コラム

社員の化学日記 −第27話 「車中にて」−

三上という言葉をご存知だろうか?

中国宋時代の政治家,文学者の欧陽 修(おうよう しゅう)の故事によるもので,思いを巡らせ文章を練るのに適する場所として三つの「上」,即ち,「馬上(移動中の馬の上)」,「枕上(寝床の中の寝入り端)」,「廁上(厠(かわや),すなわちトイレで用を足している時)」の三つの場所状況を挙げた。

確かに人間いろんなことを考える時は,机に向かって集中して考えるより,ただボーっと何気なく考えている時の方が思わぬgood ideaが浮かぶことが多い。

この「三上」を現代に喩えると,「枕上」,「廁上」はそのまま当てはまるが,「馬上」は現代では馬に乗って移動することはまずないので「車上」,「船上」,「(航空)機上」などの「公共交通機関を使った移動中」に置き換えることができる。(自家用車などご自身で運転されている時はくれぐれも余計なことは考えずに運転に集中していただきたい。)

1日の時間の中で最も長い時間を使っているのは,「馬上」,すなわち通勤・通学時間という方は結構多いのではないか。 電車の中では何をしているだろうか?

ケータイメール?読書?きれいな女性をぼーっと眺める? 一昔前ならば読書や新聞を読んだりが多かっただろうが,現代はケータイメール,ワンセグなどが主流のようだ。

いまどき珍しいかもしれないが,私は携帯電話を持たない主義なので,その気持ちはよくわからないが,最近購入したiPod touchで音楽を適度な音量で聴きながら読書するか,iPodのアプリケーションを使って仕事の計画等を練るか,何もせずにボーっとマンウォッチングするかのいずれかである。 確かに,自宅に戻ってからPCの前に座ってうーんと考えてアイデアを考えるより,この方がふっといい考えが浮かぶことが多い。(このコラムも通勤電車の中で考えた原案に自宅PCで加筆修正したものである。)

周りを見ると,老若男女,塾帰りの小学生から初老のご婦人までが携帯でメールやワンセグ,ゲーム,ツイッターなどに熱中しているように見える。 ただ,個人で熱中するのはいいが,マナーを守らない人も多いのが現実のようだ。今や「マナーモード」は携帯電話の常識であるはずなのに,車内で大音量の着メロを鳴らした挙句に大声で通話したり,優先座席の前や電源オフ車両内でも平気でメールしたり,また音楽プレーヤーのシャカシャカ音を車内に響かせながら大きなスポーツバッグを床に放り投げたまま,二人分の座席を占領して寝ている高校生などなど,まさに無法地帯である。

技術発展によって様々な電子機器が(内部の部品に様々な希少元素が使用されているため)「都市鉱山」といわれるほどに普及し,便利で何でもできるようになった。でも「技術的にできる」からといってどんなときでも自由に使っていいというわけではない。

特に携帯電話の電磁波は,ペースメーカーなどの医療機器を装着されている方々にとっては生死にかかわる問題である。ただし,医療機器も携帯電話などの通信機器と同様にどんどん技術改良されており,現在では携帯電話をペースメーカーに密着させるなどしない限り電磁波干渉による誤作動は起こす可能性はほとんどないそうである。だからといって,満員電車の中でも携帯電話の電源を入れてもいいというわけではなく,影響が発生するのはゼロではない。またこのような医療機器を装着された方は電源オフ車両以外には乗ってこないとは限らない。たとえわずかな確率でも場合によっては人の生死にかかわることである。 急いでメールがしたいならば,途中下車してすればいいし,テレビが見たければ自宅のテレビでタイマー録画しておいて帰宅してから見ればいい。ほんの少しの間電源を切っておくだけでいい。万が一のことがあってからでは遅いのである。

いつも長い文章になってしまうので,本当は今回はこの辺で終わる予定だったが,電車内のマナーに関してもう一つ思い出したことがある。

入り口の両サイドの手すりにもたれかかるように立っている人をよく見かける。朝夕の超満員ラッシュ時ならばそこに立つのも仕方ないと思うが,確実に乗降の邪魔になっている。通常,車両の乗降口の幅からいえば二人並んで入れるはずである。しかし,車内の乗降口両側に人が立っていると一人分しかスペースができない。つまり,駅に停車してから乗客が乗り降りするのに,乗降口両側に人が立っていない場合に比べて倍の時間がかかるのである。

私が利用している電車は朝の通勤時に5〜10分程度到着が遅れることが時々ある。別によく事故を起こすわけではなく,おそらく各停車駅での乗降に時間をとられてわずかずつ遅れるのであろう。いくつかある乗降口の全てで乗客の乗降が完了しない限り電車は発車できない。乗降口横に立って邪魔になっている人たちは自分が「律速段階」の原因となって電車の発車を遅らせていることに気がついているのか?

最近,こんなことを考えながら通勤している。

【道修町博士(ペンネーム)】

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