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分散染料について


1. 分散とは ?
  物質が微粒子状になって、他の物質内に散在する現象を分散と言う。真の溶液も粒子が分子あるいはイオンの場合であって、分子分散と呼んでいる。 粒子が液体の場合がエマルジョン、気体の場合が「あわ」である。粒子が固体の場合をサスペンジョンとも言う。

 一般の粗粒子分散系は熱力学的には不安定系であり、これがある程度安定であるためには、粒子はなるべく小さく、 しかもその大きさが均ーであることが必要である。また粒子相互の結合粗大化(凝集)を防ぐために第三物質(界面活性剤)の存在が必要である。 これを分散剤と言う。分散剤は保護される粒子が液体の場合は乳化剤、気体の場合は起泡剤と呼ばれる。 保護される粒子が固体の場合には分散剤は分散性の保護作用のほかに、 粗大粒子を微細な粒子に分割する一種の解謬作用を備えていることが必要である。

2.分散染料について
 分散染料は水に難溶性であり、通常水性分散液として染色に用いられているので、 分散染料と呼ばれている。分散染料は染料の分子中にスルフォン基(-SO3-)、 カルボキシル基(-COO-)のようなアニオン性イオン化基を全く持たず、親水性基(-NH2、-NHR、-OH)および適度の極性基 (-N02 、-CO2-、=CO、-SO2-、ハロゲン)を持つ非イオン染料である。
 歴史的にはアセテー卜繊維の発明、工業化により、その染色用染料の開発を迫られたことに端を発するが、 当初は油溶性染料のような非水溶性染料の水溶性化、硫酸化油あるいは石鹸による分散化に始まっている。


ジアセテート用染料の場合、分散染料としては比較的低分子量 (220〜370)で分子内に前述の親水基や適度の極性基を持つ、やや親水性の大きなものが適している。 他方、ポリエステル用分散染料はジアセテート用染料より分子量はやや大きく塩基度の低い疎水性の高い染料が適している。 しかし、分子量は多種属染料に比べると比較的小さい(分子量250〜650程度)。

3. 分散染料の化学構造
  分散染料は化学構造的には大別して次のように分類することができる。

○ベンゼンアゾ系(モノアゾ、ジスアゾ、一部にナフタレンアゾ系)
モノアゾ系染料は中間体の価格、合成コストから比較的安価なものが多く、昇華堅牢度も比較的高堅牢型のものが多い。主として中〜濃色用に使用される。
移染性が良くない傾向があり、染色中に高温度下での還元分解や加水分解を受け易い染料が多いため、 均染性、再現性の面から中色以上での染色に使用されている。
色相範囲は広く、イエロー・オレンジ・レッド・ルピン・ブルーが得られる。ジスアゾ系染料は発色団であるアゾ基(-N=N-) を染料分子内に2個有するため、カラーバリューが高く、色相も鮮明で、かつ比較的安価な染料が多い。
 染色後の熱処理により湿潤堅牢性が低下し易い傾向の染料が多く、堅牢度を重視しない分野で主に使用される。
色相的には広範囲の色相が得られるが、分子量的に染着率が低下する傾向にあり、低分子量のイエロー・オレンジ系統が主体である。


○アントラキノン系他系統の染料に比し、移染性が比較的良好であり、化学的にも安定であるため主として均染性、カパリング性、 再現性を要求される分野に使用される。色相が鮮明(特に鮮青、赤色)で耐光堅牢性に優れ、カーシート用に多く使用されている。 反面カラーバリューや湿潤堅牢性が得難い欠点があり、高価である点で、淡〜中色に使用されることが多い。
金属イオンとキレート結合して青色系に変色するため、金属封鎖剤の使用が必要である。
色相的にはレッド・バイオレット・ブルー系統の鮮明色に多い。

○複素環アゾ系(チアゾール・ベンゾチアゾール・キノリン・ピリドン・イミダゾール・チオフェンなど)
 ベンゼンアゾ系染料に比較して、色相が鮮明、分子吸光係数が大きく、カラーバリューの高い染料、 抜染が可能な染料が得られるなどの特徴があり、近年の分散染料開発分野となっている。
比較的新たに開発された構造の染料としての、チオフェンアゾ/ジスアゾ系ブルー染料は、色相の鮮明度、あるいは高堅牢性染料として有用である。

