コラム

社員の化学日記 −第90話 「命名」−

もう何度こんな書き出しの文章を書いたことか。新年からこんなことで悩むとは・・・。

でも何か書くことはないか,と老体にムチ打っていまだに慣れないインターネットを眺めてみたらこんな話題が・・・。

「2015年12月31日,理化学研究所が合成した原子番号113番の元素が新元素と国際的に正式認定され,命名権を獲得した。」

これは何ともめでたい。新しい元素を発見し,その「名付け親」となる,すなわち命名権を得るのは米,露が常連で加えて欧州諸国。 日本はもちろんアジアからでさえも初となる,科学史に残る快挙であるとのこと。 かつて「科学者の楽園」といわれた理化学研究所が「何とか細胞」の一件でマスコミを騒がせて以来,面目躍如といったところか。

元々新しい元素はどのように発見されているのか,いや発見されるというよりは作り出されているといった方が正しいかもしれない。

原子番号が大きくなると原子は膨らんだ風船のように徐々に不安定になっていき,放射線を放出して別の元素の原子に変化しやすくなる。 天然に存在しうる最大の元素は92番のウラン。 これより大きな元素はさらに不安定になり,天然には存在しえない(正確にはある時間は存在するかもしれないがすぐにほかの元素に変わってしまうため,発見されていない) ので,人工的に作り出された元素ともいえる。

理化学研究所が発見した113番目の元素はビスマス(83番)に加速器で加速した亜鉛(30番)の原子核を1秒当たり2.5兆(2.5×1012)個照射することによって 作り出された。 2003年9月からこの研究がはじまり,ついに2004年7月23日に初めて原子番号113の新元素を合成することに成功した。 この時発見されたのはわずか1個の原子であったが,0.00034秒(!)という短い時間で核分裂をおこし,別の元素の原子核に変化したらしい。 この初成功以来,同研究所のグループはさらなる実験を重ね,2012年までに合計3回,113番目の元素の存在を実証することに成功しているとのこと。

113番目の元素については,米露の合同研究チームも数度にわたり観測を発表している。命名権を巡っては日本の理化学研究所と競って国際委員会(IUPACとIUPAPが共同設置)で議論されていたわけであるが,理化学研究所の方がデータの正確性が認められて今回の命名権獲得となったらしい。

ではこの元素,どんな名前になるだろうか。

同研究所では命名権獲得の発表の際に候補として「ジャポニウム」「リケニウム」などを挙げていたらしいが,巷では約100年ほど前の1908年に, のちに東北大総長となった小川正孝という研究者が原子番号43の元素を発見 (のちの研究で43番元素は天然には存在しない「テクネチウム」であることが判明し,同研究者が発見したのは同族元素の「レニウム」(75番)であった。しかし,そのことが判明したのは1923年にロシアの研究チームが「レニウム」を発見,命名した後だった。) した際の名称「ニッポニウム」の復活を望む声もあるとか。

私ごとではあるが,思い返せば自分の子供たち(一男一女)が生まれた時も結構悩んだ。 長男の時は悩んだ挙句,知り合いの紹介で姓名判断をしてもらえる方にお願いして,いわば「名付け親」になってもらった。 二人目の長女の時は候補をいくつか考え,その中から選んでもらった。

元素名も人間の名前も永久に残るものという意味では同じであるが,人間の名前の場合はその人の人生を左右してしまう可能性もある。 親としては子供の人生を考えると慎重になるのは当たり前のことで,漢字の画数,意味などなど,本も何冊か購入して読んだりもした。

元素名で「元素の運命」は左右されないかもしれないが,周期表に永久に残る名前であるから慎重に決めてほしい。

【Y(ペンネーム)】

次のコラムへ>>

<<前のコラムへ

▲このページのtopへ