新作楽器のご紹介

 

フレンチ・フレミッシュチェンバロ(2011年8月製作)
10弦ギター (2011年4月製作)
竹のパイプオルガン (2010年3月製作)
イタリアン・ヴァアージナル (2009年11月製作)
新しいモダンギター (2008年12月製作)
20世紀ギター(モダンギター) (2008年6月製作)
41年ぶりのギター (2007年6月製作)
ヴィオラ・ダ・ガンバ (2007年3月製作)
アルペジオーネ (2006年10月製作)

 


<フレンチ・フレミッシュチェンバロ(2011年8月製作)>

 フレンチ・フレミッシュの2段鍵盤の楽器です。私のリンク先にある、宝塚ミュージックリサーチさんから頼まれて作りました。昨年から何度も打ち合わせをして、細部にまでこだわった楽器ができました。フレンチとフレミッシュ両方の装飾を取り入れています。音は最新の楽器が最高作なので、今まで聞いたことがない素晴らしい楽器になりました。

 


<10弦ギター(2011年4月製作)>

 現在作られている多弦ギター、特に10弦ギターはモダンスペインギターの構造だと倍音が多く、鳴っている面積が小さいので低音が鳴りません。それに比べて、私の作るギターの構造だと楽器全体が鳴るので、低音も基音がしっかり鳴り、しっかりした低音が出ることを証明するために作りました。6弦ギターで6弦をドとかラ(6弦ミの4度下のラ)まで下げて、リュートのようにしっかり鳴っている事を度々説明していましたが、いちいち大変なので10弦ギターを作ればそのような手間は要らないと考えたのです。基音がしっかりしていると、消音しなくても音楽になります。そして、10弦までそんなに弦を太くしなくても同じ音色で鳴ってくれます。また、この楽器は世界で初めて樹脂フレットを使いました。金属フレットの音を出して、すぐに出る金属の雑音が無く、リュート族のフレットガットのように音の立ち上がりがものすごく良いのです。リュートの代わりの10弦ということも考えていましたので、リュートに近い音が出るようにと使ってみました。結果、リュート奏者が弾いても、違和感無く弾ける楽器になりました。

 


<竹のパイプオルガン(2010年3月製作)>

 今から、400年以上も前に 九州天草 志岐でパイプオルガンが作られました。資料も何もないのですが、当時のヨーロッパの楽器などを参考に 復元製作しました。分かっている事は、竹でパイプを作っていたと言う事だけです。1579年に2台のパイプオルガンが日本に入ってきました。この楽器についても何も分かっていませんが、イタリアの楽器が入ってきていると思いますので、当時のイタリアの楽器、教会で使われた楽器を調べて製作しました。興味のある方は、天草コレジヨ館に収蔵されて、展示されています。なぜこのようなオルガンになったかも知りたい方は、資料を作っていますのでお問い合わせください。   → 詳細な楽器解説はこちら

 


<イタリアン・ヴァアージナル(2009年11月製作)>

 初めてアウターケースを作りました。今まで、楽器だけかフレミッシュ・ヴァージナルのようにアウターケースと楽器が一体のイタリアン・ヴァージナルは作りましたが、アウター・インナーと言って、弦楽器のようなケースは初めてです。楽器をケースから出して弾くと、本当にイタリアンらしく、ケースに入れた状態で弾くと響きもあって、色んな曲が弾けます。特に中低音部のプラッキングポイント(弾く場所)が真ん中に近いので、独特の音です。

 


<新しいモダンギター(2008年12月製作)>

 2008年12月18日の西垣さんのコンサートで使っていただいた新しいモダンギターです。前回のギターの私自身が不満に思っていたところを解消しました。そしてもっと私自身の新しいギターと言うことで、他のモダンギターに囚われず、新しい形のモダンギターを作りました。前回のギターでも充分に考えていることが反映されたギターでしたが、やはり見て、モダンギターと言う形にして欲しいというリクエストでしたので、いろんな事にこだわっていました。今回はこれらのこだわりを捨てました。(次回の楽器はもっとこだわりをさらに捨てようと思っていますが)
 
 そのこだわりを捨てた点を解説させていただきながら、見ていただきたいと思います。今回は裏板、横板ネックを楓にしました。(左写真)
 密度のある、延びのある音は楓の方が良いかと思い使ってみました。やはり、音に密度が出て、立ち上がりも良くバランスの良い楽器になりました。前回の楽器で3弦と6弦の音の密度が少し少ないように感じていましたので、構造も変えたのですが、材料を替えることによって良くなりました。特にネックの楓は音の密度に大きな影響があったと思います。

