家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

ないおん2月号(2022年2月1日発行)は

Sちゃんが図書室の前をゆっくり歩いています。ゆっくりというのは他の人のペースに比べると、という意味で、今日はSちゃんにしては急いでいます。靴下のつま先を小刻みに動かして1センチずつ進んでいくので、リュックを背負った肩先がカタカタと小刻みに震えています。瞳はまっすぐに足先を見つめています。廊下の木目がちょっとずつSちゃんのつま先から足の下に入り込んでいきます。時折足を止めて、その木目にじっと見入ります。後からやってきた同じクラスの友だちが何人も、風のように彼女を追い抜いて保育室に入っていきます。
ちびちびと小刻みな歩行の末にようやく自分の保育室までたどり着くと、Sちゃんは小さく「やったぁ」と声をあげました。誇らしそうな笑顔です。保育室に入ったら、次はリュックを下ろして荷物をあけ、シールノートにシールを貼り、水筒を籠に入れて……と、一日の始まりのルーティンが待っています。Sちゃんをじっと見つめていたK先生は、今日も時間がたっぷりかかりそうねと、心の中で苦笑いをしました。
Sちゃんには自分のテンポと理由があるので、急かされたって早くできるわけではありません。周りで待つみんながどんなにイライラしても、彼女はそのテンポや理由を大切にします。褒めてみたりなだめてみたりして、なんとか「みんなのテンポに合わせること」にも気づいてもらおうと努力してきた担任たちの忍耐も空しく、Sちゃんは朗らかに、自分のテンポを守って園生活を楽しんできました。もう三年目、今年は年長さんです。
お母さまと担任は、就学を前にして少し焦り始めました。理解力は心配ありません。問題は、彼女のテンポとこだわりを、学校がどこまで受け入れてくれるかです。
お母さまは「頑固」と表現されますが、彼女のそれはどこか頑固や意固地とは違っています。そう思うのは、どんなことをしていても、彼女がたいてい笑顔を絶やさないからでしょうか。そしてSちゃんの仕事は、実にていねいです。絵を描く時の細部の細かさや製作の出来栄えの見事さに、これまでの担任はみな、舌を巻きました。ですから、お父さまのお仕事が漆蒔絵の芸術家であると知った時には、彼女を知る誰もが心の底から納得させられたのでした。
教育の世界では、子どもの個性を、お父さまお母さまの個性と並べて考えることはしません。その子自身の輝きは、親とはまた独立したものであるからです。けれど、子どもの個性を見つめていると、遺伝なのか、家風なのか、においなのか、親から子へと継承される不思議なつながりを垣間見せていただくことがあります。そして、その子はその子だけでそこに存在しているわけではないというあたりまえのことに気づかされます。
つながりの先に、関わり合いの中に、その子の生がある。今がある。その子の個性の、とある部分だけを切り取って議論するよりも、その子を取り囲む全体を大切にできる保育者になりたいと願います。それは、阿弥陀さまにしかおたずねできない、いのちの不思議を見つめる道です。
(武田修子)

育心

やがて来る春を信じて   龍谷大学名誉教授/寺川幽芳

今月の『育心』寺川幽芳先生のお話を拝読しながら、春がやって来るのを楽しみに、一面の雪景色を眺めた幼い頃の記憶がよみがえってきました。
私が住む滋賀の湖北地方はかつて豪雪地帯でした。
雪が降っては積り、融けてもまた積りを繰り返し、ひと冬を過ごします。
そんな長い冬を過ごしますから、春がやって来るのがひとしお待ち遠しかったのを思い出します。
だんだん陽の光が温かくなり、固い根雪をやぶってチョコンと顔を出したふきのとうを見つけた時、道端に青色の小さなおおいぬのふぐりを見つけた時、春の訪れを実感して、ウキウキと心が弾んだものでした。
厳寒の毎日を過ごしながらも、必ずこの風景に出会えることを知っている。そしてそれを信じて疑うことがなかったのでしょう。 
厳寒の冬の日のような今であっても、その先に必ず出会える「浄らかで安らかな世界」、私たちの生きる道を、お釈迦様がお示しくださいました。
その教えに支えられながら、目の前のことに真摯に向き合い、一歩ずつ一歩ずつ前に進んでいきたいと思います。

子育ちフォーラム

こどもは偉大なアーティスト   ホッとハウス in おおの 代表/梅林厚子

今月の2ページ目は、梅林厚子先生の『子育ちフォーラム』です。
先日、ある美術のセミナーの中で投げかけられた課題の一つに、大変戸惑ったことを思い出しました。
一人ひとりに配られた紙粘土のかたまりを前に、「さぁ皆さん、何でも自由に作ってください」。
さてどうしたものか、いきなり「自由」と言われても、何をどう作れば良いのやら途方に暮れました。
テーマを与えられ、モデルがあり、評価基準を示されることに慣れすぎた私は、こんなにも「自由」に表現することが苦手なのかと気付かされました。
梅林先生は「子どもの絵に上手、下手はない。他の子と比べる必要もない。こどもは完成作品に執着しない。描くことの楽しみを満喫すればそれで十分なのである」と仰っています。
「自由に描こう!」の投げかけに、「やったー」と目を輝かせて描く子どもたちの絵に、「この絵大好きだよ」と共感できる保育者でありたいと思いました。

私の雑記帖

春が来たら   NPO法人近江淡水生物研究所 所長/向田直人

今月の『私の雑記帖』は、近江淡水生物研究所長の向田直人さんのお話です。
向田さんは淡水生物の研究をされる傍ら、子ども達に、湖や川で暮らす魚などの生き物について、様々なことを伝える活動をされています。
未来を担う子ども達が、「人間だけでは生きていけない。他の生物と一緒に生態系の一部として生かされている」ということを学び、水や空気など、生態系からの恵に生かされていることに感謝のこころを持って、持続可能な故郷の風景を守っていってくれることを、心から願っています。
貴重な原稿をありがとうございました。

お話の時間 つきみとほしC

雪だるまの大変身   文・絵/三浦明利

今月の『お話の時間』で、雪だるまの変身を通して、つきみちゃんとほしくんは、何かを感じたようです。

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寒さに負けず、子ども達とともに、外で元気に遊びたいと思います。
(鎌田 惠)

令和4年1月17日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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