◆パペット◆第7回 by日向 霄 page 1/3
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人の肉が焦げる匂いを嗅ぐのは嫌なものだ。それが自分の仕業ならなおさら。
いい加減慣れてもよさそうなものなのに、と走りながらムトーは思った。
追われていた。
人を殺したからだ。だが追っ手は警察ではない。シンジケートですらないかもしれない。おそらくはレベル5の賞金稼ぎども。
うかつだった。上の反応がこれほど早いとは。まさかこんなに早く、ジャン=ジャック=ムトーの手配書が回るとは。
ムトーの首には賞金がかかっていた。ムトーがそれを知ったのは、レベル5の情報屋の銃が自分に向けられた時だった。
レベル6の情報を得るために、ムトーはそのなじみの情報屋のもとを訪れた。レベル6がいかに閉鎖的であろうと、酸素や食料はどこかから運ばねばならない。情報屋達はおそらくそのルートを知っている。ただ、公安には売らないだけの話だ。もし公安がレベル1の居住権を約束したとしても、シンジケートに命を狙われては元も子もない。もっとも、公安がそんな約束をすることはあるまいが。
「ルートを教えろとは言わん。ただ、最近レベル6のことで何か聞かないか? 誰か有名人が落っこちてきたとか、大物の賞金首が挙げられたとか」
「さあてね」
にやにや笑いながら肩をすくめる情報屋の様子に、ムトーは不審など覚えなかった。ムトーの差し出したなけなしの金を受け取った時も、情報屋の指は震えもせず、いたって平然としていたのだ。
「そうそう、賞金首と言えば面白いネタがありますぜ」
机の引き出しを何やらごそごそかき回していた情報屋の動きが止まる。
「ジャン=ジャック=ムトーの首に、一万リールの賞金がかかったそうで」
言い終わるのと、ムトーに向けた銃口が火を噴くのが同時。
隠しきれない殺気が、ムトーに一発目をかわす隙を与えた。そして、二発目はなかった。
横へかわしざまとっさに抜いたムトーの銃が、情報屋の額を貫いたのだ。用心のため出力を最大にしておいたのが功を奏した。額から後頭部へ抜けた熱線は情報屋の命を奪うだけでは飽きたらず、後ろの壁にまで焼け焦げを作っていた。
そして、ムトーは追われる身になった。
情報屋の子飼いの男達を振り切ったと思うと、また別の連中がムトーに銃を向ける。誰かが『賞金首だ!』と叫ぶだけで、どこからともなくチンピラ達が湧いて出るのだ。
なるほど特捜が手を下すまでもない。
レベル5の迷路を逃げ回りながら、ムトーは手配書の威力を嫌というほど思い知った。何もわざわざ地上の警察がやって来ることはない。ほんの数枚の手配書を送り込むだけで、ただで働いてくれる連中がいくらでもいるのだ。一万リールなど、特捜の人件費を思えば安いものだろう。
それに。
そう、それに。賞金をかけられるということが、これほど精神衛生に悪いとは。
続き
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