◆パペット◆第8回 by日向 霄 page 1/3
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その男を、ジュリアンは殺さなかった。殺す代わりに、ジュリアンはその男を脅して隠れ家を手に入れた。
「もしも俺の首を手に入れたら、どこへ持っていくつもりだった?」
男の首に長い針を押しつけながら、冷ややかにジュリアンは尋ねる。なまじ綺麗な顔をしているだけに、その様子には非常な凄みがあった。
男は答えない。
「答えろ。死にたくなければ」
「答えても答えなくても、どのみち殺すんだろうが」
吐き捨てるように言いながら、男の目はマリエラの姿を追う。マリエラはジュリアンの後ろでびくびくしながら二人のやりとりを見守っている。震える手に、男の物だった銃を構えて。
「なぁ嬢ちゃん、何だってその銃でこいつを撃っちまわないんだ? 十万リールだぜ」
いきなり話しかけられて、マリエラはびくっと体を震わせた。いや、おそらくそれは『いきなり話しかけられたから』だけではなかったろう。
「よけいなことをしゃべるな」
ジュリアンの制止など聞こえていないかのように、男はマリエラに言葉を投げる。
「賞金首なんかと逃げ続けて、どうなるってんだ、え? いつか一緒に殺されちまうのがオチだ。十万リールをみすみす捨てるだけじゃねぇ、命まで捨てることになるんだ。それでもいいのか? 撃っちまえよ、嬢ちゃん。俺が首の持って行き場所を教えてやる。礼は2割でいい。悪い話じゃあるまいが」
その言葉に応えたのはマリエラの銃ではなく、ジュリアンの腕だった。さして力を込めたとも思えぬその動きに、手にした針は男の首に静かに沈み込み、一瞬のうちに男の命を奪っていた。
ゆっくりと抜き取る針に、血は一滴もついていない。男の体がひどく緩慢に頽れていくのを見ても、マリエラにはとても信じられなかった。男が死んでしまったなどとは。
沈黙が落ちた。
何か言わなければ、と思うのだが、喉がひりついて声が出ない。トリガーにかかった指は凍りついたように動かない。ジュリアンもまた、立ちつくしたままだ。
続き