 ネックが楓ですが、塗装はヴァイオリンのようにネックの裏は少し薄く塗装してあります。全体同じにすると、重い感じですので。
 ヘッド周りが分かりますが、一番大きい点はナットを象牙とか牛骨でなくスネークウッドにしています。そうすることによって、開放弦とフレットを押さえた音がほぼ同じになります。象牙を使うと、開放弦の音が堅く押さえた音のとの違いが気になっていました。特に1弦の開放弦のミを弾いたあと2弦3フレットのレを弾くと音質が変わります。それが殆どありません。又、1弦のファとミなども。指板の回りにデザインを統一するためにスネークウッドを付けました。弓一本分です。それと、フレットが1.3ミリの物を使っています。一般的には2.0ミリの物が多いようですが、音の締まり、見た目から細いフレットを使いました。これも前回は普通のモダンギターに見えるようにと2.0ミリを使いましたが。やはり和音を押さえてもクリヤーです。19世紀ギターではバーフレットで1.0ミリ1.2ミリ辺りが多いのですから、1.3ミリでちょうど良いのではないかと思います。それと、これは音に関係ないのですが、ヘッドのデザインです。糸巻きの弦を張っている部分というか、ヘッドの中のくり抜いているところです。モダンギターは殆どのギターがヘッドの上の部分が曲線、円になっています。ここが直線にする方がデザイン的に綺麗かなと思うのですが、どうでしょうか?こんな小さな事を一つとっても、モダンギターはいろんな制約を受けて、作られているように感じます。
 ヘッドを裏から撮りました。ジョイントは19世紀ギターやハウザー、ロマニロスと同じVジョイントです。
 ブリッジも前回はトルレスと同じような象牙で装飾しましたが、音に象牙の影響が出るようで音が堅くなり倍音が増えるように思います、今回はスネークウッドで装飾と、強度アップを図っています。写真では分かりにくいのですが、2枚を弦の摩擦等で痛みやすい所に1.5ミリほどの薄い板を貼っています。また、ブリッジの骨棒も黒檀にしました。象牙に比べて、反応がよいので立ち上がりも良く、音に暖かみが出ました。(これも、象牙、スネークと実際に付けてみて比べました)モダンギターでは殆ど(100%)象牙又は牛骨です。
 これも、少し見にくくてすみませんが、裏板の剥ぎ部分に補強の木が張っているのが普通ですが、ヴァイオリンなどでは、最初から剥ぎ部分に補強剤を張ることはありません。人によって念のためパッチを当てるくらいです。ギターの場合かなり大きな部材が張っていますので、音にも影響があると思います。私もこの写真で分かるような小さなパッチを張っているだけです。 後、指板全体が分かる写真と裏からの全体写真です。
 
 

 


