「オカヤドカリを飼う!」ということ


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はじめに
 オカヤドカリは、大変丈夫な生き物です。
洗面器に放り込んで、時々水をかけてやれば、1〜2ヶ月は生きているでしょう。
しかし、それでは生き物を飼っているとは言えません。
ゆっくりと殺しているだけです。
「生き物を飼う」と言うことは「生き物を育てる」ことと同義だと思います。
オカヤドカリはきちんと飼えば、脱皮を繰り返し、どんどん大きくなり、冬を越して何年も生き続けます。
もちろん長生きさせるためには、それなりの飼育環境をととのえる必要があります。
この頁では、多くの方々から頂いた情報やアドバイス、それに自分自身の経験に基づいた「オカヤドカリの飼い方」を、まとめてみました。
自分自身、現在の飼育方法が完全に正しいとは思っていませんが、実際みーばい亭のオカヤドカリたちは、何度も冬を越して生き続け、毎年繁殖行動にも及んでいますので、それほど大筋ははずれていないと思います。
このコンテンツが、皆さんのお宅のオカヤドカリを少しでも長生きさせるための、ご参考になれば幸いです。

※当サイトで飼育方法を紹介している「オカヤドカリ」とは、ペット用として最も一般的に流通している、国産の「ナキオカヤドカリ (Coenobita rugosus)」と「ムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)」をさします。
その他にも、内陸性の「オカヤドカリ(Coenobita cavipes)」と、ごくまれにではありますがオカヤドカリと同じような環境に生息する「オオナキオカヤドカリ(Coenobita brevimanus)」が、店頭で販売されていることがあります。
この2種については、「ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)」「ムラサキオカヤドカリ (Coenobita purpureus)」とは生息環境や生態が若干異なりますので、飼育に当たっては注意が必要です。










オカヤドカリは天然記念物
オカヤドカリは昭和45年11月12日、「愛玩用に捕獲が進み激減の恐れがある」という名目で、地域を定めず種そのものが天然記念物に指定されています。
つまり、日本国内に生息しているオカヤドカリは、たとえ飼育個体であっても、すべてが天然記念物なのです。
指定にあたっては
@日本特有の動物で著名なもの及びその棲息地
A特有の産ではないが、日本著名の動物としてその保存を必要とするもの及びその棲息地
の、二つの基準が適用されています。
これは日本固有種とされているムラサキオカヤドカリ (Coenobita purpureus)と、その他のオカヤドカリ類をまとめて指定対象としているからでしょう。
ちなみに「天然記念物」とは、文化財保護法によって4区分された文化財(有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物)の一つであり、人的活動の所産である「文化財」と同列に並ぶ「自然界の記念物」のことです。
我々日本人は、この貴重な天然記念物「オカヤドカリ」を大切に守っていく義務があるのです。


オカヤドカリってどんな生き物なの?
 オカヤドカリとは、主な生活圏を海中から陸上に移したヤドカリの総称です。
分類学的には節足動物門 甲殻亜門 軟甲綱 真軟甲亜綱 十脚目 異尾下目 ヤドカリ上科 オカヤドカリ科に属する生き物で、日本では南西諸島、小笠原諸島などに、オカヤドカリ(Coenobita cavipes)、ムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)、ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)、コムラサキオカヤドカリ(Coenobita violascens)、オオナキオカヤドカリ(Coenobita brevimanus)、サキシマオカヤドカリ(Coenobita perlatus)の6種のオカヤドカリ属と、ヤシガニ属のヤシガニ(Birgus latro)、合わせて7種類が生息が確認されています。(サキシマオカヤドカリについては無効分散の可能性が高い)
なお、日本のオカヤドカリ飼育の第一人者であるハートミットクラブのとれもろさんからの情報によりますと、大阪自然史博物館の古い収蔵標本の中に小笠原諸島で採集されたオオトゲオカヤドカリ(Coenobita spinosus)のオス1個体が見つかったとのことです。
その後、国内で生きたオオトゲオカヤドカリが発見されたという話は聞きませんから、これも例外的な無効分散個体だと思われます。
地球上に1500種以上いるといわれているヤドカリの中で、オカヤドカリ類はわずか十数種が確認されているだけですから、きわめて特殊な生活様式をもった貴重な生き物なのです。

オカヤドカリの分布域は熱帯地方から、亜熱帯地方に限られ、日本はその分布域のほぼ北限にあたります。
日本固有種のムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)はいうに及ばず、ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)やオカヤドカリ(Coenobita cavipes)も、貴重な北限の個体群なのです。


