コラム

社員の化学日記 −第88話 「紅葉や枯れていくのは酸化?」−

夏が終わり寒くなってくると紅葉が見頃になってきます。

青々としていた木々が,段々と黄色や赤色,茶色などへ変化して行き,季節を彩ってくれます。

この木々の色が変化してゆく様子が,鉄が酸化されて赤錆(Fe2O3-紅柄)に変化し色が変化していく様子に似ている為,植物中の鉄分の酸化による色の変化が起きているのだと勝手な理解の仕方をしていました。

しかし,相手は植物有機物であり,命を持つものですから無機物の色の変化とはまた違う様です。

木々の葉が緑色に見えるのはクロロフィルすなわち葉緑素が含まれる為らしく,そのクロロフィルの化学式はC55H70O6N4Mgなどマグネシウムがテトラピロール環中心に配位した構造をもつもので,秋になるとこのクロロフィルが分解し葉の中の黄色の色素であるカロチノイドが優位になり黄色に見えるようになり,また,葉に光合成で溜まった糖から赤色の色素であるアントシアニンが合成され赤く見えるようです。

カロチノイドの化学式はC40H56であり,アントシアニン類の化学式はC78H89O44等ですので色の変化には鉄分の酸化とは関係がないようで,また赤色の色素アントシアニンには抗酸化作用があるらしく,鉄分の酸化どころか酸化を防ぎ植物を守っているのです。

鉄などの金属で出来た物の老朽化を,金属が酸化され金属光沢を失いそしてボロボロなってしまう印象が強くあります。 金属の酸化物には白色や黒色,赤色などさまざまな色が存在しますが,身近に存在する鉄で出来た物が酸化によって赤くそして脆くなってゆきます。 身近に起きる酸化現象は赤くそして脆くなるとの思い込みが生まれ,それに似ている現象は同じようなメカニズムが働いていると考えていましたが, 木々が夏秋冬と緑色→紅色等→茶色と変色しながら枯れてボロボロになってゆく過程は鉄の酸化現象に大変に似ていますが, 実際はまったく異なるメカニズムによって引き起こされる現象なのです。

見た目の現象にとらわれて,現存の知識や思い込みで物事を理解しようとすると,実際の出来事とはまるで違う誤った理解をしてしまう事があります。

思い込みを捨て,今までの知識に左右されないように物事を理解しようとすると今まで気づくことの無かったに出会えるかもしれませんね。

【白色林檎(ペンネーム)】

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