コラム

社員の化学日記 −第102話 「ヴィンテージのジーンズへの憧れ」−

天然インディゴで染めたジーンズが憧れだった。ヴィンテージジーンズのあの見事な色落ちをカッコイイと思っていた。 今から100年以上前の技術,縫製技術の発達がまだ不十分のため,飾りではない補強の為のリベット,そしてベルトループは斜めにしか縫製出来ず, 丈夫なテント生地を汚れの目立たない藍色に染めた労働者向けの作業着。カジュアルな要素を持つ前の機能美だけを追求した姿勢, そして古い技術で作られている為,化学的でない天然(自然)なもので製作されていることも魅力におもった。

当時のモデルを再現したレプリカは現在でも手に入れることが出来るが,あの色落ちは,合成インディゴではなく天然インディゴで染めたものでないと不可能と思い, レプリカであっても天然インディゴで染めたものが市販されることを願っていた。

天然インディゴと合成インディゴは何が違うのだろう,どちらも主成分にはほとんど変りがない。 天然インディゴは植物の藍から,そして合成インディゴは,o-ニトロベンズアルデヒドとアセトンに水酸化ナトリウム,水酸化バリウム,またはアンモニアの希薄溶液を加える方法等で人工的に作る。 主成分が同じため染める原理もほとんど同じで,酸化と還元で染める。 不溶性のインディゴ(C16H10N2O2)を発酵や還元剤(亜ジチオン酸ナトリウム)などで水溶性の還元型インディコ(C16H12N2O2)変え,布などに付着させた後, 空気中の酸素と結合により酸化され藍色のインディゴ(C16H10N2O2)へ変わることで染める。 ただインディゴは不溶性状態で,布等にベタベタ付着しているだけなので,容易に色落ちしてしまう。

昔,ジ−ンズを履いたまま風呂に入りカッコイイ色落ちを再現ようとしたことがあったが皮膚がかぶれてしまった。 きっとこれは合成染料の為だと思ったが,合成染料も天然染料も同じであるならば結果は同じであっただろう。

作り方が天然由来なのか,人工的なのかの違いでしかないが,天然物は不純物が多く,そして合成物は不純物が少ない。

そのため,天然物にはムラがあり,合成物にはムラはほとんど見られない。 しかし,この不純物が温もりや奥行きを感じさせる立体的な藍色を作る秘訣であり,暖かい藍色を生み出す。

ヴィンテ−ジジ−ンズのあの風合いは天然インディゴによるためと思っていたが天然インディゴは1913年にはほぼ合成インディゴに取って代わり, 現存するヴィンテージジーンズはすべて合成インディゴで染められていたのである。 あの風合いは,天然インディゴによるものではなく,当時の労働者たちの生活や仕事の中で使い込まれることにより,出来ていたのだ。

風合いは,天然物や合成物で決まるのではなく,使用者の使い込み方で決まってくるのだろう,きっと当時の労働者たちはカッコイイ人たちだったと思う,きっとそこに憧れていたのだろう。

【白色林檎(ペンネーム)】

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