◆パペット◆第19回 by日向 霄 page 2/3
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「迎えが来た、って言ったな、さっき」
ムトーは思い出した。公安の車が突然衝撃を受け、スピンを始めた時、ジュリアンは確かに言った。“迎えが来た”と。
「おまえ、こうなることがわかってたのか? 助けが来るって」
「別に、わかってたわけじゃないよ」
「じゃあなんで」
「そんな気がしただけさ。前にも突然迎えが来たことがあったから、今度もそれかなって」
「おかしいと思わないのか?」
「いちいち思ってたらきりがないんだよ。俺の人生は謎だらけなんだから」
ムトーのしつこい質問に、ジュリアンもさすがにムッとしたようだった。
「しゃべってる暇があったら応戦してくれない? 後ろに武器あるから」
女の言葉とともに、車が激しく右に振れた。車体をかすめてレーザー光が飛ぶ。リアウインドウから、“正義の盾”の戦闘車が見えた。二人の護送にはあんな派手な車は加わっていなかった。
「どっからわいて出たんだ、あれ」
言いながら、ジュリアンは無造作に手錠を切断し、シートを乗り越えてラゲッジに降りた。どこから調達したのかと思う重火器の山の上だ。その中からハンドキャノンを取り上げ、ムトーに渡す。
「こーゆーのはあんたに任せる。俺は接近戦専門だからね」
「都合のいいこった」
ため息をつきながらも、ムトーは素直にハンドキャノンを構えて窓から身を乗り出した。“正義の盾”の攻撃は容赦なく続いている。女の運転技術はたいしたものだが、車体は既に傷だらけだ。
だが連中は本気じゃない。こんな車、ロケット弾1発で仕留められるのに。殺すなという上からの命令か?
車は蛇行しながら猛スピードで飛ばしている。照準を合わせるのは容易ではなかった。戦闘車以外に車の姿はほとんどないが、はずして無関係な人間を犠牲にしたくない。何しろハンドキャノンだ。流れ弾と呼ぶには威力がありすぎる。
トリガーを引くのをためらっていると、突然戦闘車の眼前で爆発が起こった。一瞬の後、黒煙を裂いて何事もなかったように戦闘車が姿を現した。
「なんだ、効かないじゃないか」
ジュリアンの声。その手には手榴弾が握られている。
何が接近戦専門だ、ったく。
照準を合わすのを諦めて、ムトーもキャノンを発射した。
ジュリアンがひゅうと口笛を吹く。弾頭は見事に戦闘車をはじき飛ばした。
「やるもんだ」
「まぐれだよ」
しかし事態はなんら変わらなかった。爆発炎上した哀れな戦闘車の後ろから、新たな戦闘車が姿を現したからだ。それも1台ではなく、続々と。
「なんてこった」
勝負にならない。弾頭が無限にあったとしても、“正義の盾”を追い払うなんて無理だ。一時的に振り切れたとしても、この地上に逃げ場などない。
ムトーが力無くキャノンを下ろした時、頭上に爆音が轟いた。
ヘリだ。
真っ赤なTV局のロゴをつけたヘリコプターが、頭上を旋回していた。
「まさか、中継を……?」
“正義の盾”が作戦に際して報道規制をかけないなんて信じられない。どんな派手な戦闘を繰り広げても、どんなに大勢の犠牲が出たとしても――もちろんそんな作戦を行うことは稀だが――、当局が“ない”と言えばそれは“ない”のだ。たとえ白昼、多数の市民がそれを目撃していたとしても。
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