<20世紀ギター(モダンギター)(2008年6月製作)>

 今年(2008年)6月13、14、15日と大阪府茨木市でクラッシクギターフェスティバルが開催されました。ギターの展示、演奏会、講演会など多くの行事もあり、展示楽器もアマチュア、プロ含めて60台ほどの楽器が展示されすべての楽器がホールで演奏されました。またトーレスをはじめ、ブーシェ、サントス・エルナンデス、ハウザーなどの名器を使ったコンサートもありました。中心になった方が、古くから楽器製作の先輩のギター製作家、松村雅亘さんだったので協力しようとモダンギターを作りました。
 音楽のスタートがギターだった事や、ギターリストの西垣正信さん、中学生の頃から良く知っている稲垣稔さん、30年以上のお付き合いの福田進一さん、いろいろとお世話になっている増井一友さん、そして岡本一郎先生、その他多くのギターリストの方々が周りにいてくださるので、ギターに段々興味が移ってきました。
 私にとって、モダンギターは不思議、不思議の楽器でした。19世紀ギターから見ると不思議な事ばかりでした。形は20世紀ギター(モダンギター)の形をしておかないといけないのですが、19世紀ギターから繫がる20世紀ギターを作りました。またガンバを始めリュート、チェンバロなどを作ってきた経験を生かして作りました。一番大きな不思議は、ライニングです。一般的なギターはチェロの3〜4倍もあるので、ライニングはチェロ程度にしました。厚すぎる横板はチェロ程度に(一般的なギターは2ミリほどの厚みですが、あの大きなチェロでも1.6ミリくらいです。材質が楓で、ギターに使われているローズウッドより2〜3割り軽い材質です。)あと、表面版のバスバーもリュートの発想で作りました。その結果楽器全体が鳴る楽器が出来て、作りたい音が作れました。モダンギターは倍音が多く、楽器によっては倍音ばかりと言う楽器もあります。私の作りたい、ガンバ、リュート、チェンバロでも基音がしっかりしていて、その周りに倍音がついている音ですので。(これらの楽器でも、最近は倍音の多い楽器が増えていますが。)
 イメージになりますが、エラールとかプレイエルと言った、フランスの名器のピアノの音でしょうか。ギターで言えば、フリオ・ゴメス・ラミレスのように、音がしっかりしていて、フランスの香りがする楽器です。(イダ・プレスティが録音に使っていた楽器がゴメス・ラミレス作だと言われています。プレスティの音がとても好きな物ですから) 基音がしっかりしていると、音の周りに輪郭も出来、1音1音がくっきりとするので、単音でも、和音でも音が濁らず、ぼけません。
 西垣さんにギターフェスティバルで弾いていただきましたが、西垣さんもとても気に入ってくださっていました。(西垣さんと何度も出てきますが、知らない方のために少しプロフィールを・・・フランス、ニースで勉強され、ニース市音楽大賞受賞、ヨーロッパ各地で多くのコンサートを開き、スペイン政府主催 マリアカナルス音楽コンクールの審査員を20年近くされています。アランフェス協奏曲で有名なロドリゴさんが生きておられた頃は、一緒に審査されていました。フランス・ビラロボス国際コンクール審査委員長もされています。今回のギターフェスティバルが終われば、このコンクールの審査委員長として、フランスに、またヨーロッパ各地で演奏会があります。茨木のギターフェスティバルで6分ほどの演奏のために来ていただくには、申し訳ない方ですが、私の作る新しい、20世紀ギターを楽しみにされて、弾いていただくことになりました。)
 西垣さんも、この新しい楽器は今の20世紀ギターに、欲しい要素がすべて入っていると言ってくださって、特に、フランス物20世紀のフランス音楽を弾くのにぴったりだと言ってくださいました。また、出来た翌日に弾いていただいたのですが、(塗装してから2日目)感想は、初めて弾くのに20年ほど弾いている感じですと言ってくださいました。
 このギターに興味のある方は、しばらくは手元にありますが、その後は西垣さんの所へ行ってしまいます。時間を見つけて作っていこうと思っていますので、また新しいギターが出来ればお知らせさせていただきます。

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<41年ぶりのギター(2007年6月製作)>

 以前から作りたいと言っていたギターが出来ました。
 モデルは、ルイス・パノルモです。ギター、特に19世紀ギターに興味のない方にとってパノルモといわれてもピンと来ないと思いますが、 1830年頃にロンドンで作られていた名器です。その他には19世紀ギターを代表するギターとして、パリで作られていたラコートがあります。 ラコートはどちらかというと、リュートの延長線上にある楽器で、バスバーの配置がリュート的です。それに比べて、パノルモはスペインギター を基にして作られていますので、現代のギターによく見られるたこ足のバスバーがあります。このことによって、現代、近代の曲を弾いても満足 が出来る音の楽器を作れる可能性があると思っています。
 以前から作るのならパノルモでと考えていましたので、今回パノルモモデルで作りました。ギター演奏家の西垣正信さんもパノルモの名器を 持ってらして、オリジナルな響きを一番身近に感じている楽器でもありました。今回は材料が20世紀ギターに良さそうな材料を選んだこと。 裏板を軽くするため、ベニヤ構造(ベニヤといっても、ラワンベニヤのようなものでなく、ローズウッドとドイツ松の合板です)バスバーの配置、 バスバーに100年以上楽器として使われた木を使った事などから、だいたい出てくる音は予想できたのですが予想通りでした。一台作ると、 次の楽器はバスバーをこうしよう、材料はこのような材料でと、色々考えて次々と作りたいと思っています。
 今回、41年ぶりにギターが作れたのは、兵庫県が始めたトライやるウイークで中学生を二人預かって、この二人がギターを好きだったという 事から、ギターを作る事になったのです。弦長63センチで今のギターに比べて二周りほど小さい楽器で、19世紀ギターらしいしっかり芯があって、 遠くに届くような音になりました。サウンドホール周りの螺鈿細工を中心に手伝ってもらいましたが、手間をかけて貝を埋めましたがとてもきれいに 出来ています。(写真を見ていただければ、わかりますでしょうか?)手の小さい方、他の楽器と合奏される方、ソル、アグアド、カルリなどの曲を 当時の響きで聴いてみたいと思われる方など、興味のある方は連絡ください。この楽器は手元に置いておきますので。

