コラム

社員の化学日記 −第142話 「沈黙の春 -Silent Spring-」−

「アメリカの奥深くわけ入ったところに,ある町があった。」という書き出しで始まる,生物学者レイチェル・カーソン著作の「沈黙の春」(原題:Silent Spring,1962年出版)。 DDTをはじめとする農薬等の化学物質の残留性や生物濃縮がもたらす生態系への影響を公にし,社会的に大きな影響を与えた。

「自然は,沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは,どこへ行ってしまったのか。みんな不思議に思い,不吉な予感におびえた。」

「春がきたが,沈黙の春だった。いつもだったら,コマドリ,スグロマネシツグミ,ハト,カケス,ミソサザイの鳴き声で春の夜はあける。 そのほかいろんな鳥の鳴き声がひびきわたる。だが,いまはもの音一つしない。野原,森,沼地−−みな黙りこくっている。」

「でも,敵におそわれたわけでもない。すべては,人間がみずからまねいた禍いだったのだ」
(訳文はレイチェルカーソン日本協会Webより引用)

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科学(化学)を専門としてきた者として,この話題を避けて通るわけにはいかない。

春は,桜の花が咲き乱れ,観光地では花見客でにぎわい,ビジネス街では新社会人となったフレッシュマンが街を闊歩するのが毎年の光景だったが・・・。 今年は違う。

人間が放出する化学物質によってではなく,発見された新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染によって引き起こされる急性呼吸器疾患(COVID-19)。 全世界の感染者数は220万人を超え,国内でも1万人を超えてしまった(2020年4月18日現在)。

桜の花は例年通り満開となったが,花見客の姿はなく,入社式は中止または個別の辞令発令,学校も入学式中止,授業開始の延期・・・。 国の緊急事態宣言に基づいて,知事から発せられる相次ぐ外出自粛要請等により,通勤電車はガラガラ。 日中街を歩く人の数もまばらになり,それだけで終わればいいが,結果「コロナショック」ともいえる経済低迷は避けられない状態であるらしい。

SARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラ出血熱などもウィルス感染を原因とする急性疾患であったが,これほど世界レベルで広まった感染症は近年類をみないらしい。

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小松左京原作の「復活の日」というSF小説がある。

1980年には映画化され,日本人俳優以外にもJ・ケネディ,R・ボーン,G・フォードなどのハリウッド俳優も出演し,南極で長期ロケーションで話題となった。

そのあらすじは,スパイによって生物兵器研究施設から盗み出された殺人ウィルスが事故で環境中にばらまかれてしまい,人間を含む地球上のすべての脊椎動物は南極の各国観測基地のわずかな人類を残し,絶滅した・・・,というもの。

また,この新型コロナウィルスの発生原因は現在のところ不明であるらしいが,一部にはレベル4の生物科学研究施設から漏出したものであるという噂もささやかれ,一部ネットユーザーの間では現状がこの小説の内容と酷似しているとの指摘もあるらしい。

H・G・ウェルズのSF小説「宇宙戦争」では,侵略してきた宇宙人に対して人類はなすすべもなく逃げ回るのみであったが,宇宙人は地球上の一部の常在菌に対する抗体がなかったため,わずか数日で死に絶えてしまった。

人類は長い年月をかけて病原体と戦い,共存してきた。その長い歴史の中で,完全に撲滅できたのは天然痘のみであるらしいが,はたして新型コロナウィルスとの共存の道はあるのか。またそれまでにどれくらいの時間を要するのか。

外出自粛で憂鬱であるのに,考えただけでさらに不安になってしまう。

でも,ウィルス以上の速度で情報が世界中に伝播する今日では,誤情報や悪意をもった虚偽情報に惑わされず,冷静な行動をとらなけらばならない。 人類が新型コロナウィルスをコントロールし,共存できるようになるまで・・・。

【道修町博士(ペンネーム)】

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