○ベンゾジフラノン系
 構造中に窒素原子をまったく含まずに鮮明な赤色を示す点で特徴があるが、 いわゆるサーモマイグレーション性(染色後の熱処理などにより染料が繊維表面ヘ移行して湿潤堅牢性の低下を示す) が最も少ない染料として知られている。
アルカリ条件下で加水分解し易い特徴を生かして、アルカリ抜染用染料としても使用できる。
それまでにない新規な構造をもった高堅牢性の鮮明色染料群でありICIにより開発された。

○その他(縮合系 : キノブタロン・スチリル・クマリンなど)
 クマリン系の蛍光色を示す帯緑黄色分散染料が良く知られている。

 分散染料の化学構造は上記のように多岐に渡っているが、共通する一般的特徴は以下の通りである。 このことはまた、分散染料一般に要求される性能であるとも言える。
・基本的には分子量の小さいアゾ、アントラキノン系染料が大半である。
・芳香族または脂肪族のNH2、NHR基やOH基を有するが、本質的には非イオン性である。
・高融点の結品性物質で分散剤とともに解謬され、染浴中で安定な分散液を形成する(粒子の大きさ300-1000nm)。
・染色条件下での水溶媒への溶解度が相対的に低い。しかし、少なくとも 0.1mg/l は必要である。
・繊維中における染料の飽和値が比較的高い(10〜50mg/g 繊維)。
・染色中に化学的な変化が起こらない。

4. 分散染料の染着機構
   一般にポリエステル繊維は染料を吸着する座席として多量のエステル基(-O-R-O-CO-R-CO-)nを持っており、 分散染料やアゾイック染料に対して良好な染着性を有し、バット染料に対してもある程度の染着性を示す。
 しかし、天然繊維や他の合成繊維に比べて難染性であるとされているが、 これは繊維の結品化度と配向性の高さに基づく繊維構造の緻密さのためであり、染料が繊維内で拡散し難いことによるものである。
 分散染料はポリエステル繊維の非結晶領域に染着するが、 同繊維は構造が緻密で高分子鎖のセグメント運動が始まるガラス転移点が約8O℃と高く、この温度よりかなり高い温度(≧100℃)でなければ、 染料の拡散に十分な空隙が形成されない。
  このことから、ポリエステル繊維の染色では、繊維内の染料の拡散速度を増大するような染色方法が採られている。

即ち、
(1) ガラス転移点以上の十分に高い温度で染色する。
(2) 繊維の膨潤剤(キャリヤー)を使用し、繊維のガラス転移点を低下させる。
((3) 繊維内部での拡散の容易な分子量の非常に小さい染料を使用し、繊維内で染料を合成する。
  (アゾイック染料)現在ほとんど使われていない。)

 高温染色法は通常120〜130℃で30〜90分染色するが、比較的短時間に染料の繊維内部への浸透が進み、均染を得やすい、色相が鮮明、 染料の利用率が高く濃色を得やすいなどの特徴がある。アルカリ染色なども行われているが、多くの染料は、染色時の pH が中性〜アルカリ性になると染料の加水分解を生じ、変色や染着量の低下を起こす。このため、一般には染浴に酢酸などの酸を添加し、pH 5〜6に調整して染色する。

 サーモゾール染色も一種の高温染色で、180〜220℃の高温下での繊維のセグメント活動と染料の昇華性を利用して単分子分散させ、 繊維内部への拡散をはかる染色方法で、連続染色法として主にポリエステル/セルロース混紡品の染色に利用されている。H/T (High Temperature)スチーミング染色はサーモゾール染色の熱風に代えて過熱水蒸気を用いる方法で、 蒸気中の水分が染色に重要な役割を果たし、熱風よりも生地の昇温が速く、 高圧蒸熱法(130℃×30分) に対し、短時間常圧蒸熱法として捺染反の熱固着(165〜180℃×8〜10分) に応用されている。

