作品制作過程

第 72 回日本伝統工芸展出品作品、 糯糊堰出友禅着物「曉」 の制作過程です。

1,琵琶湖でのスケッチを基に、実際の着物の寸法を厳密に縮小した図案を作成します。 朝日が昇る湖面を右側に、影の部分を左側に、葦のシルエットを手前に配し、 湖面の漣を近景から遠景に大小をつけて描き分け、湖面が煌めくように表現しました。 何度も推敲を重ねて図案を決定します。
2,作品の仕上がりを大きく左右するのが、生地の選定です。この作品は湖面の漣が自然に出るように 「白山紬」を選びました、とても張りがある美しく強い生地で糯糊防染(もちのりぼうせん)に適しています。 実際の仕立て上がり寸法に生地を裁断し、仮仕立てをした生地に青花(あおばな)で下絵を描きます。 青花は、昔は露草を絞って和紙に浸み込ませた本青花を使っていましたが、生地に残留する可能性があるので、 現在は化学青花を使用しています。図案に基づき正確に下絵を描きます。
3,下絵を描き終えると、仮仕立てをほどき、反物に戻しポールにしっかり固定します。糸目糊(いとめの り)は大変防染力が強い糯糊(もちのり)に亜鉛末(亜鉛の粉末)を入れ、よく蒸してから少し石灰を入 れます。細い先金を付けた筒に糸目糊を入れ、生地の下に机を置き、下から電気をあて下絵に沿って糊糸目 を置きます。波は表現が柔らかくなるように点連糸目にします。
4,朝日によって湖面が煌めく様を写し糊で表現します。 写し糊は、防染力の強い糯糊(もちのり)に、染料を溶 かし込み、細い先金を付けた筒に入れ、一つずつ糊置き をします。蒸しをして糊を洗い流すと染料が転写されま す。この作品の場合は、2 色の写し糊を使いました。
5,葦の糸目糊、波の点連糸目、写し糊など全ての糊を 置き終えると、生地裏から霧吹きし、乾いたタオルで裏 からしっかりふき取ってから、電熱ですばやく乾かしま す。これにより青花が完全に消え、糸目糊がしっかり生 地に定着し、これからの作業によって糸目糊などがふや けることはありません。
6,図案で白く見える部分を全て糯糊で伏せます。この 場合完全に防染され、又糊が割れないように 2 種類の糯 糊を使用し、挽粉(ひきこ)でコーティングします。 これは「糯糊堰出友禅(もちのりせきだしゆうぜん)」 という技法で、文様以外の部分を全て糯糊で伏せて染 め、染料を定着させてから糯糊を洗い流すと、文様の 輪郭が全て消えてなくなり、糯糊によって防染された 部分が生地白になり、文様が生地白の中に浮かび上が ります。「生地白で描く友禅」とも言われるように、白 く残した部分の鮮烈な存在感が、文様や色彩を鮮やか に引き立てます。
7,糯糊が完全に乾いたら、生地裏から水を引き、「蒔糊 (まきのり)」を施します。蒔糊とは糯粉(もちこ)に 糠(ぬか)と塩を加え、蒸して良く練りこれに亜鉛の粉 末を混ぜてよく練り、更に炊き上げます。この糊を竹の 皮の外面に均等に薄く延ばし、天日の下で三日程完全に 乾燥させます。 乾いた糊片を細かく砕き、幾種類ものふるいを使って 様々な大きさに分けます。この細かな糊粒を水を引いた 生地に蒔き、定着させて染め、糊を洗い流すと細かい点 描ができます。
8,蒔糊が乾燥したら、ふのり液、豆汁(大豆をふやか して擦って漉した液)などで地入れをし、全ての糊を完 全に定着させてから地色の紫を刷毛で引き染し、一旦蒸 をして染料を定着させます。 さらに染めた地色の部分に糯糊を置いて防染し、葦と漣 だけが残るようします。シールを貼ってあるのは、伏せ る部分を間違えないための目印です。
9,糊がしっかり乾燥したら、ふのり、豆汁などで地入 れをし、葦と漣の部分を黒で染めます。黒染は大変難し く、染料を溶かす濃度を厳密に計ります。
10,黒を染めた後、蒸をして染料を定着させ、流水の中 で糊や余分な染料を洗い流します。 黒く表現された漣の中の蒔糊が取れた点描の中に、臙 脂、黄、グリーンなど5色を彩色します。この作業と写 し糊、蒔糊により朝日に煌めく湖面が表現できます。 3度目の蒸をして、染料を定着させ水洗いをします。 これで全ての加工が終了し、湯のしをして生地幅を整え 着物の状態に仕立てます。
糯糊堰出友禅着物「曉」
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