アマ小説家の作品

◆パペット◆第5回 by日向 霄 page 3/3
「つまり何か。マイヨール本人を殺したところでポリスの体制を変えることはできん。だが体制そのものである”黒幕”を倒せば、倒したことにすれば、ポリスを根底からひっくり返すことができると、そう考えたというのか」
「それを考えたのが新勢力か、地下の反政府主義者か、はたまた真の”黒幕”なのか―――。私はひょっとして、ポリスの”黒幕”というのは今でもちゃんと生きていて、そいつが全てを仕組んだのじゃないかと、そんな気もするんですがね」
 何のために? そんなことはわからない。あるいはただの実験なのかもしれない。虚構がどれだけ現実を脅かすことができるか―――。
「ではテロリストは、おまえが追っているはずの”狼”は、一体どういうことになるんだ? 知らずに踊らされているのか?」
「殺される人間がいるなら、殺す人間がいなくてはならない。たぶん、だから彼は存在するんですよ。ジュリアン=バレルという人間は」
「……レベル6の賞金稼ぎ達も、ヤツには手こずっとるらしい。既に何人か殺されたという話だが、殺されるヤツがいるから、”狼”は殺しを続けねばならんというわけか?」
 ムトーは皮肉な目で部長を見下ろした。
「そんな情報が、よく入ってくるものですね。レベル6から」
 シンジケートと公安がつながっていると白状するようなものだ。でなければこれも、ポリスの”神”が流したもうた情報か。テロリストならかくあるべしと。
「それでおまえは、どうする気なんだ。”狼”を追うのはやめて、真の”黒幕”とやらを探すつもりか。そんなものがいるとしてだが」
「いえ、やはり”狼”は追いますよ。会って、話をしてみたいんです。私の仮説が本当に正しいのかどうか」
「話してわかるとも思えんが」
 ムトーは苦笑する。
「それでもいいんですよ。私は自分を納得させたいんです。
 レベル6に、乗り込もうと思ってます。ヤツが、殺されてしまわないうちに」
「なら休暇願いを出していけ。レベル6でおまえがどんな目に会おうと、特捜は一切関知せんからな」
「休暇願いでいいんですか? てっきり辞表を書かされるものと思って用意しておいたんですがね。いつでも好きな時に受理して下さい。机の引き出しに入れてありますから」
 そうしてムトーは出ていった。
 二度と帰ってはこないだろう―――。だが部長は、あんなにも切実にムトーの退職を願っていたにも関わらず、なぜかその辞表を素直に受理する気になれなかった。


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