コラム

社員の化学日記 −第110話 「おやじギャグで化学物質を」−

今年の夏は暑い!

関東地方では,「何十日連続して雨が降り続いて涼しい月」という報道がありますが, 関西は例年涼しくなる8月末になっても一層暑さが増しており,「暑いですね」という挨拶が,単なるあいさつでなく疲れ切った表情で「なんとかしてくれ〜」という悲鳴に近いものになっています。

このくそ暑いお盆の時期に行われるのが徳島県の阿波踊り。

「♪踊る阿呆に見る阿呆,同じ阿保なら踊らにゃ損損♪」という有名なフレーズで皆さんよくご存じだと思います。 が,阿波踊りが化学物質の名前になっていることを知っている人は少ないのでは。

当該物質は「シクロアワオドリン」という環状のオリゴ糖(シクロデキストリンの仲間)。 [シクロ]という言葉は[輪]という意味,アワオドリンは阿波踊りとデキストリンを結びつけた言葉で,この物質が阿波踊りで踊る人達の姿に似ているところから命名されたようです。

40年程前に,将来期待されている化学物質の一つに[シクロデキストリン]というものがあると教授が取り上げていたのでこの名前はよく覚えています。 ある成分を輪の中に取り込み維持する性質があり,風味を長持ちさせるために食品にもよく使われているのでその方面に従事している人もなじみがあると思います。

日本人が発見した元素で113番目の元素,その名前が「ニホニウム nihonium 元素記号Nh」と昨年末決定しましたが,新しい物質を見つけた時にどのような名前を付けるか,その人々のセンスが出てきます,「うまいこと考えたなぁ」と思う例を挙げてみます。

有名なのは
*「アドレナリン」。発見したのが日本人かどうか争いになり。日本人説を支持するヨーロッパではこの名前で呼ばれている。  他者(アメリカの化学者?)を支持するアメリカではエピネフリンと呼ばれています。
*「アセトン」正式名(化学会)はプロパン-2-オン。

現代を反映している名前で,ニヤリとしてしまう名前がついたものもあります。
*光を感じる網膜にあるたんぱく質「ピカチュリン」,想像通りポケットモンスターのピカチュウから。
*蛍光物質の「カエデ」紫外線を当てると緑から赤色に変色します(秋の代名詞-紅葉から)
*「ドロンパ」っていうのもあります。色を出したり消したりしドロンと消えてパッと現れるから。
*金魚を飼うときに水槽に発生?するウズムシ(プラナリア)の細胞,これは行動を抑えると全身脳になるので「ノウダラケ」
*縁結びの神様,出雲神社にちなんだ「イズモ」不妊治療に応用されています。

等々ありますが,各自が自由に名前を付けると混乱するので化学会ではルールを作っています。 我々化学を生業としている中で外せないのがIUPAC[アユパック]。 全世界の化学会で通用する命名方法で,化学を専門に学ぶ時に最初に出てくる言葉です。 しかしこの方法でつけられた名前は長くなりすぎて(特に有機物)すぐにどんな物質か分からない場合があるので,柔軟に呼ぶ場合も多々あります。 弊社でも独自の呼び方を使っている化学物質があります。

冒頭の阿波踊り,運営が赤字の為存続が危ぶまれているらしく「踊らにゃ損損」ではなく「踊ったら損損」の状態だそうです。 我々の本拠,大阪の天神祭りも同じ悩みを持っている様子。

化学物質にユニークな命名を付ける独自の発想力を持つ人がいるのですから,赤字運営解消のアイデアを出して,新開発に目を向けつつ伝統芸を続けていってほしいものです。

【今田 美貴男】

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