コラム

日本の四季を化学する−第10回 アレルギーの化学−

3月になって最高気温が20℃を超えたかと思えば,真冬に逆戻りしたり,体調を崩される方も多いかと思います。それと同時に今時期になると花粉が原因となるくしゃみ,鼻水などのアレルギー性鼻炎に悩まされている方も多く見かけます。そこで,今回はアレルギーについて考えてみましょう。

(この記事は医学的な立場からではなく,化学的立場から見た事実のみをまとめていますので,ご自身の健康問題については必ず専門の医療機関にご相談ください。)

1)アレルギーとは?

「アレルギー」という言葉は,1906年にオーストリアの小児科医ピルケが多くの臨床データを基にして名づけたもので,ギリシャ語の「アロス(変な)」と「エルゴン(力)」を基にした言葉です。アレルギー症は,通常はほとんど影響を受けないような外的要因に対して,人体の免疫反応が過剰に反応してしまう「変な力」が働いた状態を指します。この状態を引き起こす要因を「アレルゲン」(抗原)といい,病原体,細菌,寄生虫,食品成分,人工化学物質などがこれに相当し,薬物など注射や経口投与によって人為的に体内に送り込まれるものも含みます。

アレルゲンとなりうる外部要因
目・鼻からの侵入ハウスダスト(ダニの糞,死骸など),花粉(スギ,ブタクサなど),カビ,キノコの胞子など
口からの侵入食品・食品添加物(牛乳,卵,大豆,魚介類,雑穀類,各種添加物など),医薬品(抗生物質。ホルモン剤など)
皮膚からの侵入虫(蜂,蚊など),植物(漆,ヌルデなど),化粧品及び添加物,装飾品中の重金属(カドミウム,クロムなど),その他皮膚刺激物質

今日ではアレルギーといえば,花粉症,食物アレルギー,金属アレルギーなど比較的昔からあったものや,シックハウス症候群,化学物質過敏症など生活環境中に微量に存在する化学物質が人体の防御反応に働きかけて頭痛,めまい,吐き気,気管支炎などの過剰反応を引き起こすといったものまでありとあらゆるものがあります。また,人体が過剰反応を起こすという意味で苦手なもの,嫌いのものに対する反応を「○○アレルギー」(英語アレルギー,化学アレルギーなど)と表現したりもします。

2)人体の防御反応−免疫反応とは?

人体には外的要因,刺激に対して防御システムが備わっています。これを免疫システムといいます。 一般に外部からアレルゲン(抗原)が体内に侵入すると,免疫グロブリンE(IgE)といわれる抗体(タンパク質)がリンパ球で作られ,これがアレルゲンと選択的に結合し,無毒化します(抗原抗体反応)。また抗原と抗体の複合体や抗原そのものを白血球,マクロファージといった食細胞が取り込み,分解除去します。一端,体内で生産された抗体はそのまま保存され,再び同じアレルゲンが体内に侵入してくると血液や体液中の抗体が結合し無毒化されます。

インフルエンザ,麻疹などの感染症は一度かかれば感染しにくいというのは,一回目に感染した際に生産された抗体が防御してくれるからです。また,生後まもない乳幼児は母体から母乳などを介して抗体を受け継いでいるために,細菌やウィルスに感染しにくいですが,離乳食を始める時期になると抗体の効果がなくなり,風邪をひきやすくなったりします。

ところが,アレルギー症状を示す人はこの免疫システムが過剰に反応してしまいます。その過剰反応には儀拭銑厳燭了佑弔離織ぅ廚あって,それぞれ関与する体内物質や組織が異なります。

3)花粉症

a)花粉症とは?
花粉症は植物の花粉が目や鼻の粘膜に付着することにより引き起こされるくしゃみ,鼻水,鼻詰まり,目のかゆみなどの一連の症状をいいます。日本では主としてスギ花粉が原因であることがよく知られていますが,スギ以外にもヒノキ(2〜4月),イネ科植物(初夏から夏),ブタクサ,ヨモギ(秋)などの花粉も花粉症の原因となります。これらの植物に共通するのはいずれも風で花粉を飛ばす媒風花で,蜂や蝶などの虫を媒介して受粉する媒虫花は花粉症の原因となりにくいとされていますが,大きな群落を形成する種ではこぼれた花粉が風で飛散して花粉症の原因になることもあります。

