TPPの幻想 [経済・社会]

TPPの幻想(環太平洋経済連携協定)

菅政権は突然TPPに参加すると言い出した。メディヤの扱いはまるで希望の星のようである。農業政策さえうまく整えれば、大きな利益が生まれるように思っている。

しかしそれは幻想に過ぎない。デフレ下での参加は、大きな災いを日本にもたらすであろう。

デフレ下での大きな経済的自由は、農業だけの衰退だけではない。日本の根幹である産業経済基盤を崩壊させるであろう。TPPへの参加を推奨する人達は日本が未だに無敵の豊富な消費をもたらす中流階級が存在しているように思っている。

もはやそれは存在していない。経済の基礎的条件が変わっていることを知らなければならない。

デフレ下における自由化は、弱肉強食を生み、より大きな経済縮小と低所得化を促進し、それと同時に輸出産業と内需産業の格差の拡大と、民間賃金と公務員賃金の格差の拡大をもたらす。

このようなことは小泉政権時代の政策を見れば分かることだ。

小泉政権時代のデフレ下の金融自由化や、大規模店舗の自由化は、各地の商店街の衰退や、資金が海外へ流出したのである。今でこそアメリカ経済がデフレに入り、低金利のためアメリカには資金に流れなくなっているが、その分新興国に回っているのだ。

もう一度小泉政権時代をよく思い出してもらいたい。
いざ凪を越える長期経済成長と政府が偽ったあの時代である。実際は不毛の経済消耗が続いていたのであり、内需の減退と外需への依存により、統計上経済が膨らんで見えていただけであった。

内需が完全に縮小する中で、輸出の割合がどんどん増え、それが全体の統計でプラスになっていたのである。その間民間賃金は減少を続け、派遣社員が増え、正規雇用者が減少し非正規雇用者が増えた。

また小売業全体の売上も縮小し続けていたのである。
地価も下がり続けていた。

内需の不振が輸出を促進し、その結果輸出産業は、内需産業の犠牲の上に成長していたといえよう。国内の低賃金化をいいことに、より安価な労働者を使い、また下請けや、協力工場には、他に逃げ道のないことを見越して、大きく加工料を引き下げ、大きな利益を上げていたのである。

TPPは再びこのようなことを恒久的に行おうとするものである。TPPの推進者の多くは、小泉政権時代の政策がよかったと思っている連中であり、なんら反省のない人達と言えるであろう。

日本は今1千兆からの借金を政府が抱えている。これを返せなければデフォルトをしなければならなくなる。それは大きな世界的な損失となろう。とりわけ日本にとって敗戦以上の惨禍となろう。

例えデフォルトが行われても、それは政府借金がご破算にされるだけであり、民間はいつまでも返し続けなければならないのだ。デフレの低付加価値の中での借金返済は悲惨を極めるであろう。日本はいい時代を知っているだけに悲嘆が世を覆うことだろう。


これを阻止するためには、すなわち借金を返すためにはできるだけ多くの企業が必要であり、それらが黒字になる必要がある。一部の輸出産業だけではこの借金は返せない。

TPPへの参加は、デフレ状態の日本では、多くの内需型企業の廃業、倒産、が起こり、各地の地場産業が消滅する。これ以上の企業淘汰は、借金を返せなくなることを意味する。

国内の低所得化は、低賃金国からの労働者の流入によりさらに進むだろう。それは消費をさらに減退させ、内需産業を圧迫し、低価格の輸入品がますます増え続けるであろう。多くの企業や産業の淘汰は日本の衰退を早めるのである。

国内企業の衰退は、輸出産業の母体をも揺るがしやがて、輸出産業自体が国内生産できない状態に至るであろう。その時がデフォルトの時である。


よく労働者が増えれば生産性が上がり経済が活発になるという主張を時折見かけるが、それは間違いである。低賃金国からの労働者は、本国に仕送りをするため、所得が総て消費に使われず、その経済的な作用は、デフレを促進する方向に働く。
http://www.eonet.ne.jp/~hitokotonusi/teraxBLG/blg-hiduke.htmlデフレと日本の移民政策参照)

生産量は増えるが、仕送りするため、国内の消費が常に生産量以下になり、所得が減退していく。労働生産曲線は右下がりを描くのである。

バブルの崩壊後名目GDPが低下している。これは労働生産曲線が右下がりであることを証明している。
このような場合、労働者が増えるほど所得が減少するのである。

世界化した輸出企業は国内に引き留めようとしてもいずれ最も生産に適したところへ移動することだろう。

しかも輸出産業が稼いだ国内への還流資金は、国内市場に流れず、市場の資金は増えない。輸出産業と内需産業の格差が激しくなる。政府はこれを是正するために、消費税を輸出産業に掛けたり、還流資金を国内市場に回すための算段を付けなければならない。

しかるにTPPはこの流れに明らかに逆行するものである。

現在の民主党政権は、輸出産業の味方であり、内需産業をを無視している。


交易の比較優位説は、経済が正常な国どうしの貿易において成り立つものであり、デフレ国と、正常国、あるいはバブル国と正常国などとの取引では、前者はデフレ国が不利になる一方であり、後者はバブル国が有利になる一方である。

デフレ国は、付加価値が常に正常な状態より少なく貨幣で評価され、逆にバブル国は、付加価値が常に正常な状態より多くの貨幣で評価されるからである。


これは南北格差がなかなか解消されないことや、ヨーロッパとアフリカ諸国との貿易がいつまでも富がヨーロッパに片寄ることからも明らかであろう。

TPPの推進者は、日本のファンダメンタルが未だに正常な最強の産業経済基盤を持つ国だと思っている。

最強の産業経済基盤を支えるためには、最強の消費者が必要なのである。しかし今最強の消費者は日本にいない。

TPPへの参加は出来る限り遅い方がよい。デフレを解消してから参加するべきである。今はその時ではない。軽々に、半可通の評論家や、新聞などの軽挙妄動に乗ってはならない。


これ以上の内需産業の衰退や、淘汰、消滅は、1千兆にも及ぶ借金を返す担い手を失うことになりデフォルトせざる負えなくするだろう。
デフレからの脱出の糸口を潰えさせる可能性の高いものである。。

またTPPの参加に国内の消費が増える要素は見当たらない。消費が増えるものが何もない。それはデフレの解消に程遠いものということである。

農業だけの問題ではないのである。バブル崩壊後日本の産業基盤が揺らぎ、衰退している。日本の産業経済基盤の根幹を覆す大問題なのだ。


デフレの問題を解消せずにTPPに参加すれば、より早く日本を没落させることになろう。取り返しがつかないであろう。

現民主党政権は、経済状態をまともに分析できていない。やるこなすことが、1970年や80年代の良いころの経済状態を基礎にした政策ばかりである。
非常に危険な内閣と言えよう。

一言主





2010年12月13日

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