってしまう。
発光ダイオード(LED)は、1個40円程度。極性があるので、+−を逆に接続すると発光しない。
電子オルゴールは、ICメロディともよばれ、1.5 V用で360円程度。これにも極性があるので、+−を逆に接続すると鳴らない。
 購入は、教材業者に注文。製品についての問い合わせは、大和(だいわ)科学教材(TEL(06)709-2868)
太陽電池用モーター(ソーラーモーター)は、0.4 V,16〜22 mA(形式H-148,H-151)で660〜760円程度。1.5〜3 V,4〜5 mA(マブチモーター製RF-330TK)で520円程度,モーター用プロペラは90円程度。
 
操作と留意点
@デジタルテスターの+極に赤色リード線を、−極に黒色リード線を接続する。
A赤色のミノ虫クリップに銅板を、黒色ミノ虫クリップに亜鉛板をはさむ。
Bデジタルテスターのダイアルを電圧Vにする。
Cレモンを半分に切り、切り口に上記の図のように、銅板と亜鉛板を差し込む。
Dテスターの測定値を読む。
・発光ダイオード、電子オルゴール、太陽電池用モーター液晶時計などを接続してみると面白い。
 
後始末
・実験に使ったレモンには、有害な亜鉛イオンがとけ込んでいるため食べてはいけない。廃棄すること。
・金属板は、水道水でこすって洗い、乾かしておく。再び使用可能である。
 
実験結果とまとめ
・このレモン電池1個で、約0.9〜1.0 Vの電位差が、測定される。
・銅板と亜鉛板が接触すると電位差は、0 Vになってしまう。
・2つの電極をレモンのどこに差し込んでもほぼ同じ電位差を生じる。
・2個のレモン電池を直列に接続すると電位差は、1.9〜2.0 Vになる。
 
[省エネルギー電子機器の作動状態]
発光ダイオードは、レモン電池1個では点灯しない。2個直列に接続するとかすかに点灯する。2個を並列に接続したのでは点灯しない。
電子オルゴールは、レモン電池1個でも普通に作動する。
太陽電池用モーター0.4 V,16〜22 mAでは、レモン電池1個では回らず、2個を直列・並列いずれに接続しても回らない。接続すると電位差が大きく低下する。
 1.5〜3 V,4〜5 mA(マブチモーター製RF-330TK)であれば、レモン電池1個でも回転する。
液晶表示の時計のボタン電池をはずし、そのボタン電池の電極にレモン電池を接続する。レモン電池1個では、表示もでないし作動もしない。2個並列に接続しても作動しないが、2個を直列に接続すると表示も現れ正常に作動する。このとき電圧は、約1.7 Vに低下する。
 
純水で電池:100 mlビーカーに純水を入れ、これに磨いた銅板と亜鉛板を浸しただけで、約0.7〜0.8 Vの電位差を生じる。ここにレモン果汁を1滴入れただけで電位差は、約1.0 Vになる。
・純水に銅板と亜鉛板を浸したものに電子オルゴールを接続するとゆっくりしたテンポで低音でなる。これにレモン果汁を1滴加えると普通に鳴り始める。
 
デジタルテスターの+極に銅板を−極に亜鉛板を接続し、それぞれを左右の手で持つだけで約0.5〜0.8 Vの電位差を生じる。手を純水で濡らして同様に左右の手で持つと約0.8〜0.9 Vの電位差を生じる。人間電池の実験となりおもしろい。
 
考察の例
レモン電池の電圧は約0.9〜1.0 Vで、ボルタ電池の初めの起電力1.1 Vにほぼ等しい。
・レモン果汁中には、クエン酸などの有機酸があり酸性である。そこに亜鉛板と銅板を入れたのだから、ボルタ電池と同じ原理で起電力が生じたと考えられる。
・レモンや柑橘類には、内部に房があり、さらにその中は小さな細長い袋の集まりになっている。 電解質水溶液が隔てられているとイオンが移動できないため電気が運ばれず電池にならないように思えるが、実際はレモンのどこに電極を差し込んでもほぼ等しい電位差を生じる。
 このことは、レモンの房や袋は、半透膜であり素焼き板、または塩橋で結ばれているようにイオンは比較的自由に移動できるのだと思われる。
レモン電池で電位差が生じる原理は、一般には、ボルタ電池と同じで、次のようなイオン反応が起こっていると説明されている。
  負極(亜鉛板) Zn → Zn2+ +2e o = -0.763V(対SHE)
  正極 (銅板)  2H + 2e → H o = 0.000V(対SHE)
 もしこの反応がこの電池の原理だとすると、標準電極電位から考えて、起電力は約0.76 Vにしかならない。さらに、銅電極上での水素過電圧を考えると0.4 V以下になるはずである。
 しかし、1 Vに近い起電力が生じるのは、銅板の表面に銅の化合物が存在し、次のどれかの半電池反応
 Cu2+ + 2e → Cu          o = +0.337 V(対SHE)
 CuO + 2H + 2e → Cu + HO  o = +0.556 V(対SHE)
 CuO + 2H + 2e → 2Cu + HO o = +0.463 V(対SHE)
 が進み、亜鉛の反応とあわせた起電力が生じるからと言うのが本当であろう。
発光ダイオードは、このレモン電池1個では、点灯しない。2個を直列にするとかすかに発光し、並列では発光しない。ということから、発光ダイオードの点灯には、一定以上の電圧が必要でその電圧は、1.4〜1.9 Vであると考えられる。この一定の電圧以下では、点灯しないのであろう。
太陽電池用モーターは、小型モーターの中では省エネルギーである。それでも、20 mA以上の大きな電流が必要でありレモン電池で回転させるのは無理のようである。
電子オルゴールは、様々な曲や音のものが市販されており、色々なもので試すと楽しい。これは、1.5 V用であるが、約0.7 Vからゆっくりしたテンポで低音で鳴り出す。約0.9 V以上で普通に鳴る。しかもわずかしか電気を消費しないため、電圧もほとんど下がらず、溶液が乾燥したり、電極が溶けてなくなったりしない限りいつまでも鳴り続けている。超省エネルギー電子機器である。
・文献によると電子オルゴールは、0.8 V,0.1 mA以上から鳴り出すそうである。
液晶電卓は、1.2 V,0.002 mA以上で表示・動作させることができる。電圧さえあればほんのわずかの電流で作動する。これも超省エネルギー電子機器と言える。積層レモン電池で、1層の電池では、表示がたいへんうすいか、まったく表示されない。2層でちょうどよいくらい。3層にすると電圧が大きすぎて数字でないところまで表示されてしまう。電圧の違いが、表示の濃さで明瞭にわかっておもしろい。
豆球は、1.1 V用でも200 mA近くを必要とするのでレモン電池では、とうてい点灯することはできない。
 