花粉症のメカニズム 花粉症のメカニズム

b)花粉症の歴史
歴史的に花粉症の臨床記録が残っているのは1800年初頭の英国で,刈り取った牧草を収納する際にくしゃみ,鼻水,鼻づまりなどの症状が出たため,最初は「枯草熱(こそうねつ)」といわれていました。この枯草熱がイネ科植物の花粉が原因であることを明らかにしたのは英国のブラックレーという学者だそうです。
日本では最も最初に報告された花粉症は,ブタクサによる花粉症(1960年)で,次いでカモガヤ花粉,スギ花粉(1964年),イネ科花粉(1965年),ヨモギ花粉(1967年)と立て続けに発見報告されました。2003年までに報告されている花粉症の種類は一般的なものや職業性の特殊なものも含めて約60種類あるそうです。

ヒスタミンの構造式 ヒスタミン

c)花粉症のメカニズム
花粉症は儀織▲譽襯ー(数秒から数分で起こる即時反応型で,アトピー性皮膚炎なども含めて一般にアレルギーといわれるものは,この型に分類されます。)に分類されます。鼻や目の粘膜組織に存在するマスト細胞といわれる細胞の表面で抗原抗体反応が起こると,マスト細胞からヒスタミンをはじめとする活性物質が放出され,くしゃみや鼻水が出たり,しきりに涙が出たりします。

4)金属アレルギー

金属アレルギーも花粉症と同じく昔からあり,金属の加工職人などの間で頻繁に確認されていましたが,近年は特に若い女性が指輪,ピアスなどの装飾品の貴金属に対してアレルギー症状(アレルギー性皮膚炎)を示すことがクローズアップされています。これは貴金属そのものに対するアレルギー症状ではなく,貴金属中に,あるいは装飾品として加工する際に接合材として使用される金ロウ,銀ロウ(これらは金,銀,銅,亜鉛などを主成分とする合金です)などに微量含まれる重金属(カドミウムなど)が原因であるといわれています。

金属アレルギーは厳拭僻現まで1〜2日かかる遅延型)に属し,IgEとは無関係のアレルギー反応で,接触性皮膚炎はこの型のアレルギーになります。胸腺由来のT細胞といわれるリンパ球が生産するリンフォカインという物質によって炎症が引き起こされ,結核菌の有無を調べるツベルクリン反応もこの厳織▲譽襯ーを利用したものです。

5)その他のアレルギー

現在,もっとも問題となっているのはシックハウス症候群などを含む化学物質過敏症です。

新築あるいは増改築間もない住宅に住み始めると,風邪をひいたわけでもないのに急にくしゃみや鼻水が出始め,やがて頭痛,めまい,睡眠障害などの症状があらわれることがあります。これがシックハウス症候群で,その名前の通り住宅などの建築物に用いられている各種化学物質(建築材料の防腐・防虫剤,難燃剤などに用いられる揮発性の有機化合物(VOC)などの室内汚染物質)が原因となって引き起こされます。シックハウス症候群は原因がある程度絞り込めてきていますので,VOCを含まない建築材料が開発されるなど対策が進んでいます。

一方,室内汚染物質だけでなく,環境汚染物質や工業薬品はもちろんのこと,食品添加物,農薬,医薬品,化粧品,化学繊維,家庭用薬剤(合成洗剤,消臭芳香剤など)などのありとあらゆる化学物質やカビ,ダニ,花粉などに対するアレルギー疾患が化学物質過敏症です。発症メカニズムは,花粉症のような一般的なアレルギー疾患とは異なってかなり複雑で,まだまだ未知の現代病として位置づけられています。原因であるアレルゲンの対象範囲があまりにも広いために原因特定が非常に難しく,ある程度限定できたとしても,薬物による治療は不可能な場合が多いため,転地などの自然療法に頼るしかないというのが実状のようです。

試薬を数多く扱う私たちとしても,このような病気を抱える方々も安心して生活していけるような環境作りの手助けとなるような薬品を供給しているけるよう頑張ってまいります。

※参考文献

1)「暮らしに潜む 危ない化学物質 」吉岡安之著,日本実業出版社(1997).

2)「毒の科学Q&A―毒きのこからヒ素、サリン、ダイオキシンまで 」水谷民雄著,ミネルヴァ書房(1999).

3)「面白いほどよくわかる化学―身近な疑問から人体・宇宙までミクロ世界の不思議発見! 」大宮信光著,日本文芸社(2003).

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