鉄さびについて調べよう
■ねらい
 鉄がさびるときの化学反応は、どのような反応なのか、そのとき生じるイオンを指示薬により調べてみる。そのことからさびるときの化学反応を理解する。また、金属はどのような条件のときさびやすいかを鉄くぎを使って調べる。
 
■準備と留意点
器具:鉄くぎまたは鉄線(長さ数cm×5本)、ペトリ皿、100mlビーカー、試験管(4本)、試験管立て、ガスバーナー、三脚、金網、マッチ、サンドペーパー(150番程度)
・鉄くぎに亜鉛メッキがされている場合、サンドペーパーでいくらていねいに磨いても、頭と先の部分の亜鉛が完全にはとれない。6 mol/l程度の希塩酸に約5分間浸せば、きれいに溶けてしまう。この処理をしてから、実験すれば期待どおりの結果が得られる。
薬品:3 %塩化ナトリウム水溶液、1 %ヘキサシアノ鉄(V)酸カリウム水溶液、フェノールフタレイン溶液、食酢
・一度沸騰させた純水をあらかじめ作っておくと実験時間を短縮できる。ただし、数時間以上経過すると再び酸素が溶け込むので、直前に作るようにする。
・3 %塩化ナトリウム水溶液は、約0.5 mol/l。
・1 %ヘキサシアノ鉄(V)酸カリウム水溶液は、約0.03 mol/l。光によって分解しやすいので褐色ビンに保存する。
・フェノールフタレイン溶液(1 %)は、フェノールフタレイン 1 gを95 %エタノール90 mlに溶かし、純水を加えて100 mlにする。滴ビンに入れておく。
・これらの薬品の中に劇薬はないが、ヘキサシアノ鉄(V)酸カリウムは毒性がある。実験後よく手を洗うように注意しておく。
 
■操作と留意点
【鉄がさびるときの変化】
@3%塩化ナトリウム水溶液をペトリ皿に約半分(20〜30ml)ほど入れる。指示薬としてヘキサシアノ鉄(V)酸カリウム水溶液とフェノールフタレイン溶液とをそれぞれ3滴ずつ入れて混ぜておく。
・ヘキサシアノ鉄(V)酸カリウム水溶液は、多く入れすぎても支障はない。
・フェノールフタレインは、水に溶けにくい物質なのでエタノールに溶かしてある。20mlの水に10滴(約0.5ml)以上を加えると、溶けきれずに白濁してしまう。入れすぎないように注意する。
A鉄くぎを、サンドペーパーでよく磨く。
・くぎは一般に、亜鉛メッキがしてあったり、表面がさびていたりするので、よく磨いたあと水洗する。
B磨いた鉄くぎを曲げて溶液に浸す。
・数分間、溶液を動かさないようにして静置する。液が動くと、拡散を促して色の変化がわかりにくくなってしまう。
・このとき、ペトリ皿の下に白い紙を敷いておくと色の変化が判別しやすい。
 
【鉄のさびやすい条件を調べる】
@100mlビーカーに純水を50ml程入れ、数分間煮沸させて冷却する。
A1本目の試験管によく磨いた鉄くぎを入れ、煮沸・冷却した純水を、試験管の上部の口の近くまで注ぎ入れる。
・このときできるだけ酸素が溶け込まないように、試験管の壁を伝わらせゆっくり注ぐようにする。
B3本の試験管にくぎの上部が1cmほど空気中に出るように、煮沸した純水、3%塩化ナトリウム水溶液、食酢をそれぞれ入れる。
C入れたあと数分間、および1時間後、1日後、それから数日おいた後に、観察する。
 
■後始末
・ペトリ皿の溶液は回収し、硫酸鉄(U)水溶液を加えて、未反応のヘキサシアノ鉄(V)酸カリウムを紺青にして廃棄する。ヘキサシアノ鉄(V)酸カリウムは有毒であるが、紺青には毒性はない。
・試験管の溶液は、多量の水でうすめて下水に捨てる。
 
■実験結果とまとめ
【鉄がさびるときの変化】
・数分間で、ペトリ皿の鉄くぎの表面の一部が青みがかり、やがて教科書の図のように、青色が溶液中にしみだしてくる。一方、表面の他の一部がうす赤色に着色し、同様に溶液中にしみだしてくる。
・亜鉛メッキしてある鉄くぎの磨き方が足りないと数分たっても何の変化も出てこない。
・亜鉛メッキされた鉄くぎをサンドペーパーで磨いただけでこの実験をすると、青色は出てこず、赤くなってくるだけである。
・準備と留意点で書いてあるとおりに塩酸で亜鉛を溶かして取り除いたくぎを使えば、青色と赤色の両方の呈色が見られる。
・鉄くぎを曲げて実験をすると、青色がしみ出してくる箇所と赤色がしみ出してくる箇所が明確に分離して結果の観察がしやすい。
・くぎを曲げずに実験すると、青色と赤色が、まだらにしみ出して混ざったりすることがある。
 