 キャリヤー染色におけるキャリヤーとは比較的分子量が小さく、繊維内部に容易に拡散・侵入し、繊維の可塑化をもたらすものを言う。 そうしたキャリヤー使用の結果、繊維のガラス転移点が低下し、100℃程度の染色温度でもセグメント活動が活発になり、染色が可能になる。 具体的には、OPP(オルソフェニールフェノール)、メチルナフタレン、ジフェニール系、クロルベンゼン系などを用い、100℃前後で染色する。 こうしたキャリヤーの環境負荷は極めて大きいため、高温染色機が一般に行き渡った今日では、主としてウール混紡品など、 染色により相手繊維の物性低下のため高温染色できない混用品の染色に限定的に使用されている。

 分散染料は親水性の天然繊維には染まらないが、ほとんどの疎水性合成繊維に染着するので、合成繊維用染料として重要な役割を持つ。 実用上はアセテート、トリアセテート、ポリエステル用染料を主体に、 また、均染性が良いためナイロンやアクリロニトリルの淡色染めにも使用されている。

5. 分散染料の表記方法
  ポリエステル用分散染料の中には性質の異なる多数の染料が含まれているため、染色工場での染料選択の便宜上、 主に高温染色における染色性により、E/SE/SF(FS/S)タイプに分類されていることが多い。

・Eタイプ : 低エネルギー型(繊維内拡散の活性化エネルギーが低い)。
            均染性良好、昇華堅牢性不良。
    主として加工糸及びその織編物、キャリヤー染色などの淡色用に適する。

・SEタイプ : 中エネルギー型(繊維内拡散の活性化エネルギーが中程度)。
            均染性・昇華堅牢性中程度.加工糸およびその織編物の染色に適する。
            各染色法全般に使用される。
    濃度・再現性・堅牢度のバランスがとれているため、今日における分散染料の中心的な染料タイプとなっている。

・SFタイプ : 高エネルギー型(繊維内拡散の活性化エネルギーが高い)。
  (FS/S)     均染性不良、昇華堅牢性良好。
    ポリエステルの先染、加工糸の濃色染色、超極細繊維の染色に使用される。
    サーモゾール・捺染用に最適。

 こうした一般的な分散染料としての性能の他に、染色方法により次のような性能が要求される。
○高温染色 :
        * 均染性が良く、吸尽率が高いこと
        * 高温における染料の分散性に優れ、凝集が起こり難いこと
        * 混紡品の染色において多繊維への汚染が少ないこと

○サーモゾール染色(および、H/Tスチーミング) :
        * 染着率が高く、染色温度(湿度)の多少の振れによる染着率の変化が少ないこと
        * 常温における分散性に優れ、スペックの原因となるような粗大粒子がないこと
        * 昇華堅牢性に優れ、機内昇華による汚染を生じ難いこと
        * セルロース繊維に対する汚染が少ないこと

○キャリヤー染色 :
        * 均染性が良く、低エネルギー型染料であること
        * 各種キャリヤーと相容性(分散安定性)が良く、ピルドアップ性に優れていること
        * 主として羊毛などの天然繊維に対する汚染がすくないこと

 分散染料は、このような染色性面での性能の他に、 ポリエステルのもつ耐久性に優れた物性に見合った高い堅牢性に対する要求も満足させることが望まれている。
 この意味で、特に使用する用途や素材により幾つかの新レンジの染料が現れている。その幾つかの例を挙げる。
・サーマルマイグレーションによる湿潤堅牢度が良好なもの(特にスポーツ衣料に適)。
        Dianix XF/SF染料 (DyStar)
        Terasil W/WW染料(Huntsman)
・車両用高耐光レンジ
        Dianix AM/HLA (DyStar)
        Teratop (Huntsman)
        Kayalon Polyester AUL (日本化薬)

6. ポリエステル繊維の染色工程
   ポリエステル繊維の染色において、織・編物の後染めの場合、一般的に次の様な工程が採られる。
 
準備工程:検査 − 縫合・結反 − 洗浄 →
 前処理工程:糊抜き − 精練・リラックス − (漂白) −プレセット − (アルカリ減量) →
 染色工程: 高温染色 →
                  キャリヤー染色 →
                  サーモゾール染色 →
 後処理工程:還元洗浄 − アニオンソーピング − 乾燥 →
     アルカリ還元洗浄又は、酸性還元洗浄
 仕上工程:仕上剤付与 − ファイナルセット      

                            ( )・・素材・要求により任意