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 パノルモオリジナルな形ではありませんが、19世紀ギターに良く見られるスタイルでヘッドを作ってみました。

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<ヴィオラ・ダ・ガンバ( 2007年3月製作)>

 ヴィオラ・ダ・ガンバは沢山作っているので、新しい楽器が出来たからと言って、お知らせする事もないのかもしれませんが、今回の楽器は少し違うのです。
昨年と今年にかけて、同じような楽器が3台続きました。それは写真でも分かるように、楽器の周りをべっ甲で飾り、指板の回りもスネークウッドで装飾しました。 糸巻きも、汗をかいても滑らないように、レリーフを彫ったりしました。もちろんヘッドには顔を彫ってあります。 (写真の楽器は珍しく、男の方の彫刻です。ダヴィンチの絵からイメージで彫っています) 楽器の周りをべっ甲で飾ったのは見た目もあるのですが、 角が丈夫なべっ甲ですので、一番欠けやすい部分が保護されるのでべっ甲で飾りました。そして、指板、テルピースの周りをスネークウッドにしたのは、 指板にフレットを巻くとどうしても、ネックが傷付きます。ところが、非常に硬いスネークウッドだと傷がつきません。テルピースも硬いスネークウッドを使うと、 弦の食い込みを防ぐ事と、テルピースのエンドピン部分での事故に対処出来ますので。そして何より、綺麗ですし。

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<アルペジオーネ(2006年10月製作)>

アルペジオーネが出来ました。何年も前から作りたいと言っていたのですが、今年やっと作れる時間が取れました。
 作ってみると予想通りというか予想以上に面白い楽器でした。シューベルトのころのガンバと考えてもいいのですが、1853年のアルペジオーネの図面 (表板の厚みも書かれているかなり詳しい図面です)を参考にして、数年前に出たCDと今年出たCDを聞きながら、(特に今年出たCDは1823年のシュタウファーが作った と言われていたオリジナルのアルペジオーネで録音されているので)、図面を作って楽器を作りました。
 最初にブルグミューラーのギターとアルペジオーネの曲を弾きましたが、ガンバで弾いてもやはり違和感がありしっくりしません。 それをアルペジオーネで弾くとぴったりきます。ガンバに比べて表板が厚いので音もしっかりしていて、旋律が歌いやすい楽器だからでしょう。 ガンバは通奏低音に使うこともあり低音の響きを大事にしますが、アルペジオーネは完全に旋律楽器と言えます。この違いが大きいと思います。
作っていろいろ調べてみると面白いことも解ってきました。
 グローブの音楽辞典を見ると驚くほど記述が少なく、1ページの3分の1程度しかありません。 おまけにその内容も「構造は雑で」と、どの楽器のどの部分を見て雑と言っているのかわかりませんが乱暴に決め付けています。 写真でしかオリジナルは見たことがないのですが、同じ時代のヴァイオリン、ギターと比べても雑とは思えません。 一時期だけもてはやされた特殊な楽器とのイメージがあるからでしょうか。
 さらに、両方のCDに入っているブルグミューラーの曲がすばらしいので、CDから楽譜を作っていただき弾いてみました。 (シューベルトのアルペジオーネソナタは簡単には弾けません。)この曲がとても気に入ったので、他にどんな曲を作っているのかグローブで調べてみました。 アルペジオーネと同じようにブルグミューラーもかわいそうな扱いです。日本ではとても有名なブルグミューラーは お父さんや早く亡くなった弟については項目があるのに彼は項目すらありません。彼についてはお父さんの項目の最後に、弟と一緒にパリで活躍した作曲家ということで 書かれています。オペラ、子供のためのピアノ曲集(これが有名なあの練習曲集です)、歌曲があるということが書かれているのですが、この歌曲の後ろにカッコ書きで 「それほど価値のある作品でない」などとこれまた、ぼろくそに書かれていました。 彼のピアノ曲、アルペジオーネの曲も旋律が美しく、テクニック的に難しくなく書かれていますので悪意さえ感じる書かれ方でした。 (この歌曲も調べて、やってみたいなと考えてしまうほどです。)
 実際に作って演奏してみると、心配していた金属フレットとガット弦の相性もよく、 アルペジオーネでなければ表現できない音楽もあると解りましたので、これからもアルペジオーネを作っていきたいと思っています。 それと、アルペジオーネに合う19世紀ギターも一緒に作っていきたいと思っています。

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