【鉄のさびやすい条件を調べる】
入れた直後:特に変化は見られない。
1時間後:純水に全部を浸したくぎは、その表面全体にうすい黒褐色のまだら模様が見える。 頭を出して純水に入れたくぎは、水中の部分に黒褐色のまだら模様が見える。特に水の表面付近は色が濃い。空気中に出ている頭の部分は特に変化は見られない。
  塩化ナトリウム水溶液に入れたくぎは、空気中に出ている頭の部分が少し褐色にさびている。水面付近に褐色の沈殿物ができており、その沈殿物の一部が底に沈んでいる。
  食酢に入れたくぎは、空気中に出た部分に褐色のさびができている。食酢に浸された部分は、光沢が失われず、くぎの先端部分にほんの少しだけ小さな気泡が付着している。
1日後:純水に全体を浸したくぎには、部分的にまだら模様に黄褐色にさびている。試験管の底に少し黄褐色の沈殿が見られる。
  純水に頭を出して入れたくぎは、空気に接した水面の部分に褐色のさびが見られる。水中の部分がごくわずか黄褐色になっている。水が、全体にほんの少し褐色を帯びている。試験管の底に、黄褐色の沈殿がある。
  塩化ナトリウム水溶液に入れたくぎは、空気中に出ている頭部が一部褐色にさびている。溶液中の部分は一部が黒褐色になっている。溶液の上部は、ごく薄い黄色で、下部は青色をしている。試験管の底に濃青色〜黒色の沈殿がたくさんできている。
  食酢に入れたくぎは、空気中の部分がさらに黒褐色にさびている。溶液の色はほとんど変化ない。食酢に浸っている部分は、銀白色のままほとんど変化が見られない。先端に気泡が少し付いている。
2〜3日後:全試験管についてさびが進行している。さびの様子は、1日経過後とほぼ変わりない。
 
■考察の例
【鉄がさびるときの変化】
・青色の呈色部分は、金属鉄が、電子を放出し、Fe2+イオンになり塩化ナトリウム水溶液に溶けだし、水溶液中のヘキサシアノ鉄(V)酸イオン[Fe(CN)3−と反応し紺青(Prussian blue)という青色顔料になったからである。 Fe[Fe(CN)]・nHO の組成を持つ。
・うす赤色の呈色部分は、鉄(U)イオンが溶出したあと鉄くぎ内に残された電子eが、くぎ表面の他の部分で水分子と溶存酸素分子に与えられて水酸化物イオンが生成したため、アルカリ性になり指示薬のフェノールフタレインが赤く発色したものである。
   HO+1/2O+2e→2OH(アルカリ性)
・全体の反応をまとめると
   2Fe + 2HO + O→ 2Fe(OH)
  生成した水酸化鉄(U)は、うす緑色の水に溶けにくい物質であるが、溶存酸素によりさらに褐色の水酸化鉄(V)に酸化される。
  結局全体としては、  4Fe+6HO+3O→4Fe(OH)
 となる。生成した水酸化鉄(V)およびその部分脱水縮合体が鉄の「さび」の正体である。
・メッキの亜鉛が少しでも残っていると、亜鉛と鉄で局部電池を構成し、鉄よりイオン化傾向の大きい亜鉛が電子を放出し陽イオンになり溶けていく。
   Zn → Zn2+ + 2e
  この電子と水分子と溶存酸素分子が反応し、水酸化物イオンを生じ、フェノールフタレインが赤く呈色することになる。
   亜鉛イオンは、ヘキサシアノ鉄(V)酸イオンと反応しないので、青く呈色しない。
 
【鉄のさびやすい条件を調べる】
・煮沸した純水に浸っている部分は、さびにくい。乾燥した空気中でもさびないと言うことから鉄がさびるのには、水分と酸素の両方の存在が必要であることがわかる。
・食酢などの酸は、鉄を速く溶出させ、さびる反応を速める。
 
■参考
・演示実験として行うときは、ペトリ皿を透過式のOHPの上に置きスクリーンに投影するとよい。
 
■発展実験
【鉄がさびるときの変化】
・塩化ナトリウムの飽和水溶液で実験してみる。
・数分煮沸後、冷却した純水を使って溶液を作り、できるだけ酸素が溶け込まないようにして実験してみる。
  酸素がないとさびにくいことがわかる。
  表面から酸素が溶け込み徐々に反応していく。
・まっすぐの鉄くぎで実験してみる。
  金属疲労がある(結晶構造に乱れがある)ほうが、イオンになりやすくさびやすい。曲げていると青色がしみ出す箇所と赤色がしみ出す箇所が明瞭になる。まっすぐでも、頭の部分や先端の切り欠き部分にひずみがあり、そこからイオンになっていったりするが、まだらに青色と赤色がしみ出してきやすい。
 
【鉄のさびやすい条件を調べる】
・3%塩化ナトリウム水溶液、食酢を鉄くぎが完全に浸るくらいたくさん入れて観察してみる。
  塩化ナトリウム水溶液に全体を浸すと、1時間ではほとんど変化が見られない。1日経過すると、くぎ表面の所々と先端部に褐色のもやもやが見られる。溶液は、ほとんど無色のままである。試験管の底にほんの少し黄褐色の沈殿が見られる。
  食酢に全体を浸すと、くぎ全体から少しづつ小さな気泡が発生し続ける。くぎは全体が銀白色のままである。食酢の色もほとんどもとの色(淡黄色)のままである。
・最もさびやすい条件で、ステンレスくぎやしんちゅうくぎで同様の実験をしてみる。
 
■参考文献
日本化学会編,「楽しい化学の実験室」,東京化学同人(1993),pp.64-68,佐野博敏,
 ”11 鉄の化学−酸化還元過程の観察”
 
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