コラム

社員の化学日記 −第38話 「コミュニケーション」−

上司の個人的な知り合いの方(薬品業界で永年従事しておられた方とのこと)で,この上司宛に時事問題に対する論説,論評をメールで紹介してくださる方がいる。 三津和化学のメールはホームページの更新管理とともの小生が一括で管理しているため,上司の許可を得てその内容を時々拝見している。 ほとんどの場合,政治情勢に対する論説,論評を紹介されているが,先日のメールは政治に関するものではなく,知的障害者の雇用に関するものだった。

紹介されていたのは「がんばる日本!ここに人ありー知的障害者に「働く幸せ」を提供する会社ー」と題された論説で,雑誌か何かに掲載されていたもののようだった。 その内容は,約50名の従業員のうち約7割を知的障害者が占める,ある文具メーカーの話だった。

その会社は昭和34年に養護学校からの職業体験を受け入れたのをきっかけに,以後障害を有する方々を積極的に雇用し続けており, 現在では,この会社の雇用姿勢に共感した自治体や大学などからの支援や共同研究によってあたらしいものづくりにも取り組んでいるらしい。。

でも,それまでの道のりは決して楽なものではなかった。 最も苦心されたのは工場での作業手順で,知的障害者には数字が理解できないため,「赤い容器に入っている粉末は、赤いおもりを秤にのせて量る。」 というように材料名と数字ではなく,色で識別,判断できるよう手順を徹底的に見直した。

また社員間のコミュニケーションの取り方も苦労されたに違いない。 健常者同士でも自分の意思や感情を相手に伝えるのは時として難しい場合があるのに,それが相手が知的障害を有する方であればなおさらかもしれない。

あらゆるコミュニケーションにおいて,物事の状態,程度や量を強調するために「ものすごく」,「非常に」「僅かに」,「大きい」,「小さい」,「長い」,「短かい」などの修飾語を用いる。 これらの程度をもっと正確に伝えるには,単位を用いて数字で表現する。

重さ(質量)の単位は「g(グラム)」,長さは「m(メートル)」,面積は「m2(平方メートル)」,体積は「m3(立方メートル)」,などなど。 最近よくテレビなどで聞く放射線量は「S(シーベルト)」,放射能は「ベクレル(Bq)」,天気予報の気圧の単位は「Pa(パスカル)」または「hPa(ヘクトパスカル)」(h(ヘクト)は100倍を表す記号で,1hPa=100Pa),化学屋がよく使う物質量の単位は「mol(モル)」(学生時代にこれで躓いて化学嫌いになった方も大勢いらっしゃるはず)。 変わったところでは真珠の質量の単位は「匁(もんめ)」(1もんめ=3.75g),海面又は空中における長さ(航海・航空距離)の単位は「海里(カイリ)」(1海里=1852m,昔「200海里問題」というのがニュースでよく聞かれた)などがある。

実は,これらはいずれも計量法という法律で定められた単位で,国際的な商取引などでも使用が認められている。ただし,「匁」「海里」などは国際的に定められた単位(SI単位という)ではないが,用途を限定して使用が認められている。 匁は,明治後期に度量衡法が公布されるまでに使用されていた尺貫法における質量の単位で,中国から日本に伝わった際に1文銭の重さに等しいことから「文目」と呼ばれ,「匁」の文字は文目を続けて書いたものに由来するらしい。現在の定義では1匁=3.75g,1貫=3.75kgで,真珠の国際取引においては「momme」「kan」として質量の単位に用いられている。

先日の新聞で,唐辛子の辛さを表す数値があるという記事を見つけた。 その数値の名前は「スコヴィル値(Scoville scale)」(記号はSHU)といい,唐辛子のエキスの溶解物を複数(通常は5人)の被験者が辛味を感じなくなるまで砂糖水に溶かし,その希釈倍率をスコヴィル値とする。

これは唐辛子の中の辛み成分であるカプサイシンの量を人間の味覚を使って計る方法である。 あくまでも人間の感覚に頼った方法なので,近年はカプサイシン量を化学的に直接測定する方法が主流だそうだが,スコヴィル値は唐辛子の辛さの表示に長年使用されてきたため,化学的に測定した数値をスコヴィル値に換算して表記する方法が一般化しているとのこと。

ちなみに,唐辛子の栽培場所によって差があるらしいが,おおよその値としてはピーマン,獅子唐は0(ゼロ)SHU,「ハラペーニョ」で3,000SHU,日本で最辛の「熊鷹唐辛子」で10万SHU,「ハバネロ」30万SHU,世界一辛いとギネス登録された「ブートジョロキア」で100万SHUだそうだ。 小生は辛いのが苦手な方なので,これらの数値がどれくらいのものか試してみようとは思わないが,世の中にはもっと変わった数値単位があるかもしれない。

【道修町博士(ペンネーム)】

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