デフレ下の公共投資の結末 [経済・社会]

デフレ下の公共投資がなぜ借金を膨らませ、余計に経済を縮小させるのだろうか。

さてこのようなデフレが支配する市場で、公共投資などの生産量増大政策を取るとどのようなことが起こるのであろうか。


所得がどんどん減少したり、あるいは借金がどんどん増え、生計費を十分に賄えず、貯蓄がほとんどできなくなり、その結果、所得のうち借金の返済や、国民負担などにより10%が市場から流出するデフレ市場と仮定しよう。

すなわち個人がローンの返済分、社会保険の保険料支払分、公共料金、固定資産税、消費税などの国民負担総額が、すべての国民を平均すると、所得の1割に達している市場である。国民のだれもが所得の1割を国や、金融機関などから奪われ、市場から資金が少なくなっている状態を想像していただきたい。

そのような市場で、
今100億の公共投資が政府の借金でなされたとする。
そうするとそれにより産出物が100億なされ、100億の所得を労働者が受け取る。

しかし労働者はその所得のうち10%を借金の返済や税金によって徴収されることになる。その結果90%を消費に回すことになる。90億が消費され、10億が在庫として残る。

消費された90億の生産物により、次の循環では、90億の所得が生まれる。その人々もまた所得のうち10%の借金を返さなければならないため、81億が消費に回る。それが順次繰り返され、72、9億、65,61億、59,049億、53,1441億と消費が減じていく。

それに応じて不良在庫も10億、9億、7、29億、6、561億と増えていく。結局投資された100億と同等の不良在庫が形成された地点で、投資効果が終了する。

消費が減じていくというよりは、借金を返すため無理やり消費させられていると言った方がよいだろうか。この消費は、自分たちの富をもたらさず、増えるほどコストが増え、疲弊していくものである。

人々は100億の公共投資により、その10倍の規模の経済を動員して借金を100億返すことになるが、それと同時に不良在庫が100億市場に生じることになる。借金の返済は市場からの資金の流出を意味している。不良在庫がそのまま残る。貯蓄として残らないので投資として再投資されることはない。


このように借金が貯蓄を上回る経済では、公共投資は借金の積み上げを意味するのである。この借金の積み上げは、現実の経済市場では、企業や個人の不良在庫の積み上げ、廃業、赤字、製造コスト増、借金増、自己破産となって蓄積される。


借金は返さなければならない物であり、借金率の大きさによって生計費が左右される。貯蓄は、生計費を差し引いた余剰である。消費の大きさにより貯蓄率が左右される。

結局不良在庫が100億になるまでこの循環が繰り返され、投資効果が終わる。デフレでは、100億の投資は経済全体で100億の借金を作ることになる。

その100億は、市場全体に行き渡り、不良在庫となったり、生産コスト増となり、赤字、企業倒産、廃業などに変わってるのである。

最初の100億の投資が借金でなされればその借金100億は返済される事なくただ増えるだけである。
さらに経済全体で100億の欠損が生じる。乗数理論を応用すると、10分の1の借金率は10倍の負の乗数になる。1000億円の経済規模が無駄に浪費されることになる。

そしてその多くの経済要素がコスト増を招き、利益額が少なくなり、すなわち付加価値を減少させるのである。
このようにデフレでは、公共投資はより早く借金を増やし、その数倍もの規模で経済を縮小させるのである。

日本はバブル崩壊後何度も補正予算を組み、大規模な公共投資を行ったが、それは間違った政策であったのである。余計に経済を縮小させ、借金を雪だるま式に増やしたのであった。


これは、バブル崩壊当初、大規模な公共投資を行ない、ダムや港湾、高速道路などをこしらえても、その担い手が大手のゼネコンであったため、彼らの借金返しに手を貸しただけとなった。そしてデフレが解消されることはなかった。しかも経済は自律回復できず、莫大な公共投資は莫大な借金に変わったのである。

その後の数回にわたる莫大な補正予算は、成長戦略、上げ潮戦略、あるいは需給ギャップを埋め合わせるなどと称しながら、莫大な投資は、ことごとく失敗したのであった。

いずれも当初の生産活動の活発化(実質GDPの成長)に幻惑され、経済が成長していると喧伝されるが、実際は、名目GDPの成長が常に実質GDPを下回り、経済は、縮小を続けているに過ぎないのである。

いずれも消費の欠損という現実を知らず無謀な方向への投資政策を遂行したことによる失敗である。

このことは、この例から100億の生産量の所得から80億が消費に回り、20億が欠損になっていることから明らかであろう。すなわちデフレでは、常に名目GDPが実質GDPを下回り、資金が増えない。どころか減少していくのである。

