◆パペット◆第17回 by日向 霄 page 1/3
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薄闇の中、閃光が通り過ぎていった。轟音とともに。
「鉄道……?」
ずきずき痛む頭を押さえながら、ムトーは体を起こした。突然夢から醒めた者のように――あるいは突然夢に放り込まれた者のように――自分の置かれた状況がよく把握できない。
ひどく暗いが、周囲の様子は大体見てとれた。そこはしっかりと補強のされたトンネルで、天井は正確なアーチを描き、床には軌道が走っている。ムトーがいるのはトンネルの壁にうがたれたアルコーブだ。
「レベル3か―――」
ようやく理解し、そして思い出した。自分があのレベル6の謎の楽園から脱出したことを。いや、脱出というのは正しくない。ただトラップに身を委ねただけだ。行き先も。
ムトーは慌ててジュリアンの姿を探した。すぐ後ろ、アルコーブの隅にうずくまる姿を見つけてほっと胸をなで下ろす。たとえ飛ばされた先が自分の家であっても、ジュリアンとはぐれたのでは話にならない。
「どこだ、ここは?」
顔だけ上げて、物憂げにジュリアンが尋ねた。
「レベル3の鉄道の中だ」
「レベル3……? ずいぶんとまた、豪快なトラップだな」
まったくだ。レベル6から一気にレベル3へ飛ぶトラップの話など聞いたことがない。レベル3は空間的には「地下」だが、社会的には「地上」だ。かつて、イデオポリスにレベルなどという概念が存在しなかった頃、そこはまぎれもない地上で「市街」であり、その頃の遺物である旧式の鉄道が今も動き、往事とさほど変わりのない生活が営まれている。ただ、そこに住む者は正当な市民ではないという新たなルールができただけで。
「しかしおかげで楽に地上へ出られる。レベル3じゃ賞金首に興味を示す連中も多くない」
「うまい話には裏があるもんだ」
いかにも気乗りがしないといった風情で、ジュリアンがゆっくり体を起こす。
「どうする気だ、これから?」
他人事のように訊いた。ジュリアンには、自分とムトーがマリエラと距離を置くことだけが重要で、あとは本当にどうでもいいようだった。
「地上へ出る」
「出てどうするんだ?」
「堂々と公安に出頭する―――。少なくともいきなり撃たれることはあるまい」
誰か一人でも公安の幹部が事件を洗い直そうとしてくれればいいのだが。せめてまともな裁判を受けられさえすれば。一旦賞金首になってしまった人間に弁明の機会が与えられることなどまずありえないが。
「おまえを餌に黒幕を釣るのなら、隠れていたってしようがない。公安に乗り込むか、TV局でもジャックするか、とにかくこっちが地上に出てきたことを宣伝しないとな」
「わざわざ? どっちみち向こうには筒抜けって気がするけどな。もしあんたの言うとおり、俺が黒幕とやらに操られてるんなら」
ジュリアンの口元には皮肉っぽい笑みが浮かんでいる。ムトーは思わずジュリアンを殴りつけたくなった。
「そうであって欲しいもんだ」
続き
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