アマ小説家の作品

◆パペット◆第10回 by日向 霄 page 1/3
 賞金稼ぎ達は、一体どうやって賞金を手にしているのだろう? 首尾よく賞金首を捕らえたとして――あるいは殺したとして――、そのことを一体どこへ報告に行くというのか。大抵の賞金首は公安警察によって追われる犯罪者だが、しかしレベル5やレベル6に派出所は存在しない。表向き政府機関は存在しないのがレベル5以下なのだ。
 もし君がレベル5で賞金首を仕留めたなら、君は何とかしてレベル4へ上がり、公安から正当な報酬をもらおうとするかもしれない。しかしもしも君がレベル6にいるのなら?
 ひとたびレベル6に落ちたなら、通常の手だてでは「上」へは戻れない。君は大金を生むはずの獲物がむなしく朽ち果てていくのを指をくわえて見ているしかないのか? 一体レベル6で「本当に稼いでいる」賞金稼ぎなどというものが存在するのだろうか。
「答えは、たぶんノーだ」
 ジュリアンが言った。
「誰も稼いでなんかいやしない。もし稼いでるとしたってそれはケチなちんぴらなんかじゃない。稼いでるのはシンジケートだ。でなきゃ、金も出さず人も出さずに犯罪者を片づけられる公安か」
 どっちだって同じだ、とマリエラは思う。どっちにしても狩られる側の人間には関係がない。そんなことよりも今はジュリアンの心の中の方が問題だった。
 名も知らぬ賞金稼ぎの男を殺した後、突然悲鳴を上げたジュリアン。ジュリアンを襲った恐怖はあまりにも激しく、心だけでなく肉体にも影響を与えた。発熱と頭痛。男の死体が転がっているすぐそばで、マリエラはうなされているジュリアンを抱いて眠った。眠りのない眠りを。
 マリエラがまどろみから覚めたとき、ジュリアンの体から熱はひいていた。そうして、ジュリアンは変わっていた。初めて出逢った時からずっと、傷ついた獣の危うさはジュリアンにまとわりついていて、でもそれ以上に、何と言えばいいのだろう。奇妙な諦め、虚脱感のようなもの。私に視線を向けていながら、何も見ていない。
 一体あの発作は何だったんだろう? 何がそんなにジュリアンを怯えさせているんだろう。
 ジュリアンは話し続ける。マリエラの聞きたくないことばかりを。
「もし賞金首が自分で自分の首を刎ねたら、賞金は誰のものになるのかな。なぁ、シンジケートさんとやら。金は山分けにしないか? ここにいるマリエラに半分、あんた方に半分だ。早く来いよ。俺はもう逃げない。見てるんだろ?最初からずっと……。ジュリアン=バレルの死に様を見に来いよ。無事ジュリアン=バレルが役目を終えるところを!」
 耐え難い恐怖がジュリアンから心の平衡を奪い、狂気という盾を与えたのだと思った。本当に迎えが来るまでは。
「迎えに来たぞ、ジュリアン=バレル」
 幻聴だと思った。自分も狂ってしまったのだと思った。そんなことがありえるなんて。
 ふらふらと立ち上がり、ドアを開けようとするジュリアンを、マリエラは慌てて押しとどめた。
「だめよ、ジュリアン! 殺されるわ!」


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