アマ小説家の作品

◆パペット◆第27回 by日向 霄 page 1/3
 銃を構え、勝ち誇った笑みを浮かべて、マクレガーは入ってきた。武装した数人の男達が背後を守っている。
 素早く銃を上げるジュリアン。ぴたりとマクレガーの額に狙いをつける。
「会えて嬉しいよ、偽者くん」
 目はジュリアンに据えたまま、マクレガーは無造作に足を動かした。跪いたままのムトーの顔目がけて。
 よけられたはずだった。だがマクレガーに対する罪の意識が動きを鈍らせた。マクレガーの爪先がムトーの顎を捉え、ムトーは後ろにひっくり返った。
 すかさずジュリアンの指が引き金を引く。
 銃声。そして、糸のように虚空に散る、紅い血。
 倒れたのはサラ。マクレガーがとっさに彼女を盾にしたのだ。
 男達がジュリアンに向けて発砲する。跳びすさり、床に臥せるジュリアン。
「やめろ! こいつは僕がやる」
 マクレガーの一声で、銃撃はやんだ。再びマクレガーに狙いをつけるジュリアン。
「おまえが撃てば、僕も撃つ」
 マクレガーの銃は、ムトーに向けられていた。床に座り込んだまま、呆然とサラの死体を見つめているムトーに。
「銃を捨てるんだ。このお間抜けな人を死なせたくなかったら」
 ジュリアンはムトーを見た。ムトーさえその気なら、先にマクレガーを撃ち殺すことは不可能ではない。真に同時に引き金を引くことなんて有り得ないのだ。マクレガーはムトーに銃口を押し当てているわけではない。無傷というわけにはいかなくても、急所さえはずすことができれば。
 もちろん、マクレガーを倒したところでまだ後ろの男達が残ってはいる。それでもなんとか――。
 だが、ムトーに動く気力はないようだった。自分に向けられた銃口など見えてもいないのかもしれない。彼の視線は相変わらずサラの上にあった。目をそらすことができないのだ。アンだけでなく、その妹までも殺してしまった。再びサラの姿はアンのそれと二重写しになっていた。この目で見てはいない、ひょっとしたらどこかでまだ生きていてくれるのではないかという期待を裏切る、無残なアンの亡骸。
「ムトー」
 ジュリアンは呼びかけた。無駄だと思いながら。
「二人を殺したのはこいつだ。あんたじゃない。こいつを始末させてくれ」
 ジュリアンはアンを知らない。今日初めて会ったサラに、特別な感慨を抱けるわけもない。彼女が哀れなのは命を落としたからではなく、いいようにマクレガーに利用されたからだ。もちろん彼女は知らなかったのだろう。自分をそそのかした男が、姉を殺した張本人だとは。
 知らずに操られ、知らずに死んでいく。
 まるで、俺のような。
「撃ってくれ」
 ジュリアンの方を見ずに、ムトーは応えた。それはジュリアンへの答えであると同時に、マクレガーへの呼びかけでもあった。
「撃ってくれ」
 ようやく視線を上げ、マクレガーを見据えるムトー。
 悪い取り引きではない。俺が死んでジュリアンが助かるなら。それに俺は、殺されても仕方のない人間なんだ。同じ死ぬなら、俺によって人生を狂わせられた者の手にかかるのが、せめてもの罪滅ぼしというものじゃないか。
「冗談じゃない」
 乾いた音が響いた。ジュリアンが銃を放り投げたのだ。


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