ムラサキオカヤドカリは貴重な日本固有種


最後まで責任を持って飼おう!
 生物には同じ種類であっても地域格差というものが存在します。
観光目的の無秩序なゲンジボタルの放虫や、遊漁目的の湖産アユの放流によってこの地域格差が混乱し、生態系に影響を与えているという報道を目にされた方も多いと思います。
オカヤドカリの場合、幼生を海中に放出し海を介してある程度広域に分散しますので、そういう影響は少ないと思われますが、例えば石垣島産のナキオカヤドカリと奄美大島産のナキオカヤドカリでは遺伝子レベルで何らかの地域格差が存在する可能性も否定できません。
海中に棲んでいたオカヤドカリの祖先が、陸上に進出したのは今から2200万年前と言われています。
石垣島のナキオカヤドカリと奄美大島のナキオカヤドカリが交雑すると言う事は、2200万年にも及ぶ進化の歴史が一瞬で書き変えられてしまうと言う事です。
自然界の秩序を無用に乱さないために、飼育個体は絶対に捨てないでください。
よく、飼っている生き物を捨てることを「自然に帰してあげた」とか「逃がしてあげた」とか言って自分の行為を正当化しようとする人がいますが、あまりにも無責任で自分勝手だとしか言いようがありません。
生き物を捨てることは単なる責任放棄にとどまらず、重大な自然破壊でもあるのです。
オカヤドカリの寿命は大変長く、10年以上生きるのは確実で、海外のサイトには20年〜30年という記述もあります。
飼うからにはそれなりの覚悟を持って最後まで飼い続けるのが飼い主としての責任ですし、それができないのなら最初から飼うべきではありません


まず生息環境を考えてみる
オカヤドカリと一口に言っても、その生息環境は種類によって異なります。
大きく次の3タイプに分けることができるでしょう。

@海岸近くに生息し海水への依存度が高い種類
A内陸に進出し基本的に真水だけでも生きられる種類
Bその中間的な種類

ペット用として流通する国産種では、オカヤドカリ(Coenobita cavipes)やオオナキオカヤドカリ(Coenobita brevimanus)がA、そしてもっとも一般的な、ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)とムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)はBに当たります。
ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリを飼育する場合、そのあたりを考慮して飼育環境を設定することが大切です。
もちろん、海水には種々のミネラル成分が含まれていますので、内陸性のオカヤドカリやオオナキオカヤドカリに対しても、積極的に与えるべきです。

オカヤドカリの飼育とは、南国の温暖な気候と、新鮮な海水がいつでも利用できる海辺の環境を、人工的に作り出すことです。



側溝のゴミの下に隠れていたムラサキオカヤドカリ。
意外な場所で見かけることも多い。


オカヤドカリは夜行性
 オカヤドカリは主に夜間に活動します。
これはオカヤドカリの呼吸方法を考えれば当然のことといえます。
オカヤドカリは鰓呼吸と腹部での皮膚呼吸によって空気中から必要な酸素を取り入れています。
つまり呼吸のためには、鰓と腹部の体表を常に湿らせておく必要があるのです。
日中、南国の強い陽射しの中を歩いていれば、あっという間に体が乾燥して呼吸ができなくなってしまいます。
実際、港や護岸などのコンクリートの上で、陽射しから逃げ遅れて乾燥死したと思われるオカヤドカリの死骸を見かけることは珍しくありません。
また、日中は(人間や人間によって生息地に持ち込まれたイタチやマングースを別にすれば)オカヤドカリの最大の天敵である鳥の活動時間です。
明るい中を、のこのこ出歩いていれば、たちまち餌食になってしまうでしょう。
太陽や鳥から逃れるために、オカヤドカリは夜間活動せざる得ないのです。
陽射しの弱い冬場や雨の日は、昼間から出歩いているオカヤドカリを見かけることもありますが、昼間のオカヤドカリは、どことなく不安げで居心地が悪そうに見えます。




夜にはたくさんのオカヤドカリでにぎわう浜辺も
日中その姿を見ることはまれ。


オカヤドカリは陰性の生き物
オカヤドカリは英語で「Land hermit crab」と呼ばれています。
陸に住む隠者のカニと言った意味でしょうか。
これは、オカヤドカリの生態を考えると、実にぴったりのネーミングと言えます。
オカヤドカリは日が暮れて気温が下がり湿度が高くなると、餌を探して活動を開始しますが、それ以外の時間は物陰や石の下、砂の中などに隠れてじっとしています。
これは飼育下においても同様で、一日のほとんどの時間は、飼育容器の隅やシェルターの中で動かずにじっとしているでしょう。
何日も動かないこともあります。
極端な例ですが、我が家には4ヶ月間砂に潜りっぱなしで姿を見せなかった個体もいます。
飼っていてこれほどつまらない生き物もありません。
水に浸けたり、霧を吹きかけたりすれば一時的によく動きますが、これは刺激を受けて暴れているだけです
オカヤドカリは触って遊ぶためのペットではなくて、あくまでそっと観察して楽しむための飼育動物です。
そのあたりを、よく理解しておかないと、すぐに飽きてしまうことになりかねません。
これからオカヤドカリを飼おうとして情報を集めておられる方は、自分がなぜオカヤドカリを飼おうとしているのか、オカヤドカリに何を期待しているのかを、もう一度よく考えてみてください。
最初に述べましたがオカヤドカリは貴重な天然記念物です。。
気軽に手を出して無意に死なせてしまう事だけは絶対にやめてください。



シェルターの中で寝ているオカヤドカリ
昼間はほとんどこんな状態
2006.3.10初版
2010.9.20改訂



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