発展実験
[積層レモン電池の作成]
 約5 cm×10 cmの銅板と亜鉛板を4枚ずつ用意し、レモンを5 mmくらいに輪切りにしたものをはさんだレモン電池を4個つくり、直列につないだものに発光ダイオードをつなぐと、電圧が大きくなりはっきりと発光する。このときレモンは、極板からはみ出さないように少し小さめに切っておく。
・積層レモン電池の電圧は、無負荷(電流を流さない)では、約0.9 V×個数になる。しかし、内部抵抗が大きいため、電流を流すと電圧は大きく低下してしまう。そのため、電流が少ししか流れず、豆球をともしたり、太陽電池用モーターを回転させたりはできない。
発光ダイオードは、1.8 V,0.1 mA以上で発光し始める。レモン電池では、2層からかすかに点灯し始める。3層ではっきり点灯する。4〜5層では、電圧は約1.8 Vで、電流は0.6 mA程度になる。
太陽電池用モーターは、0.2 V,20 mA以上から回り始める。レモン電池では、内部抵抗が大きいため何層に重ねても回転させることはできない。
内部抵抗を小さくするためレモン電池に食卓塩をふりかけ、さらに正極活物質としてオキシドール(約3%Haq)を注入するとよい。これで何とか太陽電池用モーターを回転させることができる。
 
[電極の種類を変えて電位差を調べる]
・亜鉛と鉛では、約0.5 V。
・亜鉛とマグネシウムでは、−0.7 V。極性が逆になる。つまり、亜鉛が正極でマグネシウムが負極になる。
・デジタルテスターの−極に接続した赤色リード線のミノ虫クリップに炭素棒をはさみ、レモンに差し込んだままにしておく。+極に接続した黒色リード線に各種金属をはさみ、レモンに差し込み電位差を測定する。電圧軸状に金属の種類と電圧を書き、金属の電圧列とイオン化列との関係を考える。
     <実験結果の例>

 
金属 Mg Zn Fe Pb Cu Pt
電圧(V) 1.9 1.2 0.79 0.67 0.29 0.14
 
[他の果物や野菜や身近な物で電池をつくる]
・比較的水分の多い果物や野菜ならどれでも電池になる。柑橘類はもちろんリンゴや大根でもよい。
・食塩水、お酢以外にも洗剤水溶液、ジュース、ソース、しょうゆ、雨水、水道水、純水でも電池になる。
 
■参考文献
(1)日本化学会編,「化学を楽しくする5分間−手軽にできる演示実験−」,化学同人(1984),p.159〜163,“47 みかん電池”
(2)左巻健男編,「理科おもしろ実験・ものづくり完全マニュアル」,東京書籍(1993),pp.262〜266,杉原和夫,“62 手づくり簡単電池”,電子オルゴール、テンライト、ソーラーモーター、液晶など省エネルギー機器について詳しい。
(3)長倉三郎,武田一美監修,「新訂図解実験観察大事典 化学」,東京書籍(1992),pp.315〜316,武田一美,“176 果物電池を作る”,ろ紙を銅板と亜鉛板の間にはさんだ電極が紹介されている。
(4)左巻健男編,「たのしくわかる化学実験事典」,東京書籍(1996),pp.238〜259,様々な電池の作成が紹介されている。
(5)日本化学会編,「高校化学の教え方−暗記型から思考型へ−」,丸善(1997),pp.85〜96,渡辺正,“8 電気化学のあやしいところ”,ボルタ電池の原理について詳しく記述されている。
 
               Topメニューへもどる