デフレでは名実GDPの逆転が起こるのはなんら不思議ではない自明のことである。実質GDPだけの成長だけを見て、経済が成長しているというような論調はもはややめてほしいものである。

現在リーマンショック後多くの国で取られた、生産刺激策や、グリーンニューディールなどの政策は、3年後の今、その投資効果がなくなり、実質GDPは再び落ち始めています。

しかし借金が少なくなったという話は全く聞かれない。デフレの国は前と比べ余計に財政状態は悪化したのである。低金利過剰融資は、企業の延命効果や、救済策として有効なのであり、デフレ解消策ではないのです。(http://blog.so-net.ne.jp/siawaseninarou/2番底を目指す世界経済)、参照。
(デフレに完全に陥ったアメリカとG20、2千10年11月)
(世界のデフレ像を描く2千10年4月)
(世界の財政出動と低金利の行く末2千9年3月19日)
(世界の英知が向かわねばならない方向2千9年4月)参照

デフレでは、公共投資は逆効果であり、かえって経済を縮小させ自律回復させることはない。

徒に実質GDPの成長率を珍重することは謹むべきことである。税収はお金によってなされており、名目をが増えない限り、税収は増えない。当たり前のことだ。

乗数理論による、
風が吹けば桶屋が儲かる理論は、風が止めば桶屋がなくなることでもある。
デフレは負の乗数が支配する世界であり、借金乗数がまかり通る市場なのである。

借金が多くなり、貯蓄する人より借金の返済が多い人や、生計費を十分払えない低所得者が平均を越えれば、公共投資や生産刺激を通して所得が増えることはなく、直接消費を増やす給付を実施なければデフレから解消することはない。

誠に残念なことに、東北で大震災が起こり、そのために莫大な公共投資をなさねばならなくなりました。しかし現在の日本は完全な深刻なデフレ状態です。

阪神大震災と同じようなやり方では、ほとんど景気が回復する事なく、借金だけが増えていくでしょう。
借金をして東北に行った公共投資は、東北のインフラを恐ろしい早さで整えられるでしょう。素晴らしいことです。そして実質GDPも伸びるでしょう。当たり前のことです。

メディヤ、政府関係者、経済専門家は誉めそやすことでしょう。日本は目覚ましい復興を成し遂げていると。

しかし残念ながら復興の見返りは経済全体に取って全くなく、その借金は全く返せず、莫大な投資金額の分だけ、他の地域の日本の分野で穴が空くのです。

数兆円の投資は、日本全体で数兆円の借金を生じさせ、その負の乗数倍の経済を浪費させることになります。
これがデフレの実際なのです。
歴史上の多くの国は、経済困窮中に災害を被り、それを増税して乗り切ろうとすることにより破綻したのです。

今年の後半外需は別にして、生産量の増大による実質のGDPの成長だけをみて浮かれてはなりません。名目が上回らなければ絶対に借金は減らないのです。

政府は経済のよいことは自分たちの政策効果だと言い、悪いところはすべて震災の姓にするでしょう。

今から既に経済学者や、専門家の中にはV字回復を予想している方達がいるが、それは実質GDPだけの成長に過ぎません。そこをよく吟味して評価する必要があるでしょう。

デフレ時の東北の震災復興は、ニューディール政策のような物なのです。あるいはITバブルを覚えていらっしゃるでしょうか。そのバブルが終われば一気に萎むのです。

それ故私達はその愚をしっかりと見据え、デフレにおける本格的な復興を成し遂げねばなりません。

震災復興とデフレ解消策の基本は、日本全体の消費額を直接引き上げることにあり、生産を通して所得を引き上げるのではなく、日本全体の消費額を直接増やし、借金率を減少させる施策が必要なのです。

その政策として私は船中8策を提案しています。
これはすべて市場に資金を増やし、所得線の角度を上昇させるものです。http://blog.so-net.ne.jp/siawaseninarou/敗戦と戦後の復興:デフレと震災復興参照
一言主。
追記:負の乗数のところは私のオリジナルですので引用でお願いします。

平成版:船中八策を実行せよ。

デフレ解消策(船中八策)
1、ガソリン税を下げよ。
2、高速代金を全線、全車種3割負担で実施せよ。
3、雇用保険を満額給付せよ。
4、生活保護所帯以下の最低賃金所帯にその差額分を給付せよ。
5、住宅ローン破綻懸念者に国が代わりにローンを支払え。
6、金利を引き上げよ。(個人金利を引き上げよ。)
7、税金の物納を大幅に認めよ。
8、消費税を下げろ。
いずれも市場に資金を注入する方法であり、消費の拡大に貢献します。それがデフレ解消の正しい方策です。


2011年6月20日

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