Moon Talk
ー5ー






 眠れない。
 今日1日、ううん、昨日から沢山のことがあり過ぎて、神経が冴えてしまっている。それなりに疲れ ている筈なのに、ちっとも眠くならない。
 そおっと、足音を出来るだけ立てないようにして、私は滑るように外に出た。
 草の匂い が微かに香る、少し冷たい風が緩やかに吹いている。けれど、空に雲の影はない。白く輝く月がこの世界を支配している。
 ふう・・・。
 溜息を一つついた。ひんやりとしていて、それでいてどことなく優しい雰囲気の、瑠璃色の世界が私を包む。
 そおっと、私の肩に暖か いものが触れた。
 驚いて振り向くと、大好きな優しい笑顔があった。
「翔くん・・・」
「眠れないのか?いくら何でも、パジャマ1 枚だけじゃ風邪をひくぞ」
 私の肩を包んでいるのは、彼のシャツだった。
「ありがとう、翔くん・・・」
 翔くんは黙って頷くと、 私の隣に並んで空を見上げた。つられて私も視線を移す。
 沈黙の時がゆっくりと流れる。明かりは月の光だけ。
 こん夜は寂しいと いう人は多いだろう。でも、私はとても落ち着く。やっぱり、翔くんが隣にいてくれるせいかな?
「麻衣」
 とても静かに、翔くんが 私を呼んだ。
「何?」
「折角の旅行だったのに、こんなことになってごめんな」
「翔くん・・・」
 意外な言葉に驚いた。私はう うん、と首を横に振る。
「翔くんのせいじゃないもの。それに、愛ちゃんに入院を勧めたのは私なんだし。・・・私こそ、出過ぎたことしちゃ って・・・」
「いや、俺でも入院を勧めてるよ。だから、それは気にするな」
 翔くんはじっと私を見つめている。とても穏やかな瞳で。
 大丈夫だと、その瞳が言っている。
 敵わないな、翔くんには。
 私が落ち込みそうな時はいつも、実にタイミング良く慰めた り励ましたりしてくれる。
 どうして判っちゃうのかな。不思議だけど、だからこそ安心していられるんだと思う。
「翔くん・・・」
「それより、本当にごめんな。望のお守りやら家事やら、何でもかんでもって感じになって」
「ううん。私、望ちゃんのことは大好きだか ら。今の私があるのは望ちゃんのお陰だっていってもいいくらいだし、私にとっては特別な子なの。それに、何といっても愛ちゃんの娘なんだ し」
 これは私の正直な気持ちだった。そりゃあ、泣かれたり、だだをこねられると困ってしまうけど、可愛いことに変わりはないから。
「サンキュ。そう言ってくれると助かるよ」
 翔くんはホッとしたように微笑んだ。
「そろそろ、戻ろうか?あまりここにじっと してると冷えるぞ」
「うん・・・でも、もう少し・・・」
「まだ、眠れそうにない?」
「そうじやなくて、もう少し、月を見ていたいな ーって思って」
「月を?」
 翔くんは不思議そうに空を見上げる。やや西に傾きかけた月はレモンのような形をして、清らかな光を放 っている。
「うん。昨夜も思ったけど、綺麗よね。冷たい感じもあるにはあるけど、優しくて。私、愛ちゃんのベビーに無事育って欲しい って思ってるんだけど・・・なんだか、あの月がね『大丈夫だよ』って言ってくれてるような気がして・・・」
「麻衣・・・」
 翔くんが後ろか ら私を抱きしめる。
「大丈夫だよ、きっと。姉さんと義兄さんの子だもん。望の弟か妹だから、強いさ」
「・・・・・うん、そうだよね」
 どちらからともなく唇を重ねあう私たちを、月が照らしていた。





 あれから1ヶ月が過ぎた。
 愛ちゃんのベビーは危機を乗り越え、順調に育っている。
 望ちゃんも無事愛ちゃんと由樹さんの 元へ帰った。京都にいる間、時折泣いてもいたけれど、それなりに感じるものがあったんだろう、ひどく無理を言って困らせることはなかった。 きっと、今頃はパパとママにたっぷり甘えているに違いない。
 私と翔くんも相変わらずの日々を送っている。
 翔くんは、あの旅行が 普通のそれでなかったことを随分気にしてくれているようだけど、私は逆に強く印象に残る旅だったなって思ってる。
 きっと、ずっと、忘 れない。
 鮮やかな緑。広い草原。蒼い湖。愛ちゃん、由樹さん、望ちゃんの素適な家族。あの夜の月の美しさ。そして、翔くんと話した色 々なこと。
 ナースステーションの窓を覗く中秋の名月を見上げながら、私はそっと微笑んだ。


Fin.





夏の間には終われなかったけど、ラストシーンの日までには終われたのでいいか、と(^o^;)
そろそろ、キャラ説明ページ 作らないと、かなー?麻衣は4人きょうだい、翔は3人きょうだい、という設定だし、これから、まだ出てきてないきょうだいたちも出てくる話も あるからなぁ・・・。
この2人の物語、次の話は冬の予定ですので、今年の冬の間に出したいと思います。(本当か!?)
が、頑張ろう・・・。次の は多分、大幅加筆修正、となりそうだし。

もしも、よろしければ感想・批評など聞かせて下さいませ。




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