アマ小説家の作品

◆パペット◆第33回 by日向 霄 page 2/3
 あとで長官に確認しなければ。いや、それよりまずフェラーだ。地下は奴の管轄だ。まさか我々に無断で新しい空間を作るとは思えないが、しかし確かに奴はあまりにもあっさりと承諾しすぎた。奴の力の拠り所である地下の破壊を、ああも簡単に受け容れるとは――。
 ゲーブルの指が引き金を引いた。
 ムトーは逃げられないはずだった。両脇を兵士に固められ、かわすことすら不可能だった。
 しかし。
 その時、床が揺れた。大きく、弾むように、部屋全体が揺すぶられたのだ。
 立っていられないほどの衝撃だった。ムトーの体は兵士達ともつれるように後ろへ倒れ、ゲーブルの銃を離れた弾丸は大きく狙いをはずれ、天井をうがった。
 ビーッ、ビーッという警報が鳴り響いていた。断続的に揺れは続いている。
「どういうことだ! 何があった!」
 それでもさすがにゲーブルは落ち着いていた。テーブルにしつらえられたコンソールを叩き、状況を把握しようとする。
 だがそれも無駄だった。答えを返すべき部下の声は聞こえず、全館を掌握するメインコンピュータも情報をよこさない。画面に流れるのはただ、『警告。警告。処理不能。警告。警告……』の文字ばかり。
 画面に釘付けになったゲーブルの目に、ムトーの動きを捉える余裕はなかった。転がるように床を移動し、横からゲーブルに体当たりをくらわす。
 ゲーブルは椅子から半分ずり落ちた。体勢を立て直す暇は与えられない。手錠で思いきり側頭部を殴りつけられたゲーブルは、意識を失って床に崩れ落ちた。
 忠実にして勇敢な兵士達が上司の仇を取るべく銃を乱射する。とっさに机を盾にするムトー。
 爆音が轟き、激しい揺れとともに天井が降ってきた。きな臭い匂い。煙。
 どうなってるんだ?
 頑丈な机の下に身を伏せながら、ムトーの頭は忙しく働いた。
 公安本部にこれだけの攻撃を仕掛けられる組織があるなんて。いや、それよりも、なぜ公安がそんなことを許すんだ? ヘリや飛行機ならここへ着く前に撃墜されてしかるべきだ。だがそれ以外にどんな攻撃の手段がある? 外壁に焼け焦げをつけるだけならともかく、手榴弾やハンドバズーカではとても……。
『警告。処理不能。警告。私は消滅する。警告……』
 明滅する文字が目に入った。コンソール部分が配線をむき出しにしてぶら下がっている。
「私は消滅する……?」
 ムトーがそう口に出すのを待っていたように、バチッと火花が走り画面はブラックアウトした。
 一体何が“処理不能”なのだろう。なぜコンピュータが“私は消滅する”なんてことを言うのか。まるで自分の意志でシステムをダウンさせようとしているみたいに。
 揺れは収まっている。ムトーは机の下を這い出し、窓ににじり寄った。窓硝子が割れて、風が吹き込んでいる。
 空は暗い。爆撃を行う機影は見当たらない。
 地上に目をやると、もうもうと煙が立ち昇っていた。点々と、火の手が上がっているのが見える。そして、何か大量の、瓦礫のようなものが。


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